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異世界に神様はいらない  作者: 春野 いつき
第1章 悪夢からの目覚め その先にある悪夢
2/17

第1話 夢に現れた神



 何処からか不気味な声が響く。



『ワガ***ヲ**エ*』


『イマ*ソ**メ**キ』


『メザメヨ……』



………

……



 ピロリン、ピロリン

 テーブルに置かれた、スマホのアラーム音で坂本勇馬は目を覚ました。



「はぁ…またこの夢か」



 最近よく見る気味の悪い夢に嫌気が指した勇馬は、深いため息を付き横になっていたソファーから起き上がる。無理な姿勢で寝たために固まってしまった痛む肩をほぐしながら、アラームを止め時間を確認した。


《0:03》


 仮眠のつもりでアラームを掛けていたのに、日頃の寝不足のせいか予定より大幅に寝過ごしている。日付が回る前に仕事を片付けてしまおうと考えていた勇馬は、予定が狂ってしまった事に焦りを感じていた。

 連日の徹夜に近い作業のせいで、その顔には深いクマが刻まれてしまっている。寝起きで回らない頭を無理矢理起こすために、ガラスのテーブルに置かれた飲みかけのコーヒーを一気に煽った。



「っはぁ~~マズっ」



 すっかり冷めてマズくなってしまったコーヒーに悪態をつきながら、勇馬はさっきまで見ていた夢を思い出していた。

 真っ暗な視界の先にぼんやりと映る人影。所々にノイズが混じり、何を言っているのか分からない声。しかし勇馬には最後の一言が一番鮮明に耳に残っていた。



「目覚めよ、か」



 一週間程前に見たその時には何を言っているのか全く分からなかった言葉が、何度も見るうちに少しずつ聞こえるようになり、今回その一言だけがようやく聞き取れるようになっていた。



「ははっ。夢が起こしてくれるなら、目覚まし掛けなくていいな」



 気味は悪いが所詮は夢、寝不足続きの精神状態があんな夢の原因だろうと当たりを付けた勇馬は、答えの出ない妄想を止め現実を受け入れる。



「はぁ……そんな事考えてる暇があったら、仕事を片付けなきゃな」



 空になったマグカップに温かいコーヒーを入れ直しデスクに戻った勇馬は、両手で頬をパンパンと叩き気合いを入れて、残った仕事を終わらせるべくモニターに向かった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「あ゛~~っ終わった」



 ここ数日に渡る寝不足の原因だった仕事を終えて、グッタリと椅子にもたれ掛かる。

 こんな無茶な納期の仕事を受けるんじゃなかったと後悔する勇馬だったが、報酬の良さに飛びついて依頼内容の確認を怠った自分の責任だというのも分かっていた。

 大変だった仕事を終えた達成感とその疲労感に身体を委ねていると、大きな欠伸と共に急激な睡魔に襲われる。少なくないお金の代わりに、失った睡眠時間を取り立てられているような感覚だった。



「くそーっ。今日こそはふかふかの布団の上で、死ぬほど眠るつもりだったのに……」



 しかしその願いは叶いそうもなく、重くなっていくまぶたに抵抗が出来ず段々と閉じられていく。



「そうだ目覚まし…掛け…ない……と………」




 聞き慣れてしまった暗い声。



『ワガ*カラヲ*タエル』


(またこの夢だ)


『イマ*ソ*ザメ*トキ』


(この声は何を言いたいんだよ?)


『メザメヨ!』



 最後の一言が聞こえた瞬間、先程までの暗い雰囲気が一掃され真っ白な暖かな光に包まれた。




 遠くから聞こえる、透き通るような美しい声。



「・き・・・・」



 今までの不気味な声とは違い、心が安らぐ。



「お・て・・・」



 不意に心地いい風が頬を撫で、髪がなびくような気配に促され、勇馬はゆっくりとまぶたを開いた。



「起きましたか?」



 目を開けた先には、金色の長い髪を風になびかせる天使のように美しい女性が勇馬の顔を覗き込んでいた。



「あれ……ここ天国?」



 まだ夢の中かと思えるほどの清んだ声と美しさを兼ね備えた女性は、絹のように光沢のある真っ白なワンピースを身に纏っている。見とれている勇馬に、その女性は柔らかく微笑んで答える。



「ここは天国じゃありませんよ。でもいい線行ってますね」



 働いていない頭のせいで意味を理解出来ていない勇馬に、その美しい女性はさらに続けた。



「私はストラ。この世界の神だった者です」

一部、脱字等を修正しました。


次回更新日は6/7 0:00予定です

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