1.逃走の果てに
ふと思いついたので、ちょっとかきこ。
ガラガラガラ・・・・
一台の半壊した馬車が街道を走る。
御者台には片手に赤子を抱き、もう片方の手で慣れない手つきで手綱をとるメイド服の少女が一人いた。
その後ろには・・・・
グウォォォッォ!!!
巨大な一匹のトカゲが咆哮をあげて追いすがってきた。
森の木々をなぎ倒しながらやってくる。
「早く・・・・早く、森を抜ければ」
疾走する馬車だが、両輪はそろそろ崩壊のおそれもあればそもそも馬も全速力を出し切り、崩れる間際。
そして・・・・
「きゃぁ!」
馬が石にでもつまづいたのか、前足を折り、転がる。
それに伴って、馬車も横転する。
少女は必死に赤子をかきいだき衝撃に備えた。
衝撃はすぐきたが、背中に襲うそれは草むらによって緩和され軽い打撲程度ですむ。
赤子は乗っているさなかも泣きっぱなしだったが、さらに火が付いたように泣き出した。
「無事、ね」
赤子の鳴き声を聞いて安堵した。
だが、ほっとしたのもつかの間。
ヒヒーーーン・・・・
馬の断末魔。そして、砕ける骨の音。にちゃにちゃと粘着くような肉を噛み締める音。
追いかけてきたトカゲが馬を生きたまま丸呑みにしつつ咀嚼する。
馬は悲鳴をあげ続けていたがやがてそれも途絶え瞬く間にトカゲの腹へと落ちていった。
少女はその一部始終を目をそらすこともなく見ていた。
いや、そらせなかった。
自身の末路を想像し、呆然となっていた。
そして、立ち上がろうとしてたがつと右足に激痛が走りまた尻餅をつく。
どうやら足の骨を折りでもしたようだ。
「なんで・・・・なんで、こんな」
赤子を強く抱きしめ、その子の顔を覗き込む。
泣いている顔。
だが視線はその額にいく。
額には透明な宝石のようなものが埋まっていた。
きらきらとした石が月明かりで光っている。
「この子に罪なんて、ないのに」
ぽたぽたと涙を流す。
ズシン・・・ズシン・・・・
地響きがくる。
足音が響く。
さっきのトカゲが馬を捕食し終え、その目を今度はこちらに向けやってきた。
「もう・・・だめ・・・・」
トカゲはよだれを垂らしながらやってくる。
怯え、そして、それでも最後まで守らんと赤子を抱きしめた。
「誰か」
そう呟く。
その瞬間、
トカゲがいきなり悲鳴をあげくの字に体を折り曲げた。
そして、そのまま抵抗する間もなく二つに引き裂かれていった。
「え?」
目を見開き、その光景をみて、そして、
「大丈夫ですか?」
一人の風変わりな格好の青年が目の前に立って、こちらに手を差し伸べていた。