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夫婦喧嘩で最強モード  作者: 長谷川凸蔵
第1章・帝都編
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呪い

 カスガは、後悔していた。自分の迂闊さを。


 目の前の存在から感じるのは、私が足手まといになり、リックを殺す。そんな確かな予感がある。


 いつもリックが、こうすべきだと提案することを、自分の感情を優先して来た。


 でもリックがそれをいつも、解決してくれたから、今回も自分の感情を優先してもいいんだという、とんでもない勘違いをしてしまった。


 後悔しているのは、ミルアージャもカルミックも同じだろうと思った。この場を生き残ることができるのは、リック一人だろうという確信めいたものがある。


 ただしそれには条件がある。私たちを、リックが見捨てることだとカスガは強く確信した。


 カスガの予想通り、ミルアージャもまだ表情には出さないが、内心は焦っていた。人の上に立つ宿命の元に生まれ、その為の努力は惜しんでないと思っていた。


 だから、なんだというのだ。


 上に立つものだからこそ、判断を誤ることが、誰かを死なせてしまう、そんな当たり前の、努力するまでもないことを、軽んじていた。


 リックが応援の話をしたとき、せめてアルルマイカを呼ぶべきだった。闘神の話が出た時点で、最悪を想定し、行動するべきだった。


 それを一刻も早く恩人を救いたいという、目先の、利己的な思いが、判断を誤らせた。自分のそんな気持ちにさえ上からの俯瞰が必要だったのだ。全体を見通してる気になって、目の前しか見ていなかった。


 そして今、目の前の闘神は……静かだった。


 全身は黒く、頭髪と皮膚の境目さえも目を凝らさないと判別できない。衣服は昨日の夜、覆面の男、つまりキャレイブが着用していた物と同じだろうが、所々が破損していた。


 嵐の前の静けさ、そんな陳腐な例えがまさか現実として目の前に現れるとは思わなかった。なので、せめて嵐が来る前に叫ぼうとカスガは決意する。


「リッくん! 逃げて!」


 リック一人なら、この場を切り抜けられる。死ぬのは勿論ごめんだ、でも足手纏いになってリックを死なせるのは、もっとごめんだ。でも、もう理解してしまっていた。


「逃げない。守ると約束しただろ?」


 リックがそう答えるのを。


 リックなら、そう答えてしまうことを!


 なんて私は、罪深いのだろう!


 なんて私は、傲慢なのだろう!


 あんなに独占しないと、誰にも独占させないと誓ったのに!


 心配して反対するリッくんに無理矢理くっついてきて!


 あんな下らないことをリッくんに宣言させて!


 リッくんに私という呪いをかけてしまった!


 カスガが後悔の言葉と、無意識に涙を浮かべた時、闘神が動いた。闘神の周囲に、障壁が発生する。


 その発生の威力だけで、建物のエントランス部分が崩れ落ちる。リックは咄嗟に防御力場を前面に発生し、闘神の障壁と崩落する建物からカスガ達を守る。


 全員を守る為に、必要以上の力を使った、それがカスガにはわかった。


 次の瞬間、闘神が「認知」を2つに分け、それを合わせて来た。


 2つの認知が別々に解析され、4人に向けられる。闘神が呪文とも何ともわからないような呟きをする。


 一つはリックが反論し、呪文らしきものは効果が発動しなかった。リックは反論後再び認知、解析を行おうとするが、相手の解析のスピードを理解し、認知を絞る。


 自分以外の3人に認知、解析を行いつつ魔力を練る。闘神が再び呟く。


 解析深度の深さから、先程よりも威力の高いであろう術が、発動する。


 リックが反論したが、少しだけ不充分のだったのだろう、カスガ達3人が5mほど吹き飛ばされる。だが致命傷になるような威力ではない。


 リック本人は自分を認知範囲に入れていないので、術の威力がそのまま襲う。練った魔力で障壁を展開し、術に備えるが、耐えきれずに他の3人以上に吹き飛ばされる。


 地面に数度、全身を強く叩きつけられるように転がりながら、15mほと吹き飛ぶ。


 あまりの展開に、他の3人は全くついて行けないが何とか立ち上がり、闘神を見る。


 リックは衝撃で少しふらつきながらも駆け出し、3人の前に戻ってくる。


「皆、逃げろ、引き付ける」


 そう言って練った魔力を腕に集め、闘神に殴りかかる。


「やめて、リッくん! 私たちのことは、もういいの! リッくんが死んじゃう!」


 カスガが叫ぶ。リックの攻撃が闘神の障壁で阻まれ、ギイン!と激しい音を立てる。


 カルミックも自分の無力さを悟る。加勢しようにも、相手の事を解析できない。相手の呪文も反論できるレベルではない、つまり魔術師として、一切役に立たない。


 いつもは超然としているミルアージャも、流石に表情に焦りの色が浮かぶ。その明晰な頭脳で考えるのは、今は得策では無いかもしれない。絶望しか、解答が無いのなら。


 その時カスガがふと


 気が付いた。


 何だ、簡単なことだったんだ。


 闘神の攻撃を受け止めようと障壁を張ろうとするリックを


 トン、と軽く後ろから押す。


 リックは予想もしてない方向から押され、横に体が流される。


 一瞬の時間の筈だか、リックは驚いて振り向き、確かにカスガを見た。いつものようにカスガはじっとこちらを見ていた。


 そして、一瞬の事なので声は聞こえないが。


「死なないでね」


 と笑顔で、確かに言った。


 闘神の攻撃が、カスガの腹部を削り取った。結ばれた髪を(ほど)きながら。


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