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夫婦喧嘩で最強モード  作者: 長谷川凸蔵
第1章・帝都編
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秘伝

 カスガが一度寄宿舎に戻り、管理人に外泊許可を取り付けてからネイトの屋敷に到着した時、出迎えてくれたのはベルルスコニだった。


 リックとミルアージャの事を聞くと、裏の屋内運動場にいるとの事で、そちらに向かうと、ベルルスコニも着いてきた。


 それほど長い道のりではないが、無言でいるには気まずい距離。


 カスガがベルルスコニに聞いた。


「ザックおじ様、まだいらっしゃらないんですか?」


「今日到着するんだって、楽しみよねー」


 あちゃー、到着してしまうか、平和もここまでだなとカスガは覚悟を決める。


 運動場に到着すると、どうやらリックとミルアージャが模擬戦を行っているようだ。


 お互い素手で、武器は使用していない。平時では常に武器を携帯しているわけではないので、徒手での模擬戦もよく行われる形式だ。


 その様子を執事、ネイト、そしてもう一人鎧を身につけ、白金色の鉈のような武器を背後に2本背負った大柄の男性が見ている。


 大柄の男は初めて見る顔で、黒い髪、褐色の肌、そして口元から少し飛び出す犬歯で、竜神族だと一目でわかる。


 竜神族は名前の通り元は竜だが、この世界では『海』の頃と違い巨体が存在するのにエネルギーを使うので、人間に転生した存在……と伝承では言われているが、確かなことはわからない。


 ただ彼ら自身はそう信じているし、実際に彼らの戦闘能力は人間に比しても高く、寿命もエルフ程ではないがかなり長い。


 目の前の男も40前後に見えるが、当てにはならないだろう。


 男はちらりとカスガとベルルスコニを一瞥し、またふたたびリックとミルアージャの戦いに目を戻した。


 カスガは耳打ちしながらベルルスコニに


「あの大迫力が鎧着てるような人、誰ですか?」


 と質問すると、ベルルスコニはそれには答えず


「アルおじさん! こっち来てこっち!」


 と大迫力へ向けて話しかける。呼びつけられても、男性は特に気にした様子もなく、こちらへ向かってくる。


「なんだい、ベルルスコニ」


 ベルルスコニのところまで来て、優しく聞いてくる。


(あ、なんか思った感じと違う)


 男は低く、迫力はあるがその反面とても優しく、聞くものに安心感を与えるような声をしている。


「この子はカスガちゃん、リックの幼馴染みなの、とっても良い娘なのよ、でこっちがアルおじさん、とっても強いのよ」


「君の旦那には、いつもコテンパンにやられているけどね、アルルマイカです、よろしくカスガちゃん」


 そう言って手を差し出す。


「よろしくお願いします!」


 カスガが手を取ると、アルルマイカは大木も握りつぶしそうな力を感じさせる迫力の手で、壊れ物を扱うように優しく握って来た。


 さすがにカスガも名前を聞いたことがある。


 三柱の一人、アルルマイカ。


 シュザイン冒険録で、ネイトの次にシュザインの仲間になった英雄だ。


 紹介が済み、ベルルスコニが聞く。


「どう? 様子は」


「うーん、ちょっと実力差がありすぎるね、姫も同世代からは突出しているが、君の息子はシンプルに言うが、とんでもないやつだ。魔術も武術もレベルが違うね」


「なんせ、私とザックの子だからね」


 腰に手を当てて、仰け反るベルルスコニ。


「あの若さでどうやってあれほどの……攻撃や魔術に対してのあの反応速度は、修練は勿論、歴戦の戦士以上に何度も修羅場、死線を潜った、そんな感じに見えるね」


(正解です、さすが三柱)


 カスガは心の中で思う。


 模擬戦に目を向けると、話とは逆にリックが防戦一方に見える。


 ミルアージャが認知、解析し呪文を唱え、リックが反論する。その後ミルアージャが武術による攻撃を繰り出すが、リックは障壁も出さずに難なくかわす。


 まるで生徒に指導を行う教師のように見える。


(ふう、こんなにお強いなんて)


