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夫婦喧嘩で最強モード  作者: 長谷川凸蔵
第1章・帝都編
34/63

二人の勘違い

 リックは、闘神の最後を見届けていなかった。

 

 術の発動を確認したのち、すぐに眼鏡を外し、カスガと、ミルアージャの方を振り向いた。


 ミルアージャが少しだけ、光景に気を取られながらもまだ祈っている。


 リックも心の中でカスガの無事を祈った。それが奇跡を呼ぶ手段でない、と理解していても祈らずにいられなかった。


 自分も限界だった。少しずつ、二人の方へ歩みより、無事な左手でカスガに触れようとした。が、ミルアージャが両手を前に出し、首を振った。


「ダメよ」


「ダメ⋯⋯って?」


「重大な山場は⋯⋯恐らく越えたわ。でもまだ安静にしないと⋯⋯後悔したくないでしょ?」


「ありがとうございます、皇女様」


 お礼を言うリックに、少し不服そうにミルアージャが言ってくる。


「というかあなた、敬語が抜けないわよね。敬語無しって話でしたわよね? それにお礼を言われる筋合いもないわ。カスガは私も⋯⋯友達なんだから」


 プイッと横を向きながら、年頃の少女然とした不貞腐れた表情を見せたミルアージャに、リックは少し驚いたあと、ふっと笑い


「でも、ありがとうミルアージャ」


 とお礼を繰り返した。


 そして⋯⋯ピクッピクッとカスガのまぶたが痙攣し、目を開いた。そしてぼんやりと、周囲を目だけで確認したのち、リックの方を向く。


「リッくん⋯⋯ごめんね⋯⋯勝手なことして」


 カスガの呟きに、リックは泣きそうになった。でも言うべきことはきちんと伝える。


「許さない。⋯⋯だからもう二度と、今回みたいなのはやめてくれ」


「うん⋯⋯」


 弱々しく呟くカスガを見たら、生きていることを強く実感した。泣いてしまっても、良いと思った。


 でも泣いてしまったら、この砕けた右手の痛みのせいにしてしまおう。そう思った。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


「はい、完全復活ー!!」


 カスガが宣言した。


 カスガは目を覚ましたあと、自分を含め全員をすぐに治療した。


「で、あの化け物リッくんが倒したんでしょ? どうやったの?」


「それは⋯⋯」


 リックが出来事を、順を追って説明する。


 カスガはウンウンと聞いていたが、なにか「ピーン」と気がついたように


「それってリッくんがさっさとその眼鏡出して、片付けちゃえば良かったってことなんじゃないの?」


「えっ⋯⋯」


「死にかけて、損しちゃった。リッくん返して」


「何を!?」


 リックが思わず声をあげ、弁解を始める。


「結構一か八かだったんだって!」


「甘いよ、速攻叩き込め最大火力、今年のスローガンよ」


「どこの!?」


「ウチの村よ。リッくんの家には怖くて伝えられなかったけど。あ、その矛盾の魔術見せてくれない?今すぐ。見せてくれるって約束したもんね」


「無理だよ! ヘトヘトだから!」


「約束守らないなんて、リッくんらしくないよ⋯⋯」


「コイツ⋯⋯」


 二人がそんないつものやり取りをしていると⋯⋯


「おーい!」


 聞き慣れた声がする。全員がそちらを向くと、ザックがこちらへ向かって来ていた。


「お前ら、こんなところで何やってんの?」


 ザックの問いかけに、リックがそのまま返す。


「父さんこそ、こんなところで、何をやってたの?」


「いやー、コニーと喧嘩しちゃってさぁ、走って逃げてたらこんなところに」


「またぁ? ちょっとは控えてよ⋯⋯」


「まぁ、善処する。で、お前らは?」


 リックは出来事の一部始終を話す。


「ほお、闘神⋯⋯どうだ、強かったか? 戦いたかったなぁ!」


「死ぬかと思ったよ⋯⋯どうせなら父さん達がもう少し早く喧嘩してくれたら楽だったのに」


「はは、まぁ良いじゃねえか、俺抜きで倒せたんなら、いい経験だろ?」


 勿論ザックが来たのは偶然ではない。


 ザックの剣『アービトレーション』が闘神を感知し、向かって来ていた。途中で反応が消失したのでまさかと思いつつ近付いて見ると、リック達がいたのだ。


(しかしまさか闘神をやっちまうとはな)


