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夫婦喧嘩で最強モード  作者: 長谷川凸蔵
第1章・帝都編
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祈るものたち

「闘神……」


 そう呟いて、カスガはゴクリと唾を飲み込む。その音が自分が予想していたよりも大きく鳴ってしまったことに驚いて、慌ててお茶を口にする。


 「過去記載のある歴史上、『闘神』が登場するのは3回、そしてその全てで多大な犠牲を生み出しているわ。4年前のネリア王国との戦争でも、戦場に突然発生し、帝国兵は2000人もの犠牲者を出したわ。アルルマイカが4時間応戦して、撃退したらしいです。倒し切れはしなかったようですが」


 ミルアージャが過去資料で見たことをそのまま説明する。


 「『ロットマイル禍』と呼ばれています。王国下級兵ロットマイルを媒介して現れたと言われてます」


『闘神』の出現は人智が及ばない。大陸に住む生物を媒介して突然発生すると資料にはあったがその真偽は不明だ。


「それで……今お父上は?」


 ミルアージャも内心は穏やかでは無いだろう。だがこれ以上はカルミックではなく本人に聞いた方が良いと判断し尋ねる。


「数日間帰ってきておりません……そして……先程申し上げた肉片もその日から所在が不明です。数日間家を開けることは珍しくは無いので……ただ、肉片が家に無いのは……」


「心当りはありますか?」


「イーロン家の別宅が帝都より2時間ほど離れた場所にあります。私の曾祖父が当時の皇帝陛下から賜ったものだと……」


「それなら場所はわかります。リック、カスガ、付き合っていただいてもよろしいですか?」


 そう言ってミルアージャが二人を見る。


「勿論構いませんけど、他に応援などは頼まないのですか?」


 リックがミルアージャに確認する。


「キャレイブ殿は私の特性をご存じです。つまり昨日目が合ったことで私と気がついたなら、あちらも私が気がついたことを理解しているはず。何を企んでいるのかはわかりませんが、カルミック殿の話が本当なら時は一刻を争います」


 昨日の夜の内に、訪問を強行すべきだったとミルアージャは後悔していた。後手後手に回っている感が否めない。犯人をあまり刺激せず交渉した方が、失踪した神学者達を危険な目に合わせないだろうと思ったが、闘神に関わることなら事態は思った以上に深刻だろう。


「あの、私も連れていって頂けないでしょうか、イーロン家の者として、事態の推移を把握したいのです!」


 カルミックがミルアージャに詰め寄る。


「……場所はわかりますが、行ったことは無いので案内があれば助かります」


ミルアージャはダンスの誘いに応じるかのように、優雅に答えた。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 馬車で別宅へと向かう道中、リックはカスガを説得していた。


「危険だ。君は残るべきだ」


「やだ! もし誰かが傷つくような事態になったら私が治療するの! 拐われた人たちも病気や怪我の可能性があるし、それに危険だから残るんなら、それはミルアージャが最優先よ!」


「そうだね。僕と彼だけでいい。君らは残るべきだ」


「……やだ」


 そう言ってカスガはリックの目をじっと見る。リックは心が揺らぐのを感じるが、強く意思を持ち言う。


「今回だけは、譲れない。事態は深刻で、先が読めない。君に何かあったら、僕は、僕が許せない」


「同じだもん」


「同じ? 何が……」


「リッくんに何かがあって、私がいれば助けられたと後になって解れば……私は私が許せないもん。だから、譲って貰うもん。リッくんを嘘つきにはしたくないけど、それに……」


「何?」


「私が知ってるリッくんなら『何が起きても二人は守る』そう言ってくれると思ってるもん」


 そう言って、またリックの顔をじっと見る。


 僕の決意なんて……すぐに揺らぐんだ、君にじっと見られるだけで、そう思いながらもリックは溜め息をつき、カズガを再度見て


「なにがなんでも、何が起きても、二人は守るよ」


 宣言する。


「それでこそリッくん!」


 カスガがうなずきながら言う。


「期待してますわ」


 ミルアージャが微笑みながら言う。


「僕が入る枠があるなら……お願いするよ」


 カルミックが場を和ませるように言う。


 リックはその時、ふと思い出した事があったが


(後にしよう、今だとなんか縁起でもないし)


 そう思い、前を見据えた。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 4人は馬車を強行し、帝都を出て一時間半ほどで別宅に到着した。


 当時の皇帝に賜ったというだけあり、別宅は豪華な造りだった。2階建ての建物で、帝都ではなく郊外にあるからだろう、白亜の大理石で造られ、レンガ造りに慣れた目には白に輝くその邸宅は帝都にはない美しさを感じた。


