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夫婦喧嘩で最強モード  作者: 長谷川凸蔵
第1章・帝都編
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皇女ミルアージャ

「何かねー、変な顔すんの」


「変な顔って?」


「こういう顔」


 カスガが……下唇を噛み締めながら、上目遣いで睨んでくる。


「うわっ! 何その顔」


「知らなーい、本人に聞かないとわからないかなぁ」


 一緒に通学しようとカスガがネイトの屋敷を訪ね、学校までの道を歩きながら話してくるのを聞きながら、リックはミルアージャについて知っていることを思い出していた。


 皇女ミルアージャ。十五歳。


 リックやカスガの二つ下の世代である。


 ノスト大学の入学者の平均年齢が十八歳である事を考えれば、皇帝の娘という贔屓目を抜きに考えても、優秀であることが伺える。


 事実彼女は初代皇帝シュザインと同じく、神学術、魔術、そして武術すべてにおいて高い適正を持つとのことだ。


 皇帝は入学式の演説で「娘だからと特別扱いせず、できればよい友になって欲しい」と言ったが、それを額面通り受け取り、実行できる人物はなかなか居ないだろう。


「いや、皇帝陛下もああ仰ってたし、ほら、ネイトさんも色々気にしてるっぽかったから、結構話かけてるんだ、そしたらいきなりさっきの顔するの」


 カスガは勿論、額面通り受け取る。それが天然なのか、確信犯的に相手の言葉を利用するのか……リックはどうも後者のような気がしている。


 話をしているうちに、学校へ到着する。


 ノスト大学。


 帝都に存在する他の建物同様レンガ造りの建物で、帝都内では皇居である城に次いで二番目の敷地面積と規模を誇る。


 帝国内に存在する唯一の大学で、神学術、魔術、武術は勿論一般的な学問を習うこともできる。


 それぞれの分野のスペシャリストを育てるのが主な役目だが、希望すれば自分の得意分野以外も習うことが可能だ。


 何年制といった決まりはない。特定の分野のスペシャリストとなれば、本人の意思で何年目でも卒業可能だ。平均在学期間は二年。


 逆に自分が満足できなけれ、何年でも在籍できる。


 研究成果を上げ、有用なものと認められれば国から報奨金も発生する。


 そもそも教育に対してそれなりのコストを掛けることが必須となるため、奨学留学生を除けば通うものは有力貴族や商人の子弟などに限られる。奨学留学生なら学費は掛からないが、優秀な人手を取られること自体がコストとも言える。


 二人が門を潜ろうとしたとき、一台の豪奢な馬車が門の前に付けられた。中から一人の少女が降りてくる。


 ストロベリーブロンドのウェーブがかった髪を、丁寧に編み込みながら後ろで纏めている。


 大きな瞳は、緑に青のグラデーションがかかっている。


 聞いてた特徴と同じだ。あれが……


 見ていると、彼女の回りに数人の生徒が集まる。


「ミルアージャ様、おはようございます」


「おはよう」


「ミルアージャ様、おはようございます、本日もお美しゅうございます」


「おはよう、ありがとう」


「ミルアージャ様、おはようございます、今日の髪もよくお似合いです」


「おはよう、ふふ、ありがとう。髪結い士に伝えておくわ」


 次々と挨拶し、追従する生徒たち。


「凄いな……女性を褒めるための単語、今日一日でマスターできそう」


 少し離れたところから様子を伺い、そう思わず呟くリックにぴくん!と反応し、


「じゃあリッくん、練習、練習!」


 ん、と自分の顔を指差してカスガが言ってきた。


「え、えーと……本日も……髪……はボサボサ……じゃないや……えーと」


「もういい! リッくんのバカ!」


 二人が話していると……


 気が付くと、ミルアージャが二人の横に立っていた。


「わぁ! あの、おはようございます、はじめまして、本日も美しかったり素晴らしい髪形ですね」


 リックが慌てて言うと。


「おはよう、はじめまして、ありがとう」


 そう言ってミルアージャがリックの顔をじっと見る。


(この方が、ネイトの推薦で入学する方……よね。かなりの魔術の使い手だとあのネイトが言うくらいだから……優秀な方何でしょうけど)


 ミルアージャは抜群の記憶力の持ち主で、今年入学の生徒、奨学留学生含め百三十人全てを記憶している。彼女は一度会った人間を忘れない。


 彼女がリックの顔を見ていると……カスガが申し訳なさそうに声をかけてくる。


「あのぉ……ミルアージャ様、大変申し訳ないのですが……お支払頂けますか?」


「…………? 何をお支払すれば?」


「リッくんの顔見とれ税です」


「そんなのないよ!?」


 リックは慌てて振り向いてカスガの顔を見る。


「え? よくリッくんの顔ジロジロ見る集団いたでしょ? あれ見とれ税納税者達の集会よ?」


「ええっ!? 男もいたよ!?」


「リッくんの顔は性別の向こう側なの。村の出納帳にも、キチンと記載があるんだからね」


 嘘つけ! と思わず叫ぼうとしたが、ふとミルアージャをそのままにしていたことを思い出して振り向く。


 すると……


 上目遣いで、色が変わるほど下唇を咬み凄い形相でミルアージャがこちらを見ていた。


「うわっ!? あ、すみません、カスガが変なこと言って……」


 それには答えず、ミルアージャは歩きだす。その背に向けてカスガが……


「あのー見とれ税……」


 リックは急いでカスガの口を塞ぐが、聞こえたのか、ミルアージャがピクッと止まりぷるぷると震えている。が、そのまま歩き出した。


 しばらくして……


「絶対君が怒らせてる!」


「え? 誰を?」


 リックがカスガに注意していた。


「ミルアージャ様だよ!」


「えーっ、怒らせるようなこと言っちゃってた?」


「皇女に納税させようとするのは恐らく帝国史上初だよ!」


「初めて言われたからって何でも怒ってたら、赤ちゃんなんて怒りっぱなしじゃない?」


「物によるんだよ! 皇帝陛下が特別扱いするなって言ってたから我慢してるだけで!」


「そうなのかなぁ……まぁ気を付ける感じってことで」


「頼むよ……」


 リックは大変な学生生活になる予感がしていた。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 二人から離れたミルアージャが、振り向く。


 リックと話してるカスガをちらっと見て


(やはりあの娘……要注意だわ……)


 また前を向き、歩き出した。



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