3.いくつもの要素
エウィルダは内心呆然となっていた。
そもそもコウェルダ公爵家となのれば大概のものは目を丸くし、人によっては平伏することもある。
また事の真偽を図るためのアイテムもあり、そのときにはそれを見せることになっているが、彼には一切の感情の揺れる雰囲気がなかった。
目が見えない分そういう雰囲気を悟るのは敏感である。
だからわかったことであった。
「しかし、今から行くところってここから遠いんですか?」
街道をそのまま真っ直ぐに進めばつくということを話し、前を進んでもらっている。
「え、ええ、そうですね。少し遠いところにあります」
いろいろと考え込んでいたので少しどもったが、それに対してタツヤは何もいわず「そうですか」と返してまた歩こうとしたが、つと止まった。
「ど、どうしました?」
不安げにエウィルダが尋ねるとすっとタツヤが片手を上げた。
「今挙げている手の指の数、見えますか?」
と言われた。
え?とも思っていたがぼんやりとだが三つ立っているのは見えるので「3」と答えた。
「ふむ、じゃぁ、そこの草むらの白い葉がある枝が何股になっているかは見えますか?」
と言われて言葉に詰まった。
ゆびさされたところはわかる。まだ夕方を軽く過ぎ森の中ゆえあたりは暗いがランタンのあかりもあるしわかりはするものの、たくさんの枝葉はひとつにまとまっていてとてもではないが細かく判別できない。
答えに窮していると
「やっぱりあまり目が良くないみたいですね」
そう言われて「はい」と答えた。
目が悪いのはなおしようがないしどうしようもないのに、何を突然言い出すのか理解ができない様子だった。
だが、唐突に青年は、手のひらをかざすとぽんと二つのガラスがくっついたものを現してすすめてきた。
「これを顔にかけてみてください」
そういわれたのだが、今の現象、手品のそれとは違うものである。
召喚魔術。それしか思いつかない。
おずおずと幻ではないのかと思ったが目の前のものはちゃんと存在しているようで感触がある。
おそるおそるだったので、触れはするもののどうしていいかわからずまごついていると
「仕方ないですね」
とタツヤがエウィルダにそれをかけた。
「メガネですけど度はあっていますかね」
エウィルダが目をあけたとき視界はすごくクリアになった。
細かいものもよく見える。
世界が違って見える。
そして、目の前の彼自身もよくみることができ思わず目を見張ってしまった。
黒いさらりとした髪に端正な輪郭。
そして意思の強そうな凛とした表情。
涼やかで綺麗な容貌がそこにあった。
百人にきいて百人が目を見張るほどの。
「よかった、度はあったみたいですね。では先を急ぎましょう。完全に真夜中に入る前に目的の場所まで行かないと」
そう言ってタツヤが手をもう一度かざすと今度はひとつの光の球体が浮かび上がる。
「ウィルオーウィスプ、行け」
彼がそう命じると光の玉はすごいスピードで進み、やがてまた戻ってきた。
それが彼の目の前で止まると何かを訴えるようにふわふわと浮かんでは沈んだ。
「ふむ、けっこうすぐそばだったようですね。では行きましょう」
そうすたすたと歩き始めた。
先程までの光景にぽかんとしてしまった。
聖霊師・召喚魔術・そして最大級のイケメンに加えて、精霊魔術まで・・・・・
イケメンはともかく、三つは同じく使えるものなんて聞いたこともない。
何者なのか首をひねりたくなるけど少なくとも今は自分を守ってくれる存在であると、それが唯一にして一番ほっとする内容であることに頬を熱くして、改めて気を取り直してエウィルダは彼のあとをしっかりした視界のなか遅れないように歩き出した。