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夫婦喧嘩で最強モード  作者: 長谷川凸蔵
第1章・帝都編
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反論しないで

 リックは回想を打ち切って、デュラーン卿の目を見て言う。


「まぁ両親のことは良いです。そして申し訳ありませんが僕もカスガも、協力はできません……その上で1つ聞きたいことがあります」


「なんだね?」


 これを聞けば踏み込むことになる──そう思いながらリックは聞いた。


「本当の計画はなんなんですか?」


「……? さっき説明した通りだが」


 疑われるのは心外だ、と露骨に態度に表してデュラーンは言った。


「それだと説明がつかないことがあります」


 リックは最初に酩酊させ、今も倒れてる男を指して続けた。


「彼は『本当の帝国の馬車は接収する』と言った。それは言葉通り馬車だけを取り上げるという意味ではなく、襲撃して奪うんでしょ? あなたたちが帝国の人間に容赦するとは思えないから恐らく、──殺害して」


「だとしたら?」


「その後仮に……僕らがそちらの申し出を受けようが受けまいが、正しい御者が帰って来ないことに、帝国の調査が入るでしょう。そしてあなた方との関与が疑われたら、カスガも、拘束されるかもしれない。下手すれば死刑だ」


 リックの指摘に多少感心したように頷きながらも、デュラーンが訂正する。


「なるほど。だが我々は中央の情報がほしい以上の動機がない。カスガさんが死ぬことに、なんのメリットもない」


「そうでしょうか? 奨学留学は一部の人間の批判対象にされています」


 事実、奨学留学は優秀な人材を地方から帝都に吸い上げるシステムだとして、批判されることはある。特にカスガのような地域の医療行為を将来担うような人材の場合、地域によっては死活問題だ。


 多くの留学生は卒業後、帝都に残って栄逹の道を選ぶ。


「もしカスガが拘束され、死刑になってしまった場合、あなた方は奨学留学への批判と共に、地域の優秀な人材を簡単に処刑にする帝国への憎しみを煽ることが出来ますね?」


「なるほど、面白い理論だ。いや、失礼。我々の計画は説明した通りだが、カスガさんが危険になることに関しては確かに、配慮が足りなかったな。申し訳なかった、素直に詫びよう。ブラース老、『赤』の狼煙を」


「はっ」


 ブラースが魔法によって赤の狼煙を上げる。暫くしてカラカリ街道方面のやや遠い所にも同じように赤の狼煙が上がる。狼煙が連続して上がるのを確認してからデュラーンが口を開いた。


「赤の狼煙は作戦中止を意味する。襲撃は夜を予定していたので、帝国の使者は無事だろう。山賊に襲われでもしてないかぎりね」


「……」


「まぁ君達は帝国の使者と合流して、我々と戦って逃亡したとでも説明すればいい。疑われても、あの屋敷が闘いの証拠となるだろう」


 リックが破壊した家屋を指差しながら、デュラーンはさらに続ける。


「馬車はそのまま合流するまで使ってくれたまえ、その後回収可能ならこちらで回収する。以上で良いかね?」


「……ダメですね」


「何? 何かほかに不満でも……」


 デュラーンの返事を待たずに、リックはデュラーンの懐に飛び込む。虚を突かれながらもデュラーンは反射的に魔力を練る。


 リックが魔力を込めた右手で、心臓に正確に抜き手を繰り出して来たのを見て、練った魔力で左手に防御障壁を張り、攻撃を受け止めようとする。腕が弾き飛ばされ、ゴキン、と鈍い音がした。


 リックの抜き手は障壁で辛うじて軌道が逸れたが、それでもデュラーンの右肩に突き刺さるほどの威力を見せつつ、そのままデュラーンを地面に引き倒す。


「なっ、何を……!」


 痛みに顔をしかめながら仰向けに地に伏したデュラーンは抗議するが


「グッ!」


 刺さった手を肩から素早く抜いて立ち上がったリックに、今度は傷口を踏みつけられ、言葉を飲む。


「デュラーン卿!」


「──動くな」


 ブラースが援護しようと魔力による認知をリックに向ける。リックはブラースに目を向けて、ブラースに認知を絞ると解析する。認知を絞ったことにより、先程とは比べ物にならない速度で解析が完了した。


(よもや……これ程とは……)


