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魔女

 酒場を出ると、店の前に止めてあった馬車に酒場から荷物を運び入れ始める。

 ラモンが酒場の脇の倉庫に入って行って、軽々と大きな荷物を両方と肩に担いで出てきた。

 ラモンの腕はあどけない顔からは想像出来ないぐらい太く、大きな力こぶが浮かび上がっている。

 ビダルは作業を見ながら運び入れる物の個数を確認している。

 ビダルもラモンもこの地域の他の人間と比べると少し色の黒いのだな、と今頃気付いた。鼻は高いが、踊り子と比べてみると、先が丸みを帯びている。

 この国の人間ではないか、同じ国の中でも生まれた地域が違うのかもしれない。

 俺も慌てて作業に参加するが、肩に荷物を載せる所から既に苦戦してしまう。


「さあ! どんどんやっちゃいましょう!」


 俺が一個の荷物をようやく肩に載せている間に、ラモンは二周している。

 やっとこさで荷物を抱えて倉庫の外に出ると、壁にもたれかかって踊り子が笑っている。

 俺がラモンの三分の一も仕事が出来ないまま、荷物運びは終わった。

 ビダルが馬の綱を引きながら、町の外へ向けて歩き始める。

 馬車はどうやら俺達が乗る為ではなく、目いっぱい荷物を積むための物らしい。


「マルコスの事は置いていっていいの?」

 

 俺は横を並行に横を歩いている踊り子に話しかけた。

 出来る限り自然に言ったつもりだが、視線は合わせられない。


「マルコス? 私の常連だし、あんまりにもよく会ってたから、恋人みたいになってただけよ。良い男だけどね」


 さらっとすごい事を言われた気がして、また価値観の違いにショックを受ける。

 そして、会話が途切れた。

 後から思えば、最初に出す話題としては最悪だった気がする。

 馬の横を歩いていたラモンが踊り子の方を振り返る。

 

「そう言えば名前はなんなの?」

  

「ミレディ」


 ラモンはわざとらしく苦々しい顔を作った。


「変な名前」


 ミレディはその反応を見て、面白がるように笑った。

 夕方頃には次の町へ着き、その翌朝また早くから移動を始める。

 そして、また夕方頃には二つ目の町にたどり着いた。

 一つ目の町は兵士達が遊びに繰り出していた町とそう雰囲気も変わらなかったが、二つ目の町は高い石の壁に囲まれて、大きな門がある巨大な町だ。

 城と同じように門番がいて、門を通る人間や荷物を逐一確認している。

 門番の一人が不思議そうに俺の顔を見てきた。


「東の方からの見聞を広めるために来た旅行者の方です」


 ビダルがそう言うと、門番達は納得したように頷いて中へと通してくれる。

 ガラス戸のある綺麗な宿に泊まる事になった。

 二階が客室になっていて、中途半端な仕切りではなく、しっかりと一つ一つ個室になっている。

 夜は宿の下の階にある酒場で食事をした。

 火が集まった人の顔に光と影を落として、揺れている。

 電灯の均一な光とは違う良さが有る。ラモンやミレディの顔を見ながら、俺はそう思った。 


「ハルタはその……別の世界から来たんでしょ?」


「へ?」

 

 半信半疑な様子でミレディが俺に話しかけてきた。何かの冗談だと思っているのか、上目遣いでこちらを見て、笑いをこらえている。

 ラモンは突然の話に目をを丸くした。


「マルコスから聞いたのよ。見た事ない服を着て、自分に何が起きたのか解らない状態で、空から落ちてきたって」


 多分ミレディはマルコスの面白おかしい冗談だと思っている。


「本当の話だよ。東に旅してるのは、東が家だからじゃなくて、家に帰る方法を探すためだ」


 ミレディは俺が話すのを聞きながら、小さく笑っていた。

 しかし、俺が笑っていないのを見ると、一拍置いて顔を突き出してくる。ろうそくの光がミレディの顔全体を照らす。

 

「マジなの?」


 ミレディは顔をしかめたまま、ラモンと顔を合わせた。ラモンもミレディの真似をするように顔をしかめて見せる。

 結局うやむやのまま話は終わってしまう。

 酒場のドアが開いた。誰かが中へ入って来る。

 暗闇の中で輪郭を失いそうな黒い色調の服を着た女が酒場に入って来る。男に負けないぐらい身長が高いが、線の細さと体の波打つ曲線が色気を感じさせる。

 女は店内を見渡して、一瞬こちらを見ると、後ろから来た身分の高そうな男とカウンターの席に座った。

 酒場にいた客はほんの少しだけ静かになる。

 俺達はその後食事を終え、すぐに二階へ上がって行ったので、女が誰なのか解らないままだった。 

 翌朝は次の町へは出発せずにビダルと共に町の大きな屋敷に入って行った。

 今度は馬車から屋敷の倉庫に荷物運びが始まる。


「ミレディも手伝えよ!」


 ラモンが言った。


「女には無理よ。筋肉付いたららどうするの?」


「筋肉が付いても美人が美人じゃなくなったりしないよ」


 ラモンがミレディに対して美人といったのかは曖昧だと思うが、ミレディは気を良くしたのか、ニコニコしながら荷物を運び始める。

 仕事を終えて、宿に帰ってきても、まだ日は高く昇っていた。

 しかし、今日この街を出る事はないようだ。

 夜にはまた酒場で食事を取る事になる。

 そして、昨日の夜と同じ時間再び酒場のドアが開いた。

 黒いドレスの女は真っ直ぐこちらに向かってきたかと思うと、俺の顔を指差してきた。


「この男を追い出せ!」


 店の客がおびえた顔をした。客達は単に女の態度に驚いているのではなく、女について何か知っている様子に見えた。

 俺が何となく席を立つと、女は片手で突き飛ばして来る。

 ラモンとビダルが俺に覆いかぶさるように前に出た。


「奥方様! 一体どうなされました!」


 店の主人が駆けよるが、女はそれも突き飛ばす。


「何故あやしい東洋人が私の町に入ってきているの?」


 女が俺に手をかざした。テーブルの上の火が吹き消される。

 かと思うと、突然俺の体が宙に浮いた。

 これは魔法か。

 ビダルが叫ぶ。


「奥方様! この方は大公殿下のご子息カルロス様からお預かりしている食客でございます。どうか気をお沈めになって下さい!」


 女は何かを思い出そうとして首を傾げている。

 思い当たる事があったようで、やがて眼を大きく開いた。

 

「カルロスというのはライオン公か? 混血でありながら魔法が一切使えないというが」


 女が手を降ろすと、俺は今度は地面に叩きつけられた。

 女は面白くなさそうに店を出て行った。

 かかとの高い靴の甲高い足音だけが、静まり返った酒場に響く。


「魔女だ」


 ビダルが俺達以外には聞こえない様に小さな声でつぶやいた。

 俺は全身を打ち付けて痺れるような痛みに耐えながら、何とか地面に手を付く。

 立ち上がってもなお体がふらついたが、大きな傷を負ったりはしていない。女はあれでも加減をしていたらしい。


「さっきの人は何なんですか?」


「混血の度合いが高く、魔法の力が強いのに、人の姿を保っている女を魔女というんだ」


「じゃあ強い魔法使いって事か……」


「それだけじゃない。強い魔法と人の姿を保っている血筋は、貴族や王族からありがたがられるからな。魔女はそれだけで身分も高い者が多いんだ。きっとあの女もこの街の役人の妻なんだろう」


 俺は東洋人というだけで魔女に目を付けられたのだろうか。

 どうにも納得がいかないまま、部屋に戻った。

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