「キャレイブ殿と書斎で密談をしていた者、もしかしたら『闘神信仰』の者かもしれません。闘神信仰自体、神の奇跡ではなく力を望む者達なので、可能性は高いと思います」


 ミルアージャが道中推測していた。力を望むような者であれば、手段は問わないだろう。


 カルミックが邸宅の鍵を開け、扉を開く。一階の広いエントランスが見えた時……


 すぐに4人は異変に気がついた。


 開けて最初に聞こえてきたのは、祈りの声だ。複数の祈りの声が、広いエントランスに木霊している。


 その祈りの主達は、エントランスの中央にいる。


 祈りの主達の前に、一人の男が立っている。リックはキャレイブだと思ったが、違った。男はエルフのようだ。マスクをし、顔は見えない。ただ異様な光景を、静かに眺めている。


 祈りの主達は……元は人間なのだろう。


 繋がっていた。


 あるものは、上半身を。


 あるものは、腕と顔のみを。


 顔しかない者もいる。


 黒い2mほどの、グジュグジュと音を立てながら蠢く球体から、生えるように繋がって、祈っていた。


「ち、父上……」


 黒い球体から生えてきている人間のなかで一番原形を留めているのが、キャレイブだった。


 エルフの男が、振り返る。


「もう、遅い。間もなく生まれる」


 そう言って、また球体に目を戻す。


 リックは認知を男に向け、解析しようとする、だが球体の周囲が不自然に認知を歪め、解析ができない。


「あなた、闘神信仰者ですか?」


 ミルアージャが男に問いかける。


 男はこちらを向き、問いには答えず聞いてくる。


「君たちは、祈りとは何だと思う?」


「奇跡を起こす……手段でしょ?」


 カズガが間髪入れずに、答える。


 その答えに男は皮肉げに笑ったのだろう、マスクをしているため口元は見えないが、目が面白がるようにカスガを見ていた。


「奇跡ね……君たちにとっては負債、我々にとっては福音……と言ったところか。あの男はそうかも知れないがね、私は闘神の信仰者などではない。ただ……帰りたいのだよ。回帰主義者とでも言おうか。彼らは」


男が球体を指差して続ける。


「もう、死ぬ。だが祈りで死に抵抗してるんだ。自らの体を祈りで治療しながら、痛みを中和している。哀れだろう? 祈らなければすぐに死ねるのに。もう自我も無いのにただ祈っている。人の業だと思わないか?」


 男が笑いながら言う。


「何が目的だ?」


 リックが問いただす。


「目的……? だから、言っただろう。『回帰』だよ……『海』への。君たちの祈りとは」


 男が手を広げながら、話を続ける。


「奇跡を実現する、ただ君たちは無料(ただ)だと思っているのかも知れないが、神……としようか、神は奇跡と引き替えに『ちぎって』いるのだよ、自分自身をね。君たちは奇跡を受け取る代わりに何かを差し出している自覚は無いのかも知れないがね」


「何故、何故、父を!」


 カルミックが叫ぶ。


「愚かな男だ。戦場でアルルマイカが戦った時に切り落とした肉片を隠し持っていた。だから、利用させて貰った、力を得ることができるぞ、とね。これは彼の希望の結末ではないかも知れんが嘘は言ってないよ」


 結局話がよく見えない、見えないなら意味がない、男はまともに話す気などないと結論づけてリックは話題を変える。


「念の為聞くが、彼らを助ける手段は?」


「無いね」


 それを聞いてリックが飛び出す。


 男がリックに「認知」を向け解析してくる。この歪んだ中で、男は正確に解析してくる。


(深い! かなりの深度だ!)


 リックは引き返し、認知可能な場所で止まり、仲間4人を守る為に認知、解析する。


「ほう」


 男が呪文を唱えるのをとどまる。


「やるな、この周囲でそこまで『視れる』とは。だがまぁ、時間切れだ」


 そう言って男は認知、解析を行い、呪文を唱えると


 ふっ……と姿を消す。


(しまった! ゲートか!?)


 リックが気が付くが、そもそもゲート自体が簡単に用意できる者ではないため、頭に無かった。


 その時、球体がびくん、とそれまで以上に揺れた。次の瞬間祈るものたちが地面にズルッと落ち、そのまま氷が焼けた鉄板の上で溶けるように形を失う。


 中から、人が生まれる。いや、人ではない。


 最も原形を留めていたキャレイブと、姿だけは同じだ。


 ミルアージャが城の記録で見た特徴と照らし合わせ、呟く。


「闘神……ロットマイル」


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