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30歳の童貞魔法少女  作者: 青依 瑞雨
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30歳の誕生日に童貞が魔法少女になりました


「それにしても、面白くなってきた!」

 僕は、ニヤニヤする顔を抑えきれなかった。

 魔法に悪魔に異世界といったファンタジーが、目の前にある。大好きなオンラインゲームの世界をリアルに体験している感覚。

 正直に言うと、堪らなかった。最高の誕生日プレゼントといってもいいだろう。

「まさか、本当に魔法使いになれるとは……」

 魔道書を手に取り、独り言のように呟く。

「都市伝説では、30歳まで童貞だったら魔法使いになれるとあった」

 ちらりと用意した衣装やステッキなどを見てみる。実はこれ、オンラインゲームで僕が操作するキャラクターのコスプレ衣装なのだ。

「……この衣装を着て、世界を救う魔法少女になれたら面白いのに」

 素直にそう思った次の瞬間!!

「紅よ。我が身体を幼き雌の姿へと変化させよ」

 まったく、言う気のなかった言葉が無意識で口から発せられた。

 ハッっとした時には、僕の身体が光に包まれていた。

 急速に身体が華奢になっていくのを感じる。胸とお尻が膨らみ、腰がくびれていくのが分かった。

「……マジかよ」

 そう呟いた自分の声に絶望する。明らかに高くなっていた。

 慌てて鏡で自分の姿を確認すると、ぱっと見は変わっていなかった。

 だが、男にはありえない大きさの胸に急成長でズボンに収まらなかったお尻が、僕の身体の大きな変化を教えてくれていた。

 慌てて服と破けたズボンを脱ぎ捨て、全裸になり鏡を覗く。

 そこには、女性の体つきになった僕の姿があった。

「なん……だと……」

 僕は、さっきヴェルが言った言葉を思い出していた。

 『自動魔法差動装置、勝手に魔法を発動させる』

「おいおい……冗談だろ。ちょっとでも思ったら勝手に発動するなんて……」

 目線を下に落とすと、見事な大きさの小玉西瓜が2つ胸に張り付いている。

 そして、その下には男の象徴であるブナシメジが……あるなぁ?

「あれ?付いてる??」

 てっきり女性になってしまったと思っていたが、股間にはしっかり男性器が付いていた。

「ってことは、おっぱいだけついたって事?」

 不思議に思い、何気なく手を股間に持っていく。そして、僕は全てを悟った。

 そこには、両方あったのだ。男性器と女性器が1つずつ。

「同人誌やエロゲーで見たことがあるぞ……。いわゆる、『フタナリ』ってやつだ!!」

 ガチャ

「!!??」

 お風呂のドアが開く音がした。どうやら、ヴェルがシャワーを終えたようだ。

「とっとりあえず、何かを着ないと……」

 しかし、お尻が大きくなってしまったせいで今までの服はきっと入らないだろう。

 そう思い、僕は覚悟を決めた。

「ふぅ……いいお湯だっ!?」

「ヴェル~、どうしよう……」

 僕は、仕方なく唯一身体にぴったりな服である魔法少女のコスプレ衣装を来ていた。

 当然、その姿を見たヴェルは凍りついていたが、一呼吸後に我に返ると大きくため息を吐いた。

「何をしたの?詳しく説明なさい」


「また、厄介なことになったわね……」

 全ての事情を説明すると、ヴェルは難しい顔をして僕が用意した麦茶を一口飲んだ。

「肉体変化の魔法は、それを使用した人かその使用者を遥かに上回る魔法使いにしか解けないのよ。ナツキの場合は、魔力だけ使われたという形になるから魔道書が魔法の発動者となるわ」

