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30歳の童貞魔法少女  作者: 青依 瑞雨
3/5

30歳の誕生日に童貞が魔法少女養成学園に入学しました

「さて、着いたわよ」

 あっという間に光が止み、ヴェルの声で目を開ける。

 うっすらと広がっていく視界。僕の目の前に広がったのは、いつもの部屋ではなく木が生い茂った薄暗い森だった。

「一体……ここは、どこなんだ?」

 太ももに当たるチクチクとした草の感触に不快感を感じ、急いで立ち上がる。

 右を向いても左を向いても木しかない。どうやら、本当に森のど真ん中にいるらしい。

「ここは、大魔法使いアルカイダ=サンジェルンが魔法で創った世界だよ」

 頭上からヴェルの声がした。

 慌てて上を向くと、そこにはヴェルの姿は無く真っ白い毛玉の化け物がふわふわと浮かんでいた。

「……君は、誰だい?」

 なんとなくその毛玉の正体に気が付いてはいたが、僕はそう質問をした。

 僕の目の高さくらいまで降りてくると、毛玉は可愛らしい二つの大きな目でこちらを見た。

「ヴェルだよ。まぁ、突然で悪いけどこの姿で失礼するよ。なんせ、もうあの姿を保てるほど魔力が残っちゃいないからね」

 そう頭に直接テレパシーのようなもので話しかけてきた毛玉は、僕が被っている三角帽子の中へ身体を潜り込ませた。

「非常に疲れたから、ナツキの頭の上で休ませてもらうよ。ああ、道案内はするから安心してね」

「いやいや!!色々過程をふっ飛ばしすぎでしょ!!詳しく説明して欲しいことが山ほどあるよ!」

「ああ、それは向かいながら話そう。とりあえず、この森を抜けよう。真っ直ぐ進んでくれ」

 ヴェルの言葉に従って、森の中を歩いていくことが決定されてしまった。

 僕は、もう半ばヤケになりながら森の中を進んでいく。

「ヴェル……聞きたいこと……」

「ああ、約束だしなんでも聞いていいわよ。可能な限り答えましょう」

「それじゃ、Q1。どこに向かっているの?」

「魔法少女養成学園【サンジェルン】よ」

「Q2。それは、何で?」

「それしか、ナツキが戻る方法が無いからよ」

「Q3。あの魔道書で何とかならなかったのかな?」

「無理ね。少しだけ思った結果が、フタナリという中途半端な女体化になったのよ。あの魔道書は、思う強さで発動する力を変える代物だと思う。だとすると元に戻る場合、きっと強さの調整が必要になる。少しでも調整をミスれば、きっと今より中途半端な姿になると思うわ。もしかしたら、人間の姿でさえいられなくなるかもしれない」

