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わたしは此処にいる

 その時――<何か>が頬を打った。




 極めて小さく――濡れたもの。




 "鳥頭" は、気のせいだと思った。




 しかし――またひとつ。




 そして――三つ目。




 見えないが、<何が打ったのか?>は、わかった。




 しかし

 ――立て続けに<幾つか>が打った後も…

 <何が起こっているのか?>

 は、わからなかった。




 ただ、恐怖していた。




 そして――避ける事を欲する。




 コンクリートに戻ろうとする

 ――その時に知る。




 動けない事。




 足に何かが引っかかっている感覚。




 "鳥頭" は

 ――前からやって来る……

 <細かい水>に連打されながら

 ――まだ全身ずぶ濡れではない………

 手を足に沿わせた。




 爪先があるべき場所に指が到達する

 ――白マテリアに触れた。




 周囲を弄る。




 足はなかった。




 足首から上、脹脛は――




 《棒の様に》




 ――空間の中

 ――在る。




 感触が在る。




 しかし――踝の出っ張りはない。




 下は

 ――緩くなった粘土の様な

 柔らかさだけ。




 まるで、

 爪先から踵、踝までが

 <地面に埋まっている>

 ようだった。




 "鳥頭" は掘り始める

 ――片方の足首の輪

 ――その外円に沿って。




 そのさま――期限ギリギリまで仕事をしない人間。




 地を掘り続ける

 ――というより

 ――引っ掻いていた。




 その間も、水は

 ――前から

 叩き付けてくる。




 水には、情け等、ない。




 掘る間も、叩き付ける量は増え続ける。




 滴が一筋、皮膚を伝う程になった。




 それでも、"鳥頭" は顔を上げない。




 数を数えない

 ――「数えきれない!」

 ――で済ますのだから。




 気が急く。




 そして、ある程度の深みを得た時

 ――突然

 "鳥頭" はバランスを崩した。




 後ろに転ぶ――達磨の様に。




 木馬の様には揺れなかった。




 足が自由になって

 ――膝が頭より

 高く上がっていた。




 "鳥頭" は、地に腰掛け

 ――黒の中

 ――濡れながら

 足首に手を伸ばした。




 そして――自分の足がない事を知った。




 空間の中、

 踝から下が

 <千切れた>

 かの様に、ない。




 "鳥頭":

 「ちょっと待った……」




 誰も待たない。




 足はないまま――痛みはない。




 雨は勢いを増していた。




 そして黒だけを映す目が

 ――攻撃に耐えかね

 開けられなくなった。




 "鳥頭" は己の欠乏に驚きながら、

 雨が向かっている方角へ逃げた

 ――這いながら。




 目が開けられる様になった――しかし、映す物は前と同じ。




 進む。




 頭には――




 《何で?》




 《なんで?》




 《ナンで!!?》




 ――の声。




 《俺が何したっていうんだ!!!?》




 そして――




 どうせ――




 答えを探さず――疑問だけ。




 水に

 ――追い立てられる様に進み

 鼻先をぶつけた。




 指で触れると――コンクリートの壁。




 雨は容赦なく、背を襲う。




 そこで

 ――手探りで

 何もない空間を進んだ

 ――右に。




 突然、顔に水の飛来を感じなくなった。




 そのまま進む

 ――身体も同じ状態になった。




 振り返り――手を伸ばす。




 水が在る。




 手を戻す。




 水はない。




 そのさま

 ――曇り空を見ただけでは降雨状況が判断できない為に

 ――窓の外へ手を伸ばす幼児。




 濡れない場所に来たと思い――腰を落とした。




 水滴のフライトは確かになかった……

 ――ただ、びしょ濡れだった。




 "鳥頭" は、胡坐をかいた。




 足はないままだった。




 ずっと在り続けると思い込んでいたものが突然なくなっている時、人はなくなった物と在り続ける物の境目を撫でるようだ。




 《何で?》




 《なんで?》




 《ナンで!!?》




 それは――




 経験主義者エンピリックが未経験の物に出会った時のテンプレ。




 哀しみはない――驚きという感情だけ。




 そして経験主義者の次の一手は決まっている

 ――そのひとつの<未経験>を

 ――例外として

 ――無視するのだ。




 そして経験主義の大家を尊敬する者は

 ――屡

 未経験でありながら、論を展開するものだ………。




 その傍を――水が流れていく。



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