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11.嵐の前の穏やかな一日

 「じい~、じい~」

 「はい、ぼっちゃま、なんでございますか?」


 庭先でタツヤは手入れをしているところであり、そこへちょこちょこと大きくなったレイが足元へ寄ってきた。

 

 「おっきな抱っこ」

 「はい、よろしいですよ。ほら」


 両脇に手を入れてひょいとあげる。

 一気に挙げられてレイはにこっと笑い、「では」とばかりにタツヤがその場でぐるぐると回るときゃたきゃたと笑い出した。

 

 「ふぅ、はい。おしまい」

 「えー、もっと」

  少しぶぅ垂れるレイ。だが、タツヤはそれを微笑みながら制す。

 「申し訳ありません。ですが、これから皆でピクニックに参りますし、ではそこで思い切り遊びましょう」


 「ほんと?やった!じゃぁ、待ってる」


 と、ペタンとその場にしゃがんでにこにこして体を揺らし始めた。


 「はい、もう少し手入れが済んでから出かけますので今少しお待ちください」


 そう言って精霊魔法で刈った草を風を起こして上空にひとかたまりにして火を灯す。

 巨大なかがり火のようなものができあがる。

 煙は風で細長くしつつ散らし、一気にもやし、灰ができあがった。

 その灰を所定の小屋の位置におく。

 洗剤なり消化用なりに使うつもりである。


 「レイ様、タツヤ様、料理の支度ができました」


 そういってお弁当の詰まった重そうなバスケットを持って出てきたのは長い栗色の髪を三つ編み状にして髪をシニョンにまとめあげたメイド服のエウィルダが出てきた。

 「ありがとうございます。おや、今日はシニヨンですか?髪のバリエーションが本当に豊富ですね。この間のマーガレットもよろしかったですが、そちらもお似合いですよ。いつぞやの先生風ですし、今日はエウィルダ先生とお呼びしましょうか」

 「もう、タツヤ様、からかわないでください」


 姉が美貌の歌姫でも名の通っていた通りその妹もまた、といった具合に頬を染める姿は花のような愛らしさを醸し出していた。

 ただ、それに対してタツヤはただただにこにこと微笑んでいるのみであった。


 「さて、ぼっちゃま、エウィルダさん、近くの丘まで参りましょうか」

 「うん」「はい」

 「ぼっちゃま、返事は「はい」ですよ」

 「?うん」

 「・・・・まぁ、今日はよいでしょう。では行きましょう。エウィルダさん、お荷物はお持ちしましょう」

 「はい、よろしくお願いします」

 

 そうして皆揃ってピクニックにいくことになった。

 皆とてもにこやかに歩き、特に外に出るのがとても好きなレイは彼らの周りを走り回りながらはしゃいでいる。

 

 タツヤは周りの気配を確認しているが、魔物の気配はない。

 そもそもレイの額にはもう宝玉がなかった。

 綺麗な額となっており、一部その名残のような微細なコブのようなものがあるだけであった。

 それは徐々に埋め込まれていき、それが見えなくなった頃には魔物が襲ってくるということはなくなった。

 一歳半までは外出の度に襲ってきて大変なことこの上なかったが、そこはタツヤがうまく撃退して事なきを得ていた。

 それ以降から徐々に襲撃はなくなってきて、二歳になったころにはほぼおさまっていた。


 ただ


 「じい、なんかまた妖精さんがついてきてるけど」


 地の精霊が実体化したコロポックルを中心にふわふわと風の精霊のシルフなどがこちらの周りを漂いながらついてきている。

 そう、何故か無害であるがそう人に好んで近寄るはずのない精霊たちが来るのである。

 実体化していている妖精もうそうだが、レイといるとタツヤも精霊魔法は調子がよいようなので目に見えない精霊もかなりのかずいるようである。

 タツヤは苦笑しつつもひとつの仮説をたてていた。


 魔物に襲われるということもあるがそれに付随して精霊にも注目されやすい。

 そういう子なのかもしれないと。

 

