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王子の行方

 王子が住んでいた城に行政の機能があった訳ではないので当たり前なのだが、町は特に様子の変化は無かった。酒場に入り、女将のいるカウンターまで近付いていく。

 珍しい東洋人が店に複数人で入って来たりすれば、ちょっとした騒ぎになってしまうし、話をややこしくするだろう。そう思い、李白と双子は店の外で待ってもらった。

 女将は注文を待つ姿勢で、こちらをしばらく見つめていた。俺やラモンに気付くと、驚いて息を素早く吸い込んだ。そもそもお互いを良く知らないし、しばらく会わなかったから、俺の顔を忘れていたらしい。

 

「ああ……あんたたち、ミレディはどうしたんだい?」


 俺は手でラモンの方を示した。 


「ラモンの家に女中をやってる。それで王子はどうなったんですか?」


 聞きたい気持ちと聞きたくない気持ちが頭の中でぶつかり合って、自然と語尾が強くなってしまう。

 背の低い女将は足の高い丸椅子を自分の傍に寄せると、その上に座った。足が地面から少し離れる。

 

「ちょっと離れた村で生き残った衛兵達に匿われてるよ。連絡を取ろうか?」


「村ってどこの?」


「こっちから人を連れて行くのは無理だね。向こうから来てもらうしかない」


 女将はカウンターの木目を手で撫でながら言う。

 どうにももどかしく、俺は立ったままつま先で貧乏ゆすりをした。ラモンは懐かしむように店の内装を眺めている。

 女将はカウンターを軽く手でたたいて、こちらの注意を引いた。俺が顔を上げると、慰めるような顔でこちらを見て来る。


「連絡手段はあるんだ。王子が無事なら必ずまた会えるようにする。しばらくここに泊まっておくれよ」


 数日俺達は酒場に宿を取って生活する事になる。

 意外な事に宿屋暮らしの間、李白はラモンにも虎道を教えたがった。


「えぇ……」


 ラモンは渋りながらも、怖くて断る事すら出来ないようで訓練を素直に受けている。

 俺は自分の訓練をしながら、それを横で生暖かい目で見守っていた。師匠の目が離れる時間が多い方が、正直気が抜けるのでやりやすい。

 四日後の事だった。鍛錬を終えて俺達が酒場に戻ると、そこに見知った顔があった


「クーロ!」


 俺は思わず大きな声で相手の名を叫んだ。

 クーロはこちらを見ると、気障な笑顔を見せる。クーロは衛兵の服ではなく、市民のような恰好をしていた。相変わらず引き締まった体と鋭い眼光をしていたが、目の当たりにはうっすら隈が見えた。

 ラモンがクーロのついているテーブルに駆け寄る。 


「王子は無事なんですか?」


「ラモンか! 大きくなったなぁ。城に顔を出していた時はまだ子供だったのに」


 クーロは質問に答えるより先に相手の肩を叩いて、再開の感動を表現した。

 ラモンはビダルに連れられてこの辺に来ていたから、酒場の常連や城の兵士とは顔見知りらしい。

 それからクーロは俺の顔を見た。


「殿下は無事だ。最初の襲撃から辺境の村を点々としている」 


 場所が定まらないから、女将に連れて行ってもらう事が出来なかったのか。俺は納得した。


「今すぐ俺達も助けにいくよ」


「無理だ。まだ追いつかれた事は無いが、追手に常に狙われている。お前も危険な目に合うぞ」


「俺はバンドブールで虎道って武術の訓練受けてたんだ。あの頃より全然役に立つ。

それに超強い師匠が旅に付いて来てくれてるんだ。必ず王子の助けになる」 


 クーロはさら食い下がってくるかと思いきや、意外にもしばらく考え込んだ。

 店のドアの脇には椅子が置かれ、そこが待合室であるかのように師匠を挟んで双子が座っている。


「すまん。助かる……明日にはここを立つが、それでいいな? ハルタ」


 俺達はクーロと王子達が落ちあう予定の村まで移動を開始した。クーロだけで移動するつもりだったからか、かなりの強行軍で山の中で道なき道を抜けていく事もあった。

 ラモンは足を震わせながら付いて来ていたが、どんどん無口になって行った。なんだかんだ言ってお坊ちゃまだな、と思う。


「ラモン、大丈夫?」


 少し遅れ始めたラモンの所までわざわざシャオメイが戻って、声を掛けた。すると、ラモンが必死の表情で皆に追いつく。

 こんな事を繰り返しながら、俺達は旅を続けていた。

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