ダツラ
俺達はあれからまた旅を続けていたが、明らかに関係はぎくしゃくしていた。
ラモンは双子が近くに来ると体を強張らせせているし、なるだけ俺から離れないように生活している。しかし、ヤンヤンもシャオメイもお構いないしに傍に寄って行く。
魔女との戦いの後、生き残ったわずかな蜘蛛女が阿鼻叫喚で逃げ惑っていた。
足元では驚嘆の表情のまま固まった魔女の顔がこちらを見上げている。
俺は震えを抑えながら、師匠に尋ねた。
「師匠、何をしたんですか?」
「これもまた虎道よ」
李白が魔女にしたようにこちらの腹部に手を置いた。
俺は逃げようとしたが、恐怖で金縛りにあったように動けなかった。李白の手は妙に温度が高いように感じる
「ダツラと言ってな、相手の精霊体の頭の部分をちょいと叩くんじゃ。すると相手は他人には見えぬ幻覚の中で踊り出す」
聞いていて身の毛もよだつ思いがした。俺には今まであえて見せていなかったのだろうか。
幻覚を見せる技にしてもそうだが、相手の首をひねってしまう双子や李白の技は見た事が無い。あれは完全に人を殺す為の技だった。
「虎道は単なる強い武術だと思ってたのに……あれはまるで魔法だ」
「魔法のように見せたい幻覚を見せる事はできん。ダツラはその者の内にある狂気を見せる技だ。
人によって恐怖や悲しみであったり、信じられるほどの心地よさだったり、するようじゃがな」
「でも少し触れただけで、あんな事が出来るなんて。最強じゃないですか」
李白は白い髭を揺らして笑う。そして、双子を手招きして呼び寄せると、二人の背中に手を置いた。
すると、双子は眠たげな表情で白目を向き、気持ちよさそうに舌を出す。
ラモンが自分の体を抱きしめて、おびえている。
「喝!!!!!!!!!!!」
次の瞬間、双子は両腕を腰のあたりで構えると、子供の物とは思えない程気迫のこもった顔で叫んだ。
俺とラモンは肩で飛び跳ねる。ラモンは小さく悲鳴を上げた。
双子はいつの間にかいつもの表情に戻って笑っている。
「ある程度虎道の力を持てば、相手の技量がよほど高くない限り、ダツラを自分で解く事は可能じゃ」
俺がこの一件を思った程は引きずらなかった。それは元から李白達に底知れぬ不気味さを感じていたからかもしれないし、ゲームや漫画で残酷な描写に慣れていたからかもしれない。
だが、ラモンはそうはいかなかったようで哀れに思える程、怯えていた。
「ハルタ、この人達本当に悪い人達じゃないの?」
ラモンが旅の途中、そう聞いて来た事もある。
李白は恐怖される事になれているようで、ラモンの怯えた顔を見て、豊かな髭の中で笑みを浮かべている事もあった。
ラモンは数日経って、双子にはぎこちない笑顔を見せるようになったが、結局そんな調子のまま旅を続けている。
そして、ようやく俺達は城の近くまで帰って来ていた。
道のりを知っていたからだろうか。城に帰るまでの旅路は行きより短く感じた。
「酒場の女将さんが王子の行方を知ってるそうです」
もぬけの空となっている城に寄る意味はないので、俺達は直接酒場に向かった。