「……Q4。僕は、これからどうすればいいんだい?」

「魔法少女養成学校【サンジェルン】に入学してもらう。それが、一番確実な方法だわ」

「……はぁ、それは何故だい?」

「資料を調べるにしても、学園長と話をするにしても、学園内は、基本的に生徒以外立ち入り禁止。だったら、いっそ生徒になってしまった方が早いし効率的だわ」

「なるほど。じゃあ、最後に……。さっき言ってた元に戻れる可能性が一番高い方法ってなんだい?」

 木々の間をゆっくりと進んでいく。

 幸いにも草はそんなに伸びていないので、歩いていくのに不便は無い。

「それは、貴方が魔法少女として勉強をしてアルカイダ=サンジェルンを超える大魔法使いになって、自分の力で元に戻る魔法を考えることよ」

 少々の沈黙の後にヴェルが述べた答えは、僕の想像を遥かに超えるものだった。

「はっ……ははは。何かの冗談だよね?」

「私は、冗談が好きだけど、これは冗談じゃないわ」

「ヴェル~……。もうさ、いい加減にしようよ。本当にさっきまで何にも知らなかった僕がなんでいきなりこんな目に遭うのさ!」

 自分に降りかかる不幸や急展開に語尾が荒くなった。草を踏みしめる足にも力がこもる。

「……ナツキ、ちょっとひどいことを言うわよ。魔道書を買ったのは誰?魔法を使ったのは誰?フタナリになったのは誰?私は何もしていない。自業自得でしょ?」

「ぐっ!」

「貴方が男に戻りたいというから、元に戻れる可能性がある世界へ移動したわ。私のなけなしの魔力を使ってね。そんな私が、何故貴方に非難されなければいけないの?」

「……っ、ごめん、ちょっとイライラしてた」

 かなりの自己嫌悪。ヴェルの言うことは、正論でしかなかった。

 そう全ては、自分のせい。ヴェルは、僕が元に戻りたいという願いを必死に叶えてくれようとしてくれているだけなのだ。

「ねぇ、ヴェル。なんで、そこまでして僕のこと助けてくれるの?会ってまだ少ししか経ってないのに……」

「120年もの幽閉から助けてもらったのよ。そりゃ、こっちも助けてあげたくなるのが人情ってもんでしょ。それに……あの学園にはとても大事な用事があるしね」

「そういえば、ヴェルを閉じ込めた人って誰なの?それに用事って?」

「……ごめん、今はまだ言えない。でも、もしかしたらいつか聞いてもらうことになるかもしれない」

「そう……。まぁ、無理には聞かないよ」

「ふふ、ありがとう。さて、見えてきたわよ」

 ヴェルの声に顔を上げると、木々の隙間からちらりと何かが見えた。

 思わず駆け足で森を抜けると、そこにはありえないほど大きな建物があった。

「これが、魔法少女養成学園【サンジェルン】……」

 独り言を呟き、建物を見渡す。

 古風の感じがするが立派で綺麗な洋風の校舎。

 それが、目の前にでーんと広がっている。というか、大きすぎてそれしか見えない。

 ふと横を見ると遠くの方に列を成す人達の姿が見えた。

「どうやら、あっちが入り口のようね。ナツキ、さっそく行きましょう」

「うん」

 少しづつ近づくにつれて、先ほどの列が女の子達だというのが分かった。

 どの女の子もコスプレのような可愛らしい衣装を身に着けて、学園の入り口に並んでいた。

「ほら、あんたも並びなさい」

「あぁ、うん。分かった」

 ヴェルに促され、慌てて列に並ぶ。

 列の横から顔を出して前方を観察する。

 どうやら、この列は学園の校庭のほうへ続いているようだ。

「これは、一体何が始まるんだろう?」

「……あら?あなたご存知無いのですか?」

 突然後ろから声をかけられた。

 慌てて後ろを振り向くと、そこにはピンク色の髪と衣装を纏った少女が口に手を当てて上品に笑っていた。

「そのお姿から、あなたも【サンジェルン】の入学試験を受けに来たものだと思ったのですが……」

「ええ、まぁ。はい、その通りですが……えっと?」

「ああ、自己紹介が遅れましたわ。わたくし、サルビア=ムーガルンと申します。以後、お見知りおきを」

「あ、僕は、カノウ=ナツキっていうんだ。宜しく、サルビア」

 握手をする為に右手を差し出すが、サルビアは不思議そうな顔をして僕の胸に手をかけて……

 もみゅん

「ひゃん!」

 優しく揉んだ。

「なっなっなっ、なにをっ!?」

「あら、失礼。男性のような名前だったもので、つい。でも、どうやら女性だったようで安心いたしましたわ」

「とっ、当然じゃないですか!嫌だなー、魔法少女養成学園に男なんて来ないですよー」

 愛想笑いで誤魔化すが、心臓は早鐘のように高鳴っていた。

 危ない、下を触られていたらアウトだった。

「うふふ、あら?わたくし達の番ももうすぐのようですわ」

 サルビアがそう言って、列の前方を指差した。

 見ると校庭では、いくつもの机が用意されていて、空いた机に一人づつ進んでいくような感じで列が分かれていた。

「あれは、何をやっているの?」

「さぁ?わたくしも今年初めて受験しますので分かりかねますが、恐らくあれが入学試験だと思いますわ」

 ふーんといった感じで試験を受けているであろう少女達を見る。

 試験官のような人の前で、机の上に置かれた水晶玉に一生懸命に両手を差し伸べていた。

 紫色に水晶玉が光った者は、大はしゃぎで喜んでいて、逆に光らなかったものは落ち込んで校門の方へ向かっていく。

 なるほど、実に分かりやすい。

「次の方、どうぞー」

 見ると、空いた机の前で大人の女性が僕を手招きしていた。

 どうやら、いつの間にか僕の番が回ってきたようだ。

「あっ、宜しくお願いします」

 机の前まで移動して、その女性に頭を下げる。

「宜しく~、じゃあさっそく試験を始めるわね。目の前にある水晶玉に両手をかざして、今一番やりたい事を思い浮かべてちょうだい。はい、スタート!」

 女性は、有無を言わさぬスピードでパンッと手を叩いて試験を始めた。

 僕は慌てて両手を差し出して、目を閉じた。

 やりたい事、やりたい事、やりたい事……。

 やりたい事を必死になって考えていると、目の前が一瞬にして明るくなった。

 目を開けてみると、目の前の水晶がものすごい勢いでピンク色に光り輝いていた。

 試験官の女性は、物珍しい顔でその光を見ていたが、僕の顔を見てにこっりと微笑んだ。

「ふむ、君、面白い魔力を持っているわね。合格よ」

「おぉ……。あっ、ありがとうございます」

 あまりにもあっけなく試験が終わったので、一瞬呆けてしまったが、無事に入学試験に合格できたようだ。

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