「というと?」

「その魔道書の著者か、その著者を上回る魔法使いにしか解けないって事」

 僕は、慌てて魔道書の著者を探すべく、魔道書の表紙を覗き込んだ。

 魔道書の表紙には、難しい言葉でなにやら書いてあるが、日本語ではないので読むことが出来なかった。

「アルカイダ=サンジェルン。それが、著者の名前よ」

「おお!ヴェル、この文字を読むことが出来るんだね!じゃあ、その人を探して解いてもらえば」

「無理ね」

 僕の言葉を遮るようにヴェルは、そう言うと一気に麦茶を飲み干した。

「え?なんでさ?」

「アルカイダ=サンジェルン。世界最高の大魔法使いと言われる男だったわ。享年87歳。既に死んでこの世にいない男よ」

「なっ!?」

「しかも、魔法の基礎を構築したと言われている魔法を創った人なのよ。彼を超える魔法使いを探すのも絶望的でしょうね」

 一気に目の前が暗くなる。30歳童貞でフタナリ処女……なんなんだ俺の人生は……。これだったら、まだ完璧な女性だった方がよかったぜ……。

「恐らく、ちょっとだけしか思わなかったことがナツキを完璧な女性にするのを防いだのだろうね。それに、年齢も若返っているみたいね。16歳ってとこかしら?」

「ああ……見た目は、ほとんど変わってなかったから気がつかなかった。僕、若返ってるんだ……」

 16歳と聞いてちょっとだけ救われた気がした。まぁ、若さがあるならフタナリでも……。

「よくねーよ!!!」

 思わずいきり立って、その場で絶叫する。

 その後すぐに左右上下から壁ドンの音が聞こえた。しかし、そんなことは気にせず、俺はヴェルに詰め寄る。

「ヴェル、何とか元に戻る方法ないかな?僕、このままだと仕事とか色々困るんだ!何とかならないかな?」

 さっきまでファンタジーに夢を見ていたが、自分に危害が及ぶとこうなってしまうのは情けないことだと思う。

 でも、僕はこのまま一生元に戻れないかもしれないと知り、一気に気持ちが冷めてしまっていた。

「まぁ、確実とはいえないけど……戻るかもしれない方法はあるわよ」

「え!本当に?どんな方法?」

「アルカイダ=サンジェルンは、魔法創造の後に学園を設立したわ。《魔法少女養成学園【サンジェルン】》を」

「魔法少女養成学園?」

「私も何故、魔法少女限定の学園を創ったのかは知らないわ。ただ、その学園の学園長は、決まりで代々【アルカイダ=サンジェルン】の名を継ぐの」

「名前を継ぐ?どういうこと?」

「学園では、3年間魔法少女として勉強することが出来るの。そこで、卒業すれば一人前の魔法少女として困っている人の為に活躍できる証を手に入れることが出来るわ。但し、卒業生の中で一番優秀だった生徒は、次の学年が卒業するまで学園長として生徒を導く役目を受けるの。そして、その時に初代学園長だった【アルカイダ=サンジェルン】の名前を襲名するのよ。強制的にね」

「へぇ~……。じゃあ、もしかしたらその学園長だったら元に戻せる可能性があるかもしれないってこと?」

「ええ、それにもしかしたら学園自体にも、元に戻る方法を示した資料があるかもしれない」

 なにやらとんでもない話になってきた。ヴェルの話では、どうやらその学園とやらにどうしても行かなくてはいけないらしい。

「ヴェルの力でどうにかならないの?ヴェルもさっき魔法使えてたよね?」

「残念だけど、私はアルカイダ=サンジェルンを上回るほどの実力者ではないわ。……それにしても、運が良いと言うのか、運命と呼ぶのか」

 ヴェルは、そう言うと胸元なら銀色の懐中時計を取り出すと時刻を確認した。

「さてと、急がないと入学試験が始まってしまうわね。急ぎましょうか?」

「へ?どうするの?」

 唐突なヴィルの提案に僕は目を丸くする。

 入学試験?急ぐ?頭が会話についていかない。

「決まっているでしょう?魔法少女養成学園【サンジェルン】に行くのよ。格好、魔力、見た目。魔法少女の素質なら十分すぎるものをナツキは持っているわ」

「いや、ちょっと待ってよ!まだ、行くとも言ってないし、心の準備が……」

 まごまごと尻込みする僕の腕を引っ張ると、ヴェルは指先で何かを空中に描くように躍らせた。

「とりあえず、出発しましょう。詳しい話は、着いてからで。時間が惜しいわ。……黒よ、始まりの扉、希望の光の下へ」

 ヴェルの呪文詠唱と共に目の前に扉が現れる。

 あっけに取られている僕を引っ張りつつ、ヴェルが扉を開ける。

「ちょっと、待ってって!急展開過ぎるよ!!」

「駄目よ、覚悟を決めなさい。それに、元に戻れる可能性が一番高い方法もこの瞬間にしか試せないわ。ナツキ、貴方ならもしかしたら……」

 僕の身体とヴェルの身体が光に包まれる。

 その光のあまりの眩しさに思わず目を閉じた。

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