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夫婦喧嘩で最強モード  作者: 長谷川凸蔵
第1章・帝都編
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研究

 レンガ造りの、小屋と呼ぶにはやや大きく、家と呼ぶにはやや小さい、外周は円形の1階建ての建物の中は、机が並べられた事務所になっている。


 帝都治安維持隊のアースト分隊長は、その他の部下たちのものよりやや広く、少し年季のありそうな机に書類を投げながら、部下の提出した書類の内容について呟いた。


「つまり、三人目……ということだな」


 ふわりと舞い、大量に積まれた書類に新たな仲間が加わる。


 維持隊の詰所はワンフロアで、机が7つほど並んでいる。6つの席は2つずつ向かい合い、それぞれをペアとしながら6つが集合して並べてある。


 残りひとつ、独立して存在しているのがアーストが座る席だ。


 帝都治安維持隊は帝国軍の外部組織で、名前の通り帝都での治安維持活動を目的としている。


 治安維持を駐屯軍が兼任する地方とは違い、民間でのトラブル、事件の調査などを行い、容疑者を司法に引き渡す役割を担う帝都専門の組織だ。


 帝都にある7つの区画のうち、第4区画東部を担当しているのがアースト分隊だ。


 提出した部下は、わかりきった事を再度確認するのはいつものアーストの癖だと知っているので、はいとだけ短く答える。


 三人目というのは、最近起きている事件、つまり神学術者の失踪事件だ。管轄内で発生したのは初めての事だったが、事件の傾向は把握していた。


 他の二件の失踪は全て担当地区外で発生しているが、連携を求める書類が各分隊に配られている。


「取り合えず、三人に自分から失踪する動機は無いように思えますね、一人は貸本屋から本を借りたままでした。自ら失踪するなら、せめて本は返却するでしょう」


「ふむ……」


「二人ならたまたま、かも知れませんが同じ神学術者が、三人目となると偶然とは思えません」


 部下の推論に概ね同意なのだろう、アーストが頷いて質問する。


「『黒教』の線は?」


 誰かが事件に巻き込まれた時に、対立する者を想定するのは、犯人推測において常道だ。単純に、動機がある場合が多い。


 帝都の神学術者の殆どが白教の信仰者の為、黒教の事をアーストが持ち出したのは理解できる。


「その場合動機が、やや弱いように感じますね。勿論彼らが自分の神様を早く休めるのに、白教の神学術者に害をなすのが近道だ、と考えたのかもしれませんが。そんな狂信者なら結局イカれてるので、動機は推測が難しいですね」


 否定的に言われても、特に気にした様子もなくアーストは考える。


「あるいは白教に敵対心を持った狂信的な組織でもあるのかな、それかイカれてる個人かもしれんが」


「まあ新興の宗教なんて、生まれてはすぐ消えますからね。『奇跡』を与えない神に、ただ祈るほどみんな暇じゃないのでしょう」


「白黒以外にも、神はいるがな」


「『闘神信仰』ですか?確かに自分が闘神になり、力を得たいという変な奴がいますがそれこそ……頭がどうかしているでしょう」


「まぁ、目に見え、存在する力であることは確かだ。神の奇跡と同じくな、制御はできんが」



 部下の言うことは最もだ。彼は頭がいい。だがそれが可能性の排除に向かうことも多いため、思考にサポートが必要な場合もある。


 とはいえ取り合えずは今はできることの指示をする。


「まぁ結局、動機がわからないなら地道な聞き込みしかないな、近所での聞き込みを強化してくれ」


「わかりました。ちなみに分隊長が『闘神』の力を手にしたらどうしますか?」


 部下の冗談に、ふっと笑いながら


「この書類の山を吹き飛ばすかな」


 と机を指差しながら、うんざりとした表情で答える。


「今でもできるでしょう、吹き飛ばすだけなら」


「まぁ、吹き飛ばすだけならな。闘神なら恐らく、後片付けは不要だ」


「それはそうですね。では聞き込みに向かいます」


「うむ」


 分隊長の希望も虚しく、このあともこの事件に関連した書類は、彼の机に追加されることになる。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 ネイトの屋敷の自室で、リックは高密言語の紋様化の実験を行っていた。


 材料となる魔石や魔鉱は高価なため、それほど大量に用意はできない。ネイトに言えばもしかしたら用意して貰えるのかも知れないが、余り頼りきりになるのも抵抗があった。


 研究ノートをパラパラと開きながら、過去の研究で使えそうなものを今の構想に当てはめていく。


 魔鉱を解析しながら加工し、紋様を刻み、自分の想定する効果が発現しなければ魔鉱を加工し直して紋様を消し、また紋様を刻み直す。


 何度かその作業を繰り返していると


 トントン


 と部屋をノックする音がする。


「はーい」


 実験中の道具をしまいながら、見落としがないか確認してから鍵を開ける。


 鍵を開けると、ベルルスコニが立っていた。ベルルスコニなら隠す必要は無かったな、とリックは苦笑いする。それを見てベルルスコニはリックが訪問を迷惑だと思っているのか心配になる。


「忙しかった?」


 ベルルスコニにへんな気を使わせた事に気が付き、リックは笑顔で


「いや、大したことないよ」


 そう言ってベルルスコニを招き入れる。


「ちょっとね、お願いがあって。作れたらで良いんだけど」


 そう言ってコトンと机の上に魔石を置く。精製されているようで、かなり純度が高いことが見てわかる。


「魔力貯蓄用…だね」


「そう、今は大体貯蓄効率が魔力を10入れて1ってところなんだけど、ロスが多いから吸収効率を上げて欲しくって。せめて5:1くらいにできないかしら?あと、もし出来たら貯蔵量も増やして欲しいんだけど」


 より強力な魔術を使うためだと思ったのだろう、リックが少し怖れるように聞く。


「かあさん、ついに父さんを本気で……それとも世界でも征服する気になったの……?」


「なんでよ、喧嘩には使わないわよ、イチイチ魔石壊してたら家計に響くし。あと世界征服なんて面倒なことしないわよ」


 できない、と言わないところは母らしいとリックは思ったが、家計を心配するならその他の破壊も控えてほしいと同時に思う。


「まぁ、紋様化すればその辺はたぶんクリアできると思うよ。魔鉱ならさらに効果を上げられそうだけど、重くなっちゃうかなぁ。でも珍しいね、お願い事なんて」


「……リック」


 唐突に、ベルルスコニが首に手を回してリックを抱きしめる。


「……どうしたの?」


「お父さんと、お母さんのこと、好き?」


 何今さらと笑おうと思ったが、リックはベルルスコニが少し震えてるのに気が付いて、やめた。首に巻かれたベルルスコニの腕に自分の手を添えて


「当たり前じゃない、どうしたの?」


 それには答えず、ベルルスコニがスッと体を離す。服が皺になっていたのに気がついたのか少し襟元を擦ったあと


「なら、お願いね、期待してるわ。でも急ぎじゃ無いから、夜更かししてまでやらないでね、おやすみ」


 ベルルスコニは笑顔で退出しようとする。何か違和感を感じる。何か相応しい言葉があるんじゃないかと考えたが


「おやすみ」


 結局それ以外なにも言えず、リックは見送った。


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