 そして四人を頼もしげに見て、思う。


(コニーに早く伝えないとな、俺達の『選択』は、間違って無かったんだって)


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 帰りの馬車の中で、ふとリックは行きの馬車での考えを思い出した。


「ねぇ、カスガ」


「ん、何? リッくん」


 カスガがこちらを向いたのを確認して、リックはゴソゴソと胸の内ポケットを探る。


 ポケットの中の物を探り当てて、取り出した。


 それは魔鉱で作られた、美しい櫛だった。高密言語の紋様が全体に彫られている。


「なにこれ⋯⋯櫛?」


「ほら、最近言ってたじゃん、毎日だと、面倒だって」


「⋯⋯言ってた? 私が?」


「言ってたじゃん! 髪とかして来た日! 任せてって言ったから頑張って作ったのに!」


「⋯⋯あー、お願いしたかも!」


「良かった! 思い出してくれて!」


(それ、違うんだけどなぁ、まあ良いや)


「本当は、行きで渡そうかとも思ったんだけど、ほら、なんか空気が結構深刻だったし、形見みたいな雰囲気になっても嫌だったからさ!」


「うん、あそこで渡されたらそう思っちゃうかも」


 と⋯⋯


 リックがカスガの頭に左手を添えた。カスガは一瞬そちらを見て、次に右手で持っている櫛を見た。


 リックが、カスガの髪に櫛を通すと、櫛は紫色に輝きながらカスガの髪をとかす。髪がするすると(ほぐ)れ、金色の髪が、紫色に光る櫛との見事なコントラストを見せたとき


 カスガは、自分の勘違いを、唐突に、理解した。


(ああ、そうだったんだ。私がリッくんを独占するとかしないとか⋯⋯そんな事じゃなかったんだ)


 紫色に輝く櫛が、あの笛を渡された日を思い出させる。


(もう、あの笛を渡された日に、とっくに、私が⋯⋯リッくんに⋯⋯)


 リックを見て、急に恥ずかしくなる。でも、今思った事、上手く言えるだろうか。


 そんなカスガの心境などわからないまま、リックが告げる。


「やっぱり、こうした方が、良いよ」


「あのね、リッくん、あの」


「この方が、モテるって!」


(あ?)


「前も護衛のハナムさんだっけ? 髪とかしてたらリアクション違ったじゃん?だからこれでさ⋯⋯」


 カスガの顔色の変化にも気が付かず、リックがモテるってを連呼する。


 カスガはリックから櫛を奪い取り、馬車の外に投げた。


「ちょ!? 何すんの!?」


「リッくん黙って」


「結構頑張って作ったのに!」


「そんなに使って欲しい?拾ってきて、ポ⋯⋯リッくん」


「今ポチって単語飲み込んだよね!?」


「じゃあ吐き出しちゃお。ポチ、ゴー」


「やだよ! もう!」


 そういって不貞腐れるリックを、カスガはじっと見つめて。


「やり過ぎちゃった⋯⋯ごめんなさい⋯⋯嬉しくて、照れ隠しでこんなことする女、めんどくさいよね、ごめんね、リッくん」


「⋯⋯次はないぞ! もう!」


 そういってリックが馬車を飛び降りる。


 そんな二人を見ながら、カルミックが小声で、ボソッと呟く。


「まるで、夫婦喧嘩⋯⋯だね」


 カルミックの呟きが聞こえたミルアージャは、誰にも聞こえないほどの小声で


「セヤナァ」


 と微笑んで、同意した。

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