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夫婦喧嘩で最強モード  作者: 長谷川凸蔵
第1章・帝都編
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贈り物

 リックは、朝が好きだ。


 朝の森の澄み渡った空気を意識して吸い込むと、まるで体が浄化され、それに伴い気持ちも澄み渡る──といった理由では一切なく、両親が寝ている時間に早起きすれば、煩わしい思いをしなくて済むという身も蓋もない理由だ。

 なので正確に言えば、両親が起きる前の時間が好きだ。

 両親が寝ている間は、世界はちょっとだけ平和だ、と感じる。

 平和を享受する、なんと贅沢な時間だろう。

 つまり自分の事に集中できる、唯一の時間だ。


 とはいえ今日は週一回の登校日で、朝できることも時間の関係で少ない、リックはいつもよりさらに少し早起きをした。


 このいちばん近い村まで数十キロある、人里離れた山奥での狩猟採集生活の良い面は、何よりも人目を気にしなくて済むことだ、とリックは考える。


 その距離のせいで学校へ通うのは週一回だが、それも良い面としてもいいかもしれない。


 彼は目を覚ますと、衣服を全て脱いで裸になった。


 着替えを用意し、そのまま素っ裸で近くの滝へ向かう。


 滝はなかなかの水量で、彼の幼馴染みに言わせれば「こんなの普通なら首折れて死んじゃうよ?」とのことだったが、リックは気にせず滝で水浴びをすることにしている。


 両親のおかげで、自分が普通ではない、ということはとっくに自覚しているからだ。


 伝説級とも言える力を持った両親が、宮仕えをせずに何故こんなところに住んでいるのか不思議に思い尋ねたところ「お前を伸び伸び育てる為」との事だったが、どうも怪しいとリックは感じている。

 

 それに伸び伸びしているのは、どちらかと言えば二人の方だ。そう思うが、両親が発作のように暴れる以外には、今の生活に特に不満も無かった。


 リックは滝の水を、彼の好きなちょっと熱めの44度くらいまで魔術で温め全身に浴びるのが好きだ。それなりの時間浴びるための工夫がある。


 リックは上空を見上げて【認知】、【解析】を行う。

 

 認知や解析は魔術を使う準備で、術の使用範囲と、範囲内の状況の把握だ。


 どんな凄腕の魔術師であってもこのプロセスは省略出来ない。


 次に呪文を唱え、世界に命令する。

 

 リックの命令を世界が受け入れ、太陽が地上に現れたかのような巨大な炎の塊が滝の上に出現した。


 滝の表面から湯気が立ち込め、周囲に水蒸気が満ちる。


 それを確認したリックは滝へと身を投じた。


 「今日はちょっと(ぬる)いかな、そろそろ水も冷たくなる時期だしね」


 そう言いながら滝浴びを切り上げ、体を魔術で乾かして着替えをしながら、昼食は何にしようか考える。


「魚と肉⋯⋯まあ両方だな」


 まず魚を獲る。目の前の小川に魔術で「命令」し、激しい震動を与え、しばらくするとプカプカと、数匹の魚が浮かんできた。そのうち大きめの三匹を捕獲する。


 次に一山ほど離れた湖の鴨の群生地へ向かい、同じように今度は湖に向けて震動波を発生させて鴨を気絶させ、三匹ほど捕獲する。


 家へと戻り、その後、庭で育てている野菜を少し摘み取り、台所へと向かった。


 魚と肉を手際よく捌き、下拵えしたあと竃に魔術で着火し、捌いた材料を調理する。パンにそれらと先ほど摘んだ野菜を挟んでサンドイッチを作り、学校に持っていく弁当を作っていると⋯⋯


「んー、いい匂いするー!」


 母ベルルスコニが起きてきた。


「その前に、おはようでしょ?」


 起き抜けに、いきなりつまみ食いしようと伸ばした母の手を制し、リックは注意した。


「むう、生意気ぃ、でも正しいわね、おはよう」


 そう挨拶してから、鴨の特に美味しそうに焼けた部分を選び取って素早く口に放り込んだ。


「父さんのも残しておいてよ?」


「わかってるわよ、もう。小姑みたいに朝から色々言わないの」


 そんな自由気ままな母とのやり取りをしつつ、弁当作りを終えて家を出ようとした時、先週登校したときに聞いた噂をリックは思い出した。


 台所に戻り、近くの山で取れた貴重な、赤いリンゴに似たフルーツに、蜂蜜をかけて魔術で凍らせる。本来売って小遣いにしようと思っていたフルーツを使ったことと、荷物が増えたことをちょっと恨めしく思いながら、家を後にした。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 村の学校、教室の中がいつもより少し落ち着きなく感じるのは気のせいだろうか。多くの生徒が扉の方をチラチラ確認しながら少しざわついている。


「おはよう!」


 とリックが入ると、そのざわつきが止まり、今まで以上に視線が集まる。その後


「リックくんおはよう!」


「おはようリックくん!」


「おーす!」


 生徒たちがリックに挨拶を返す。


 リックはキョロキョロと回りを見て、一人の女生徒を探しあて、そこに歩いていく。


「ねぇ」


「ななな、何? リック君」


 声を掛けられた女生徒が、少し慌てたように返答してきた。体調がすぐれないのだろうか、リックは心なしか女生徒の顔が普段より赤く見えた。


「これフルーツの蜂蜜がけなんだけど、良かったら食べて。凍らせてるから、放課後くらいが食べ頃になると思うから。昼にデザートとして食べてもちょっとシャキシャキでオススメだけど」


 そう言って、用意してあった包みを渡す。


 女生徒は少しぼぉっとリックを見てから


「良いの?」


 と遠慮がちに聞いてきた。女性徒の謙虚な反応に、遠慮の必要がないことを示そうと笑顔を浮かべながら、リックが理由を説明する。


「うん、なんか両親が君の家の牧草地帯に迷惑掛けたって聞いたから、そのお詫び。ご両親にも僕が謝罪をしてたって伝えて貰えると嬉しいかな」


 リックが笑顔を浮かべたことが、どう作用したのかわからないが──女性徒がリックの顔をそれでもぼぉっと見続けてきた。


「……」


「ん?」


 ぼぉっとしてる女生徒の顔を覗きこむ。


 彼の切れ長の目に、自分の姿が映ってるのを確認した女生徒は急に


「う、うんうん伝えておくね!」


 と言って顔をそらした。


(うーん、やっぱり体調が良くないのかな、それとも怖がられてる? まぁそりゃそうか)


 そう思いながら、席につく。


 リックからデザートを受け取った女生徒は、受け取った包みを手にしながら周囲を見た。周囲から送られてくる羨望の眼差しが心地よかった。


 彼の両親の破壊活動が、被害者宅の親はともかく、そこに住む女生徒にとってリックと話す良いきっかになることから、彼女たちはそれを「破壊神の贈り物」と呼んでいる。


 そんな中で一人の女生徒が、表情を特に変えることもなくその様子を見ていた。


(まぁ、私の貰ったものには全然及ばないけどね)


 そんな事を考えながら。

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