9.目標
そんなこんなでタツヤがエウィルダに雇われて日々が過ぎていった。
そもそも
タツヤはこの子を育てられれば何でもいい。
エウィルダは無事にこの子を育て切り、タツヤに守ってもらえたら
という利害が一致しているからというのもある。
それにタツヤは正式な雇用というわけではないし、かつ給与もない。
一応、あのいなくなった男の分も含めて三年分の給与を前倒し的にもらっているので、それでくいつなげるというのもあるが魔物を引き寄せる性質のあるレイを連れているのでおそらくは生前贈与という意味合いがもしかしたら強かったのかもしれない。
というか、そもそもいろいろと二人話していてこの生活は三年、正確には二年と七ヶ月続けたらよいというのがある。
それというのも、エウィルダもただただじっとここに住まうわけではない。
三年経った時にある計画をひめている。
それは、希望的な観測だが二、三年もしたらレイの魔物を引き寄せることがなくなるというものがあるようなのである。
エウィルダは、異常事態が起こったことにより、ありとあらゆる手段を用いてこのことに関して調べ物を行ったが、古い文献、というよりも神話に近い物語の中にレイとよく似たような子のお話があることをつきとめた。
その子は同じく魔物を引き寄せる、ということで森に捨てられるも通りかかった狼によって育てられ立派に成長し、一人の英雄となったという話である。
その間、魔物を引き寄せていたのは二年と記されている。
もっとも、その子の額に何かついていたのかは定かではないが、それでもそういう話がある以上なんらかの信憑性があると信じ、せめて3歳の年祝いまでしっかり生き延びようと決意していた。
無論そのための儀式を組んで欲しいわけでなく何かのパーティーに紛れて宣言するつもりである。
三年分の給与もおそらくそこから起因しているだろう。
死んだらそれまでだが、飢えて死ねというわけではない。
生きていれば顔出すくらいは許してやるということなのかもしれないのだから。
それにしっかりとこの子の証明としてのコウェルダ公爵家の子どもである証もうまれたときに拝受されているのでそれが証拠となるので疑われてどうこういわれることもない。
だから、そのためにも生き抜き、エウィルダはこの子の名誉のためにそのパーティーの席で言ってやるんだとも思っている。
「この子は忌子なんかじゃない。もう忌子でもない」
と、言ってやるんだと。
証明するには近く精霊師のひとりを呼んで実証検分をしなくてはならないが、あの公爵家には精霊師が二人いるので問題ない。
そもそも、異常があると探り出したのがその精霊師なのだから。
宣言したあとについては考えていないが場合によっては権利放棄してどこかで離れて暮らすこともエウィルダは考えている。
そのことも包み隠さずタツヤに離したが反対するどころか諸手をあげて賛成してくれた。
曰く「偉くなっても責任ばかり増大するからね」と。
何かを悟っているかのような言葉に話す前は申し訳なさでいっぱいだったのにこれには唖然とした。
名誉や財産を手に入れることをむしろ厭わしいとすら思っているフシすらある。
「よかった」と安堵して、そしてならば立派にこの子を育てましょうとお互いに笑い合って誓い合った。
生活面に関してはタツヤの召喚魔術で生活物資は確保可能であり、生活面での光熱に関しては精霊魔術でどうにかなるし、必要な家具や雑貨類に関しては英霊魔術で職人さながらに作り出すことができる。
そんなふうに、けっこう穏やかに日々は過ぎ・・・・
無論、家の周りに魔物が襲来したりしてそれを撃退したり、執事の知識を学ぶことにタツヤがけっこう根をあげそうになったり(わりとスパルタであったし)あと、子を育てるということでなかなかままならないことがあたりしたがどうにか日々二人して試行錯誤しつつ、日を送っていった。




