2.治癒
「助けていただきありがとうございます」
助けられてほっとしたのかようやく立てるようになり青年の手をとって立ち上がる。
しかし、やはり足の骨を折ったようで立ち上がってすぐに痛みによってうずくまってしまった。
「足の怪我されたんですか?」
青年はどこか戸惑っているような声音で話しかけた。
「ええ、ちょっと・・・」
「そうですか・・・ちょっとだけ失礼します」
青年は少女の痛いと思われる場所にそっと手を伸ばす。
刹那、少女についさっきのことが思い起こされる。
ここに来る途中の馬車の中で・・・・
付き添いとばかりに同じ馬車に付けられた若い執事に暴行をうけそうになったことを。
「いやっ!」
反射的に足を引く。
それに戸惑うも青年はその様子を見て
「すみません。でもすぐに済みますから」
と引いた足に手をすっと添えた
そこに柔らかな光が立ち込める。
「え・・・」
少女の目に不思議な色が灯る。
そもそも少女は目は実はよくはみえていない。
全体的に像がおぼろに見えるのである。
日常生活にはあまり支障はないほどだが顔などの輪郭は見えても細かいところまでは見えない。
でも青年がこの柔らかな光のように優しい雰囲気があるのがようやくわかってきた。
そんなことを考えていくうちに足の痛みは引いていった。
「これで、もうだいじょうぶでしょう」
それだけ言うと立ち上がり、
「馬車の中にある荷物をちょっと持ってきますから少し待っていてください」
といい馬車まで歩み寄っていった。
少女としてはあまりのことにしばし呆然と痛みの引いた足をさする。
もう痛みはない。
熱も持っていない。
あんな短時間でこんなこと・・・・
この世界には魔術師・聖霊師という物理的なものでなく魔法といったものが存在する。
しかし、そういう人はひと握りであり、そもそもこうして治癒ができる人を聖霊師と呼ぶがそれこそ希である。
いるにはいるが神殿で最高位のものであるというのが世の常識である。
そして、そう言う人は王とか偉い人でないとこないもので一般的に治療は民間療法によるもののみである。
そんな聖霊師の方とこんな森の中で出会うなんて・・・・
「お嬢さん。これで全部です。とりあえず、どこかへいくところだったんですか?もしよろしければ道中護衛も兼ねて一緒に行きませんか?」
荷物をもってきてびっくりするようなことを言われた。
護衛?私たちを?
それにあれだけ強いのだから無我夢中で首を縦にふりまくった。
「では決まりですね。私はタツヤと申します。あなたは?」
耳馴染みのない名前にきょとんとなったが名乗り返した。
「私はエウィルダといいます。この子は・・・」
少し言いよどんだが、意を決していった。
「コウェルダ公爵家第六男、レイ=コウェルダです。どうぞ道中の護衛、よろしくお願いします」
そういい大きく頭を下げる。
相手の反応をちらりと見つつ。
そんな少女-エウィルダ-に対してタツヤはにこりと微笑み
「ええ、どうぞよろしくお願いしますね」
そういって、荷物をもっただけだった。
その反応に内心驚きつつも、赤子を抱き直し、ゆっくりと踏みしめるように立ち上がって一緒に歩き出した。