質問に質問
のどかな田園風景と呼ぶのも少し憚られるような、小さな村の、さらに寂れた郊外で
「リッくんは、村の外に住んでて寂しく無いの?」
幼い少女が、同じように幼かったリックに聞いてきた。
村から外に出る、街道とも呼べない小さな畦道。
町へ向かう道は、村の中心を挟んで反対側になる。この道の先は村の外れに住む、つまりリックの家族の家にしか繋がっていない。
たまに人為的に引き起こされる災害のようなものを警戒してか、だれも好き好んでこの道に来たりしない。
ただ唯一この少女だけは、リックが帰宅する時に、いつも付いてきてくれた。
当初リックはわざわざ送らなくて良いよ、と断っていたのだか、最近は断らなくなっていた。
もう、小さな二人にとっては当たり前の事になっていた。
恐らく最初は、長い時間を掛けて帰宅するリックに、同情した少女がせめて村の外れまで、と始めたことだったのだろう。
いつも道中、途切れなく話題を提供してくれる少女が、今日は口数が少なかった。たぶん、頭のなかで考えていたのだろう。でも、結局上手く言えなくて、質問して来たのだと思う。
まだ小さな少年だったリックは、その時は、何となく理解していただけだった。
今なら、もう少し上手に説明できる。人に質問するという行為は、当たり前だが相手に返答を促す行為だ。この場合、寂しいか寂しく無いかを答えれば良い。
ただ人は(後に特に女性に多いと気が付いた。母のお陰かも知れない)、自分が話題にしたいこと、聞いて欲しい事が願望として質問という形を取ることがある。母はよく、リックお父さんのどこが好き? と聞いた後に私は~と父の好ましい点の話を延々と続けた。
「カスガは、寂しいの?」
会話としてはおかしいが、そのときリックは質問に質問で返した。
実際リックは、寂しくなんて無かった。
確かに村から遠く離れた場所に住んでいるせいで、村の学校には週一回しか通えないし、頻繁に災害を引き起こす両親のせいで白い目で見られることもある(村から離れて住んでるのも、それが原因だ)。
でも週一回しか通えない学校は、週一回の楽しみと位置付ける程度には前向きだったし、何よりも両親の奇行に頭を悩ませることはあれ、愛情を疑ったこともなかった。
ただ少女から見れば、村外れに家族でひっそり住んでいる、それは寂しい理由になるのかもしれないが……
「う~ん、ちょっとだけ……」
リックにカスガと呼ばれたその少女は、少しつらそうに返事をした。
「やっぱり、その、お母さんのこと?」
「うん、元気ださないとなぁ、とは思うんだけど……」
父に連れられて参列した葬儀で、カスガが亡くなった母親にすがりついて泣く姿が思い出される。
思い返せば、途切れなく出される話題には、母親の話の割合はそれなりに多かった。
カスガの父親は村長で、農作業や村の自治はもちろんのこと、周囲の村との会合などで忙しく、家を開けることが多いのはリックも知っている。
父親は当然傷心のカスガに寄り添いたいと思っているだろうが、それがどこまでできているかは疑問だった。
カスガの面倒をみることの大半は、お手伝いのヨーナが努めているはずだ。しかしヨーナは例えばカスガがイタズラしても、それを強く咎める事もなく差し障りのない対応をするような人物で、善人ではあるがカスガにとっては身内ではない、というのがリックの印象だ。
そう考えればカスガは間違いなく寂しいはずだ。
(ただそれを上手く説明できないんだ、きっと)
とリックは思う。
「リック、カスガちゃんをこれからはお前が守ってあげるんだぞ」
葬儀の場で、ああしろこうしろとあまり言わない父が、珍しくそんな事を言ったのを思い出す。
リックは何時も元気で、笑顔で、自分の両親とも仲の良いカスガに戻って欲しかった。なので、母にあげようと思っていた「とっておき」を、カスガに先に披露しようと考えた。
「これあげる、秘密だよ」
リックはポケットから取り出したものに、魔術で何やら刻み込み、それをカスガに渡した。
「何これ、笛? でもちょっと、ヘン……」
実際、奇妙な笛だった。親指ほどの、魔力を溜めることが出来る「魔石」でできたその小さな笛は、吹き口はあったが笛にあって当然の、息が通る穴がない。
代わりに、奇妙な紋様が全体に彫り込まれている。
紋様は何か規則性を感じさせ、字にも見える。カスガは学校では優秀な成績である程度字も読めるが、その紋様は見たことがなかった。
「何か、考え事しながら吹いてみて」
リックに促され
(何だかヘンなの)
と思いながら笛を吹いた。
当然、音は鳴らなかった。代わりに、紋様が紫に光った。
カスガは驚いて笛から口を離した。でも本当の驚きは次のリックの言葉だった。
「何だかヘンなの、はひどいなぁ、喜ばせようと思ったのに」
カスガは目を丸くして、笛とリックを交互に見た。
その後の説明で、その笛は吹くことで距離に関係なく設定した相手に考えてることを伝える機能があることを知った。
「初めて作ってみたんだ。でも結構難しくてさ、まだ二つしか無いんだよね」
リックはもう一つ同じ笛を取り出し、カスガの名前を刻み込んだ。
リックは笛を口にくわえて吹いた。
(これでいつでも話ができるよ)
とカスガの頭のなかにリックの声が響いた。
「わあ、凄いね」
カスガが久し振りに笑顔になった。
リックは嬉しかった。だからカスガが困ったときはいつでも、自分が力になろうとこの時に決めた。
いつもカスガと二人で歩く、見慣れたはずの道。
先週までは蕾だった花が綺麗な花を咲かせ、いつも以上に美しく見える事に。
その時ふと、気が付いた。