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とらのみち

 朝、宿のドアがノックされた。外にはガストーネが愛想よく笑い、立っている。


「会わせたい人がいるんだが、来てくれるかね」


「今からですか?」


 俺はビダルもミレディも連れずに俺達は昨日の建物まで行った。

 建物の前に小さな子供が二人手をつないで立っていた。

 東洋人で青に花の装飾の入った服をお揃いで着ている。足元まで体を覆うような構造だが、中国風の民族衣装だろうか。

 二人は俺達が建物の中に入るまで、無表情のまま猫のような大きな目でこちらを追っていたが、まるで人形のように動かかなかった。

 部屋の中に入ると、奥から頭が白く、やはり民族衣装を纏った東洋人の老人が出て来る。服の色が黒なので、いかめしく見えてしまう。

 俺はガストーネに促されて、昨日座ったのと同じ場所に立った。

 老人は俺を頭からつま先まで眺めている。


「夏の民ではないな」


 老人がぽつりと漏らした。

 ガストーネが驚いた顔をしている。

 夏というのはこの世界の東洋にある国だろうか。どうしてこの老人にそんな事が解るのだろう。


「雷和の人間に似ている気がする」


「ですが彼は雷和ではなく、別の世界から来たと言いますよ」


 老人はガストーネの言葉を聞いているんだか聞いていないんだか解らないまま、ゆっくりとテーブルの向こう側に腰掛けた。黒目がちな目でこちらを見て来る。

 老人は独特のテンポで間が空けながら質問を続けた。

 

「お主は元の世界ではどのような場所で暮らして居ったのだ?」


「日本という国です。夜でも電気の力で明るくて、高い建物が沢山並んでます」


 ガストーネは立ったまま真面目な顔で紙に俺の発言を記録している。

 思えば、物語をミレディやラモンに聞かせた事は有ったが、あちらの世界の技術や生活の話をした事は無かった。

 自分の言葉というより、ありがちなタイムスリップもののセリフしか出てこない。

 老人はため息をついてから、また顔を上げた。良い質問を思いついた、という表情だ。


「周りにはどのような国がある?」


「中国や韓国という国があります。そう言えば、中国の伝統的な服は、あなたが着ているものに似てます」


 老人は少し驚いた様子でこちらの顔を見た。本気で言っているのかを確かめる様に目を覗きこんで来る。

 質問される事でようやく気付いた。言われてみれば、違う世界にも似たような国や地域があるというのは当たり前の事ではない。

 アニメの異世界だと当たり前だから、これまで気にしてなかった。

 不思議そうな顔をする老人の横で、ガストーネは真顔で大きく頷いた。


「雷和の国にもそんな場所があると思えんな」


 混乱を通り越して、怒ったように老人は言い放った。

 ガストーネは調子を狂わされて、苦笑いしている。それから老人が黙り込んだのを見て、老人の隣に腰掛けた。


「彼は見ての通り東洋人でね。ひょっとしたら君いた場所が別の世界じゃなくて、東洋のまだ知られてない地域じゃないかと思って呼んだんだが、ちょっと的外れだったみたいだ」


 老人はこちらの傍に近付いてくる。こちらの背中に手を置くと、ガストーネの方を向いた。

 老人の手には、少し丸い背中や小さい体躯からは想像できてない力強さと暖かさがある。


「行き場が無ければ、この男はしばらく我らの会館で面倒をみる」 


 ガストーネが素早く何度も頷いた。


「そりゃいい。この街に滞在していた方が何かと便利だ」


 ガストーネが言うのを聞いて、老人は両手を後ろに回し、悪戯っぽく笑った。口の周りの皺が伸びている。


「主、虎道は知っておるか?」


「コドウ?」


「夏の国の武術だよ」


 ガストーネが説明をしてくれた。

 現実世界にある武術ではなさそうだ。 


「主は生まれ持った魔力が多くないが、虎道なら主にも使える様になるはずじゃ。この先、世界を巡り、魔界にも足を踏み入れるとなれば、強くならねばなるまい?」


 俺は混乱してガストーネに対して、首をかしげて見せた。


「魔力って混血の人間じゃなきゃ持ってないのが普通なんじゃないんですか?」


「魔力自体はこの世界に存在する生き物は多少なりとも持っているけど、それを魔法の形にするのに精霊や魔族の血がいるんだ。混血でない人間でも西洋では魔力を武術に使うよ」


 老人の言葉の足りない情報を補うようにガストーネがまた説明を挟んだ。

 クーロのような混血にしか魔法は使えないが、俺にも魔力はあるという事か。老人の話を聞く限り、そう役に立つ程のものではないようだが。

 

「魔力の代わりに精霊界にある体を使うのが虎道だ」

 

「精霊界ってあの精霊界ですか?」


「我々の世界は精霊の世界と重なって存在するものじゃ。我々の世界に存在する物は全て精霊界に違った形で存在しておる。

その大きな精霊界の中の一部に我々の世界と重ならず、精霊しか入れない場所がある。この国ではそちらを精霊界と呼んでいるようじゃな」


 老人はさらに続けた。


「夏の同国人の会館に好きな時に来るが良い」



 




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