 ミルアージャは感激していた。


 リックは防御しか行わないが、一つ一つの動きが、理にかなっている。


 ミルアージャに魔術や武術を教授してきたネイトやアルルマイカは、勿論二人ともそれぞれの分野で帝国一の実力で尊敬している。


 ただ種族の違い、彼らの特性を生かした戦い方や動きをするので、全てを完全に参考にするのは難しい。


 リックの動きは体格こそリックの方が大きいが、修練をきちんと積み重ねればミルアージャにも体得ができるだろう動きだ。


 ミルアージャが認知を向けた瞬間に超反応で認知、解析を行い、ミルアージャが攻撃を向ければその時の最適解とも言える動きでそれを無効化する、現状はそれの繰り返しだ。


 ただ、ミルアージャは全てを出した訳ではない。本来なら軽々しく出すものでもないが……


 このまま戦っても魔力が尽きるだろう、ミルアージャはリックから3m程離れた場所に立ち止まり、胸の前で指を組みリックに宣言する。


「これが、最後です」


 そうミルアージャが宣言したとたん、リックは違和感を覚える。ミルアージャの気配が希薄になる。


 気配の希薄になったミルアージャにリックがそれまで以上に意識を向けようとした次の瞬間、リックの眼前に拳が飛んでくる。


 かわせない、瞬間に理解する。だがリックにとっては防御は反射だ、理解する前には既に障壁を張っていた。


 ただそれまでと違い、反射によって生み出された障壁は、最適ではなく無駄がある。つまり、手加減がない。


「きゃっ!」


「姫様!」


 執事が思わず声を上げる。障壁のあまりの強力さにミルアージャが吹き飛ばされる。


 ミルアージャが使用したのは皇家に伝わる一般公開されてない神学術、認識阻害だ。


 相手に存在を感じさせ難くする奇跡。


 それ自体は戦闘では攻撃を受けにくくするといった程度だが、それを武術に応用し、できる限り体の揺らぎや動きを抑え、攻撃を繰り出す事で、相手からしてみれば目の前に突然ミルアージャが現れたような錯覚を覚える。


(あれを初見で防ぐとは)


 アルルマイカは驚いていた。


 彼が今とは違い血気盛んな頃、俺を倒したら仲間になってやるとシュザインに言い放ち、倒された技だ。


 吹き飛ぶミルアージャを見て、リックがハッとする。


「カスガ! お願い!」


 カスガが来ていたことに気付いていたのだろう、リックが声をかける。


 よく見るとミルアージャは、魔力で強化していたにも拘わらず手首から折れ、拳が変形していた。


 カスガが駆け付け、祈りを捧げると、いつものように時間が巻き戻るように腕が治る。


「ありがとう、カスガさん。痛みがなければ、自分で治せたのだけど」


 カスガに礼をいい、ミルアージャが立ち上がる。そのままリックの方へ歩き


「ありがとうございます、とても練習になりましたわ」


 そう言って頭を下げた。


 リックは少しやり過ぎたと気まずい思いを感じていたが、頭を下げるミルアージャに返礼が必要だと思い


「こちらこそありがとうございました、最後の攻撃は驚きました」


 そう言って頭を下げる。


「皇家秘伝ですわ、せめて一太刀と思いまして。まさか防がれるとは思っていなかったのですけれども」


「運が良かったです」


「ふふ、そういうことにしておきますわ」


 二人が和やかに話していると……


「おー皆こんなところにいたのか、探したぜ」


 聞きなれた声がする。全員の注目の先に、ザックがいた。


「ザック! お帰りなさい!」


 ベルルスコニが駆け付け、ザックに飛び付く。ザックはベルルスコニを軽々と受け止め、抱き締める。


「久しぶりね、ザック」


 続いてネイトが声を掛ける。


「御無沙汰してます。今回は家族を受け入れて頂き、ありがとうございます」


 ベルルスコニをそっと離しながら、ザックがネイトに礼を言う。


「ザックおじさま! 御無沙汰してまーす!」


 次にカスガが声をかけると


「お、カスガちゃんか、久しぶりだな、しばらく見ないうち大人の女になったな、胸もケツもでかくなっちゃって、男が放っておかないだろう」


 と久しぶりとは思えない最低な発言をする。


「ふーんでかいほうが良いの?」


 ザックに質問が飛んできたので


「そりゃ、男だったら嫌いな奴居ないだろ」


 答えながら振り向きつつ、質問主を見ると、標準サイズの彼の嫁が鬼のような顔で立っていた。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 リック、ザック、ベルルスコニ以外は、全て傍観者となっていた。


 まるで戦場のように荒れ果てた運動場を、それでも必死に二人から死守しようと奮闘するリックを見ながら、アルルマイカは彼の強さの秘密を、理解できた気がした。


 ネイトは、一緒に住むことをちょっとだけ後悔していた。


 カスガは早々に、逃げていた。


 ミルアージャはリックの姿をそれでもしばらく追っていたが、不意に執事を向き


「私、あの方がいいわ」


 と笑顔で言った。


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