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夕焼けのボーイミーツガール

 それからも長く旅は続き、あっという間に城で兵士として過ごした日々が過去になっていった。当然ながら、もう旅をしていた期間の方が城に居た期間より長い。

 現実世界の事を考える日もあったが、ずっと一緒にいたミレディやラモンと気軽に話せるようになったのは嬉しかった。ミレディと話していると会話が途切れる事は多かったが、それも気まずい沈黙ではなくなりつつある。


「忍者って言っても解んないよなぁ……とにかく体に狐の化け物を埋め込まれた少年の話なんだ。埋め込まれた狐があんまりにも強いし、力もコントロール出来ないから、最初は仲間から疎まれてるんだけど、段々努力して強くなって、皆に認められてくって話」


「ふーん」


 俺が押しつけがましく、漫画の知識を披露しているとは思わないで欲しい。

 ミレディやラモンには意外と現実世界に存在する物語の話をすると反応が良かったのだ。最初は桃太郎やら一寸法師やらごんぎつねの話をしてやっていた。しかし、ついにはネタが尽きて、漫画やゲームの物語まで話題に出すようになったという訳だ。


「本当にありそうな話ね。似たような話聞いた事あるわ。獣の姿で生まれてきた男が皆にちやほやされたり、嫌われたりしながら、英雄になっていくって話」


 言われてみれば、この世界では本当に起きてもおかしく無さそうな話だ。というか、王子はその主人公と似たような立場ではないだろうか。

 ミレディは代わりにこの世界に伝わる物語をいくつか教えてくれた。確かに俺が教えた物語の内容によく似ていた。

 ただ、より深く聞いてみると、その物語は主人公に沢山の仲間がいる訳ではなく、たまに人の力を借りる事は有っても、主人公一人で多くの化け物を倒していくというのが主らしかった。深く考えた事は無かったけれど、超能力を持った一人のヒーローの活躍を描く物語と主人公と同じぐらいの力を持った仲間が沢山いる物語が生まれる違いは何だろう。時代なのか土地なのか。

 考えている内に目的地の街へ着く。

 酒場に入って水を貰っていると、また客が話しかけて来る。


「兄ちゃん東洋人か?」


「うん。この国の文化を勉強しに来た」


 頬の豊かな気の優しそうな男だ。

 相手が東洋人を知っているだけでも安心する。変わった生き物のように観察されるのは流石に気分が悪い。


「なるほど。じゃあルアムの街には寄ったか?」


「何かあるのか?」


「魔物の子供が沢山みられるよ!」


 魔物と聞いて、良いイメージは無いのだが、動物園の話でもするように男は村の話をした。

 ラモンが目を輝かせた。後から店に入ってきた父親に飛び付かんばかりに駆け寄って行く。


「魔物の赤ちゃんが見られるって!」


「なんだって? この間この村に来た時はそんな話聞かなかったけどな」


「時期が違ったんじゃない?」


 俺は何となく魔物の姿を想像する。さぞかし可愛い赤ちゃんなのだろう。

 ゲームとかでいうと、あんまり強くないモンスターでマスコット的な扱いなのかもしれない。

 ミレディが軽い調子で手を挙げた。

  

「あたしも見たい」


 移動には半日ぐらいかかるそうだが、結局明日向かう事になった。

 この辺りに二、三日馬車を置いて滞在する事になるようだ。

 旅を焦る気持ちは全くないではなかったが、今更という感じもした。久しぶりにしばらくゆっくり出来そうなので、それが嬉しかったのもある。

 宿屋の前に置かれた木のベンチに腰掛けて、時間を過ごす。太陽が畑や森の下へ沈みながら、赤みを増していく。日が沈んでも電灯が村を照らす事はなく、しばらく付いていた家の火もやがて消えていく。

 月が無い日は外の世界はただの暗闇でしかなくなってしまう。

 俺にはこの世界では夕焼けが特別な意味を持っているように思えた。

 ミレディが横に腰掛けた。顔を向けると、笑みを返して来る。


「あーあー、あの蜘蛛を退治するのに使った酒。ずいぶん高かったんですって。ラモンさん、溜息多くなっちゃって」


「あれが無きゃ死んでたし、しょーがないけどな」


 こちらが言うのを聞いた途端、ミレディが手を体の横について詰め寄って来る。


「そうよね! あたし酒場で男達が強い酒で火遊びしてたのを思い出してやってみたの!」


 目に焼き付いた日の光越しにミレディを見て、話を合わせる様に頷いた。

 ミレディはせわしなく表情を変え、今度は少し困った顔で遠くを見る。


「ラモンさんに申し訳ないし、お金尽きてきちゃったし、仕事しようかなー」


 ミレディの言葉を聞いて、耳の後ろの当たりから寒気のようなものが広がった。体の中の何かが危険信号を発している。


「え! 仕事って何すんの?」


「踊ったり、客を取ったりよ」


 何を今更という感じにミレディは言った。

 止めるべきなのか。友達でしか無いのに止めるのは図々しいだろうか。止めたとして、じゃあミレディの旅費を誰がどうやって払うんだ。

 そもそも俺は何で止めたいんだっけ。仲間だからか。売春に反対だからか。ミレディが綺麗だからか。


「いや……でも止めといた方が良いんじゃない?」


「何で?」


「ほら、あまり知らない場所で知らない人相手にするのは、馴染みの酒場と違って、きっと危ないじゃん」


 闇金融の漫画で読んだ。

 出会い系使って自分で客を探したりしてると、金を払わない客や危険な性癖の客に巡り合う事もあって危ない。らしい。

 ミレディは肯定とも絶望とも取れる呻くような声をだした。

 納得してもらえたのかは解らない。


「俺のご飯……分ける」


 ミレディはそれを聞くと、鼻で笑った。 


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