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夫婦喧嘩で最強モード  作者: 長谷川凸蔵
第1章・帝都編
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彼の環境

 人里離れた山中。

 自然に囲まれた中、突然姿を現す人工物。

 森の一部を切り開いた中に、ぽつんと立つ木造の家のそばで、小鳥の発する警戒音と、それに伴い、小鳥たちが一斉に飛び立つ音が鳴り響く。

 ──それは物心つく前から聞いてきた、戦いの予兆。 


 ちょうど面白くなってきたところなのに、と少しの不満と、大きな諦めを混ぜ合わせたような心境で、リックは読んでいた本を閉じた。

 なにやら周囲が騒がしいな、と思う。

 その上で過去、同じように思ったときは、高確率で起こる事態に備えるために、神経を集中する。


 しばらくして、父が何か叫ぶ声が聞こえた。


 おそらくまた「鳳凰撃滅斬」とか「覇王裂空」とか、同じ技でも毎回変わる、適当な名前を叫んでいるだけだから、これは無視してもいい。

 無視できないのは技の名前ではなく、その威力だからだ──過去に一度だけ叫んだ「緑黄色野菜微塵斬り!」はしばらく耳に残ったが。


 叫び声のあと、しばらくしてやってきた空気の震えが、父の放った技の威力を伝えるとともに、リックに簡単な二択を提示した。


 家を諦めるか、それとも、自室を諦めるか──もちろん、本の続きを読むことも。


 しかしよく考えれば、家には当然自室が含まれるのだから、これは自室を諦めろという、簡単な引き算であり、実質的な一択だった。本の続きはどちらにせよ諦めざるを得ない、それが残念だった。


 そして自室を他人に壊されるか、自分で壊すのかという二択でもあったが、家を守る以上は、自分で自分の部屋を壊さなければいけない。


 残酷な二択のふりをした、実質一択。

 彼は選び取った選択肢どおりなのか、押し付けられた義務なのかなんだか知らないが、本を投げ捨て、自身の魔力を練り、両手を前に構える。


 直後、魔力による青い壁 ──魔力障壁── が生み出され、それは一気に膨張し、彼が選択したとおり、自室を吹き飛ばした。


 読んでいた本はもちろんのこと、ベッドや、お気に入りの家具、手作りの調度品を自らの手で吹き飛ばすのは心が痛むが、もうそれは仕方ない、家を守るためだ、と割り切る。


 直後彼に選択を強いた、父の剣から繰り出された青い魔力の奔流が、リックの作り出した魔力の壁に激突する。


 金属同士がぶつかり合うような、不快な音が鳴り響く。


 拮抗する、奔流と壁。


 リックは魔力を維持し、家を守り続ける。


 しばらくすると家を破壊するのを諦めたように、父の放った魔力の奔流は向きを変え、竜が天に駆けあがるように飛び去りながら、その青い姿を、同じ青い空の一部に変えた。


 父の次は、いつも母。


 母の次が父の事もあるが、順番が前後することはあっても、片方だけというのは今までほとんどなかった。


 太陽が昇れば、いつか沈むように、これは運命に定められたような、自然の流れのような決まり事。


 まぁ運命なんて、しょせん個人のきまぐれ、その集合体なのかもしれない、そんな明日には忘れそうな名言を頭によぎらせたあと、リックは魔術を使用する準備である【認知】を展開し、次に起こることに備えることにする。


 運命は、今回もやはりリックの考えを裏切らなかった。つまりそれは、いつもリックの希望を裏切っているとも言えた。


 簡単に言えば、母親は強力な魔術の準備に入っていることが、【認知】を通して伝わってくる。


 あ、これ完全には間に合わないやつだなぁ。


 そう思うが、それでもできる限りのことはする。


 部屋を吹き飛ばしたおかげで確保した視界の端で、人間離れした絶世の美女である母親が、その美しい黒髪をなびかせながら、呪文を唱えた。


「鏡凝天集」


 母親が高密言語と呼ばれる、普通の魔術の何十倍も強力な呪文を唱える直前まで、【認知】した範囲の【解析】を進めたが、やはり間に合わない。


 それでも本来の効果、つまりこの周辺一帯が焦土になるよりましだろう、リックは母親の呪文に対して【反論】した。


 母親によって広範囲から集められていた太陽光が、リックの【反論】によって大部分がもとに戻ったが、それでも頑なに「何でもいいから燃やしたい」、そんな意思を持ったかのように、残った一部が、家の横にある納屋を炎上させた。


 被害は自室と、納屋。


 本来の結果である、この周辺の壊滅、に比べれば上出来だろう。


 リックはもう一度【認知】を展開し、その範囲を紐解く【解析】を行って魔術を使用し、炎上する納屋を消化してから


「はーい、終わり。集合ー」


 と号令をかけた。

 リックのもとに父と母が駆け寄って来ながら。


「リック聞いてくれ! コニーが!」

「リック聞いてよ! ザックが!」


 両者が集まりながら自己弁護をする、これもお約束だ。

 

 そして大抵、聞くのは無駄だ。

 

 へーそうなんだ、と納得するような理由なんて、聞かされた試しなんてない。


 今回は違うかも、そう思い一応この争いの理由を聞いてみたが、喧嘩の発端は、どっちが相手をより深く愛しているか、みたいなことが発端で、つまり死ぬほどどうでもいいことのようだった。


「で、なんでそれが、この惨状につながるの?」


 リックが一応聞いてみると、母親がまず答えた。 


「力あるものの、定めじゃないかしら?」


「へーそうなんだ、父さんはどう思う?」


 適当に返事をして、父親に尋ねる。

 

「いかなる時も全力を、それが神の不正を断ずる任務を与えられた、俺の【調停者】としての剣士の性だからじゃないか?」


「へーそうなんだ」


 同じように適当に返事をし、どうまとめようか迷って……


「お互いがお互いを、限りなく深く愛してる、じゃダメなの?」


 と提案してみる。


「いいわねそれ」

「いいなそれ」


 提案が承認され、そのあと両親の間で繰り広げられる、「限りなく深く愛してる」の言葉のキャッチボールを聞きながら。


「その前に、僕に何か言うことない?」


 と強めに言ってみる。

 二人は同時にこちらの方に振り向いて


「本当にごめんねー、リック」

「わが剣に誓って、マジごめんなー」


 そう言ってキャッチボールに戻る二人を見ながら。


 どうせ反省なんてしないし、まぁいいか。


 とリックは思った。

 

 彼は物心ついたころには、この手の「災害」には慣れっこだった。


 なんせ、物心つく前から繰り返し見ているのだから。


 そしてそれは本人の思いは別として、彼の才能を磨く、恵まれた環境だった。



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