 それならそれでよいともタツヤは思った。もしかしたら将来そういう魔法を使える魔法師になるかもしれないしそれなら自衛もとれるだろうから。


 今はこうしてついてきているだけで無害であるので放って置いているがもし危難があれば迷わず排除する準備をそれとなくタツヤは常時していた。

 エウィルダもレイのその様子にタツヤと同じく苦笑混じりではあったが姉から受け継いだものであるという思いもあり、より一層の愛情を注ぎたいという思いになっていた。


 さて、そうこうしているうちに丘につき、皆で仲良く景色を楽しみながら食事にした。

 木々の間にぽっかりとした空間があり、そこから下の風景がみえる。


 雄山渓谷、人の手の入っている様子はない。

 そんな大自然が織り成す景色を彼らはこの上なく好んでいた。

 

 レイにはちょっと退屈であったかもしれないがそれでもこの場所に来れば皆と遊べるということから一番好んでいる場所であった。

 皆というのはタツヤとエウィルダ、それに実体化している妖精たちであった。


 家の庭からは妖精は来ないのでここにくれば皆寄ってくるから好んでいるのであった。

 

 そんな和やかに御飯を食べ、仲良く遊んでいる最中タツヤとエウィルダはふと走り回るレイをみながらお互いに話し始めた。


 「もう、これも今日でおしまいなんですね」

 「そうですね。招待状の期日は明後日でしたよね。では明日の朝に馬車ででかければ間に合いますね」

 「ええ・・・・でも、なんだか不安もあって」

 「大丈夫ですよ。そのあたりはたくさん話し合ったじゃないですか。継承権の放棄をする。それさえ済めばまたここに戻ってきてこの暮らしに戻ればいいんですから」

 「そう、ですね。それにタツヤ様がいますし、護衛も医者も心配ないですものね」

 「あはは、それの心配はないですね」

 「それに、あの子への親の愛も」 

 「・・・ええ。でもせめて一度だけでも父親に目通りはさせてあげたいのはありますからね」

 「・・・その必要ってほんとうにあるのでしょうか?こうして私たちを放逐したもとである人なのに」

 「そうであったとしても三年たちましたし、経過報告的なものだけでもしておくにこしたことはないでしょう。それに継承権の放棄はある意味家からの自立という意味もあるのでしょう?我々もいますからぼっちゃまのことは我々がしっかりと養育していけば、それでよろしいではないですか」

 「ええ。国からの正式なものとして受理されますから」

 「なら何の心配もないですよ。ああ、でもひとつ心配はあるかもしれませんね」

 「というと?」

 「あんなに可愛らしいぼっちゃまをみて手放したくなくなる可能性があるかもしれませんからね。もしそうなったら即時逃走しましょうかね」

 「あはは、そうですね。もしそういう可能性があるならちょっと嬉しいのもありますが、ええ、そうなったらお供いたしますわ、タツヤ様」

 「・・・・あの子がいないですからさん付けでも構いませんよ。執事としていろいろ教えてくださったのですし」

 「いいえ、執事たるもの私のようなメイドを管理する立場にあるものですからちゃんと様付けするのは当たり前です。それにタツヤ様は四大魔法すべてをお使いになられますから執事よりも聖霊師なりで神官になるもよし、精霊師となって人々に繁栄するもよし、英霊師となって騎士にもなれる。召喚師であるから雇われるに困ることもない。そんなすごい存在なんですから、むしろ執事として収まるのは不思議な方なんですよ」

 「んー、そう言われてもあまり実感はないんですけどね。実際に街へ手紙を出したり受け取ったりしてもらっているのはエウィルダさんで私はあまり人と接していませんから」

 「でもレイぼっちゃまの護衛もありますし、屋敷にいてもらわないと。それにわたくしひとりなら身軽ですからね。一応、タツヤ様に複数の護衛用の精霊までお貸しいただいていましたから何の心配もしていませんでしたから」

 「そうですか」

 

 よいしょっとばかりにエウィルダがその場から立ち上がる。

 「今日のこの日を、皆で楽しい思い出になるように一緒にレイぼっちゃまと遊びましょう」


 そういって、エウィルダは小枝で騎士ごっこをし始めたレイに対して一緒に騎士の真似事をはじめた。

 18になったエウィルダは健康的に、伸びやかにしている。

 タツヤも24となり、レイは3歳。

 こうしてひとつの家族として穏やかに過ごす将来もいいだろうなと夢想しつつ、彼もまた身を起こして、レイとエウィルダのもとへと歩き出した。


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