夫婦喧嘩
事件の経過及び影響について
当日は各自疲労が激しく、帝都到着後すぐに解散。1日の休息を挟み翌日、事件の概要を一部伏せて治安維持隊へと報告。被害者及び被疑者死亡にて本事件は皇女権限をもって捜査終了。
闘神発生については、住民の不安およびリックの高密言語についての情報漏洩を危惧し、隠蔽。事件は闘神信仰者の暴走として処理。
回帰主義。
現在および過去の文献等調査するも存在及び目的は不明。『海』への帰還が目的との事だったが手段等不明。今後、継続的な調査要。
闘神。
なぜ祈りによって肉片が活性化し、発生したのか、不明。今後、継続的な調査要。
副作用。
リックはしばらく、吐き気や目眩、また通常の認知、解析力の低下に悩まされたようだ。度のあっていない『眼鏡』をかけたせいだとは本人談。
本調子を取り戻すのに2ヶ月目を要した。運用には細心の注意が必要。
『眼鏡』は今後とも調整するとのこと。
※備考※能力低下に伴う彼の仲裁能力の低下によって、ネイト邸の一部消失。
イーロン家。
今回の件は闘神信仰者の暴走として処理したため、キャレイブ殿及びイーロン家には一定の批判が集まったようだが、闘神信仰者との戦闘においてカルミック殿の活躍を考慮し、本人及びイーロン家には罰則なしを要請し、受理される。戦いによって覚醒したカルミック殿の今後に期待する。
※備考※私と同じく、『眼鏡』を掛けた瞬間、卒倒。3人目の友人と認定。
高密言語の紋様化
理論、概要を聞くも、理解、および再現不可。リックの専門の能力と認定。
交渉により、彼から……
そこまで読み直してから、ミルアージャはふと思い出し「ミルアー団活動報告書」と書かれたノートを閉じる。
そして……
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「……リッくん、あのさ」
「……うん、わかってる」
大学の食堂で、リックとカスガ、そしてフランが食事中、リックとカスガが目を合わせる。
「リッくんが『笛』あげちゃうからだよ。だからしょっちゅうこうやってピーピーピーピー集合掛けるのよ」
「しょうがないだろ……大体カスガのせいでバレたんじゃないか。そしたら欲しがるに決まってるだろ」
「リッくん酷い、まるで私のせいみたいに言った」
「そう言ったんだよ!?」
「そうだとしても、そう言わないのが、紳士でしょ?」
「紳士都合のいい男過ぎだよ!」
同席しているのに完全に蚊帳の外にされながら、フランはマイペースに魚卵ベースのソースを絡めたパスタを口に運ぶ。
多少付き合いが長くなってきたフランは、二人との付き合い方を把握して来ていた。
フランがいても、二人は二人の世界の言葉だけで突然やり取りを始め、そこに介入する余地などない。
つまり二人がこうなったら、ほっとけばいい。
二人は分野は違うが、要はライバルなのだ。片や魔術の天才、片や神学術の天才と言われるが、片方しかいなかったらここまでの存在になっていないんだろうな、少なくともフランはそう思う。
こうやって二人で話しながら、表面上は衝突しながらもお互いを深く信頼し、お互いを高めあっている。
そう、二人はお互いの存在があるからこそ、その能力があるのだ。
二人はお互いの存在で、どんどん成長する。
まるで、夫婦喧嘩のようなやり取りをしながら。
(でも、それはそれとして、食事は落ち着いて摂りたいわ)
まぁ、無理か。犬も食わないなら落ち着いても何も無いわ、そう思いながらフランはパスタを飲み込んだ。
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「今日お集まり頂いたのは、重要な用件よ」
ネイトの屋敷の応接室に、ミルアージャの要請によってリック、カスガ、カルミックが集まっている。
ミルアージャが集合を掛けたときに、学校から一番近いネイト邸に集まるというのは、最早恒例になっていた。
ミルアージャは最近、敬語と普通の言葉が混ざった話し方をする。本人は普通に話したいのだろうが、長い習慣で身に付いたため、なかなか抜けないのだろうとリックは推測する。
ミルアージャの宣言に、カルミックがおずおずと手を上げながら言う。
「あのーなんで僕も? 相続関係でわりと忙しいんだけど……」
「うるさいですわ、なら暇になるようにイーロン家取り潰しちゃう?」
「過激!」
ミルアージャは最近このような事を言う。あまりいいこととは思えないが、勿論リックはわざわざ言わない。
カスガがカルミックにアドバイスする。
「カルミック、『諦める』と『全てを受け入れる』なら、『全てを受け入れる』を選択するのがオススメなの。理由? ちょっとだけ前向きに聞こえるでしょ?」
「諦めて、全てを受け入れるよ。それならプラマイゼロでフラットだね……」
うんうんと頷くカスガと、うんうんと頷くミルアージャ。なんだか二人の仕草が似てきた気がする。
「じゃあ今回我々が解決すべき事件を発表しますわ!」
そうやって嬉しそうに言うミルアージャと、楽しそうにしているカスガ、何だかんだ付き合ってくれるカルミックを見ながら……
この時間が少しでも長く続くように自分ができることをしよう、勿論、自分も楽しみながら。
リックは改めて決意した。
これで第1章は終わりです。完結っぽい雰囲気ですが、たぶんまだ続くと思います。サブタイトルは変更の可能性があります。
このような「なろう」の片隅で書かれてるような拙い話を、読んで頂いたすべての方、特にわざわざブックマークまでして頂いた方、ありがとうございました、お陰でここまでは書けました。
第2章はもう少し固まり次第始めようと思います。
もしよろしければ今後もよろしくお願いいたします。