 ブラースは自分がとても反論できないレベルまで解析深度が深まったことを確信し、動きを止める。


 リックはブラースが動きを止めるのを確認しながら視線をデュラーンに戻す。見下ろしながらリックがデュラーンに語りかける。


「あなたは『赤』の狼煙を、と言った。それが本当に作戦中止を意味するのかどうか、僕には判断材料がない。もしかしたら、計画を早めろという意味かも知れない」


「……それは!」


「中止ならそれでも良いし、もし襲撃されてたとしてもどちらの場合も関与を疑われない方法がある」


「……何だね?」


「……あなたの首を帝国に差し出せば、さすがに疑われないでしょう」


 リックが無表情で死の宣告をする。


 デュラーンは全身から痛みと恐怖で、汗を流していた。闘争に生涯を捧げてきた。死にそうになったのも一度や二度ではない。だが今生きてるのも運だけではなく、自らの武術で運命を切り開いて来たという自負がある。


 それがこんな風に自分の半分も生きてない若造に、自負を含め粉々に打ち砕かれるとは思ってもいなかった。


 そもそも、そんなに難しい作戦とは思っても居なかった。


 勿論同行者であるリックのことも調査済みだ。両親が恐ろしい使い手とは聞いていたが、リック自体は成績も平凡な学生という認識しかなかった。強力な戦闘能力を持つ両親を利用できれば、程度の認識だった。


 リックが拳を振り上げる。振り下ろされれば、デュラーンの人生は終わるだろう。


「リッくん! 駄目!」


 突然動いた事態に、それまで動けないでいたカスガが叫ぶ。


「カスガ、これは必要なことだ」


「だめ、反論しないで。反論されたら私はリッくんに勝てない。理屈でも、魔術でも」


 静かに諭してくるリックと対照的に、いつものカスガには考えられないほど、緊迫した声で告げる。


「僕は君のお父さんにお願いされた。僕には君の留学を成功させる義務がある」


「うん、リッくんはきっと正しい。でも正しさじゃなくて感情の問題なの。私は貴方の手を汚させてまで、留学なんてしたくない」


 カスガはそう言ってリックの目をじっと見る。


 その表情を見て、きっと確信犯だ、ズルい、とリックは思った。


 カスガにじっと目を見られてお願いされたときに、リックは自分の出来ることであれば、断ったことがなかった。


「……わかった」


 リックはデュラーンから足をどける。それをみたカスガが入れ替わるようにデュラーンに駆け寄り、神学術を使うために目の前で指を組み、集中する。


「白き神マーロン、聞こえますか? 貴方の下僕よりお願いがあります……」


 そう言って目を閉じ、祈る。やがてカスガの両手が光る。光った手をデュラーンに向けながらさらに祈りの言葉を頭のなかで繰り返す。


 するとデュラーンの傷がまるで時間を巻き戻すように塞がり、腕の骨折も治る。


 かつて体験したことのないほどの治癒の力に、デュラーンは聞いていた以上に凄まじい力だ、と思った。少し前までの状況が嘘のように安心感に包まれる。30秒ほどで、デュラーンが回復する。


「ついでに顔に二ヶ所あった吹き出物も治しておきました」


 神託のように厳かにカスガが告げる。


「あ、どうも……いや、ありがとう」


 バツが悪そうにデュラーンが答える。


「ていうか!」


 奇跡を起こしていた先ほどまでの聖女のような表情を怒りに変え、カスガがさらに話を続ける。


「リッくんも、デュラーンさんも、今やるべきことから目をそらしてゴチャゴチャ言い過ぎ!」


「やるべきこと?」


 本気でわからなくて、リックが聞く。そんなリックを睨めつけながら、崩れた屋敷を指差す。


「あの中にいる人の救助と、治療よ」


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


「はー、良かった!」


 カスガが満足そうに言う。


 1時間ほどして、屋敷の中に取り残された人々は全員救助され、カスガの手によって治療された。幸い死者はなかったが一番大怪我してた男は折れた骨が内蔵に刺さり、救助がもう少し遅れていたら危なかったらしい。


「さーてあとは……」


 カスガはリックの所にトコトコ歩いて、リックに耳打ちした。


「えーっ」


 リックは不満げな目をしてカスガに抗議するが


「ダメ! こういうのはちゃんとするの!」


 カスガがリックの目をじっと見る。


 くっ……とリックは悔しそうに目をそらしながらデュラーンの元へと向かう。


「……何だね?」


 一部始終を見ていたデュラーンが少し警戒して尋ねる。


 リックは少し躊躇いながらも……意を決したように言う。


「屋敷……壊しちゃって……すみませんでした……」


「あ、ああ、うん、気にしないでくれ……」


 そんな二人を見てブラースは苦笑いし、カスガは満足そうに頷いていた。




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