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夫婦喧嘩で最強モード  作者: 長谷川凸蔵
第1章・帝都編
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才能

 有力貴族が多く住む第2区画、イーロン家の2階の父親の書斎で、カルミックはガラスの容器を手に持ち、父の『秘密』を今日も眺める。


 30cmほどのガラス容器には、肉片が入っている。


 肉片は常に、わずかに動いている。


 この肉片の不思議なところは、「認知」はできるが、「解析」が一切できない。つまり、魔術を直接、この肉片に発現できない点だ。


 最初カルミックがこれを発見したとき、父は言葉を濁した。でもカルミックには見当がついていた。


 これはきっと……


 ガチャ。


 扉が開き、カルミックの父、キャレイブが入ってくる。


「また、見ておるのか。ここには入るなと言ってあるはずだぞ」


「は、すみません、つい……どうも知的好奇心が刺激されます」


「……仕方ない奴じゃ。まぁ、わからぬでもないが、もうここへは入るな」


「すみません、しかし、お約束しかねます、あまりにもその……不思議なので」


 ふー、とキャレイブが溜め息を付き、言う。


「学校はどうだ。もう4年も通っておるのだろう」


「はっ、年々魔術の実力は上がっていると自負しております」


「ウム……お前には、才能がある。ネイトを超えて、イーロン家初の宮廷魔術師になれる器だとワシは思っている」


「ありがとうございます」


 そう答えながらも、カルミックは心の中で否定する。


(魔術の才能? そんなものは、無い。人間として生まれた時点で……生物としての限界だ……地上の生物が水の中では、魚のように泳げないように)


 イーロン家。


 魔術の名門。


 そう言われて誇らしく思ったこともあったが、今は違う。


 ネイトさえいなければ、という言葉は、裏を返せばネイトがいる限り永遠の二番手と言うことだ。そして少なくともネイトは戦死でもしない限り、カルミックより長生きだろう。


 父が息子の事を才能があると言っているように、きっと父も、祖父に言われて来たのだろう。


 ネイトに追い付き、追い越せと。


 父の期待に答えよう、そう思い、努力もしてきたが、限界を感じていた。


 今日もネイトの推薦で入ったという、あの新入生の解析。


 試そうと思い仕掛けたが、試されたのは自分の才能の無さだった。


 自分はあのレベルに生涯達することは無いだろうと思う。恐らくあの新入生にはエルフの血が流れている。つまり、才能とは、何に生まれるかで決まってしまう。


「父上、我が儘を申し上げてすみませんでした」


「まぁ仕方ない、好奇心もまた、魔術を極める為の必須の才能だからな」


(極めて無いのに、極める為の才能を語る、か……)


 カルミックはもう、父の言葉を素直には受け取れない。それは代々二番手を運命付けられた家系の、呪いなのかも知れない。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


「『知ったかぶり』……かしら?」


「知ったかぶり……?」


 リックがネイトの屋敷の裏手にある屋内練習場で、いつものように魔術や武術のトレーニングを開始してしばらく経った頃、ネイトが様子を見にやって来た。


 休憩を兼ねて、兼ねてから疑問に思っていた、ベルルスコニが認知範囲を拡げても、解析スピードが殆ど変わらない点について、ネイトなら何か知っているのではないか質問したところ、そのように返ってきた。


「そう、知ったかぶり」


「よくわからないな……」


 本人に同じ質問をしたところで、「わかんない、できちゃう」としか答えないのでネイトに聞いたのだが、結局よくわからない。


「そもそもよ。私たちが『認知』とか『解析』って呼ぶもの、それ自体なんだと思う?」


 指を立て、授業のように質問してくるネイトに、同じく授業のようにリックが返す。


「呪文を唱える為の手順でしょ?」


「それだと模範解答過ぎて面白味がないわ。これはエルフの伝承だけど」


「うん」


「そもそもエルフや竜神族は、この世界の住人じゃない。いわゆる神話にある『海』の生き物よ。つまり、別の世界ね」


「別の世界……」


「その『海』からこの世界に移住したとき、そのままでは存在できない私たちエルフや竜神族の祖先は、今より強力な力を持っていた。その力で、自分達とこの世界を、存在可能にする為に作り替えたと言われているわ」


「神話で言えば、神が休む為の準備……だね」


 優秀な生徒の解答に満足したのか、笑顔で頷きながらネイトが先を続ける。


「その結果、私たちは存在する。だからこれは私の考えだけど、『認知』や『解析』は、『海』での世界の見方、捉え方なの。本来のこの世界の見方ではないの。だって、この世界をただ見るなら、目があれば充分よ」


「まぁ、そうだね」


「恐らく私たちの遠い祖先がこの世界に来たとき、『海』での生活様式を持ち込んだのね。この世界では存在の為に肉体が必要なように『海』では存在の為に魔力、そしてそれを使用した認知、解析が必要だった」


「う~ん……」


「でも今、私たちが『海』を見れないように、本来はこの世界を見るのに、『認知』や『解析』は向いてないのかもね。だから私たちエルフの認知、解析は、この世界に来たときより衰えてる…暗闇で本を見続けると、視力が落ちるのと同じね」


「ところで……それが、どう知ったかぶりに繋がるの?」


「せっかちね。まぁ良いわ、きっとコニーは本を行間やページを飛ばして読んでも内容を把握しちゃうの、そしてそれが当たっちゃうのね」


「えぇ……」


「それか『海』の世界の住人のように、この世界を見るほど優れた『視力』を持っているか。人間が目を凝らさないと見えない距離を、鷹があっさり見通すようにね。まぁ結局、本人にしか、わからない感覚なんだろうけど、ね」


「人より視力が高い、ってのはしっくりくるかも。でも結局例え話だから、正解はでないんだろうね」


「ふふ、そういうこと。まぁあなたも眼鏡でもかけてみれば?今よりよく見えるかもよ」


話は一通り済んだと感じたのだろう、ネイトが右手を開きながら上げ、練習場を立ち去る。


(眼鏡……ねぇ)


リックはネイトの話を反芻しながら、トレーニングを続けた。


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