わたしは此処にいる
"蜘蛛宇宙人" は次の一歩という手順を
――すぐには
取らなかった。
ライトを前に向けたまま、立っていた。
勿論、"蜘蛛宇宙人" は進む
――前へ
――愚直に。
障害物があれば、それに対処して進む。
しかし
――その時…
"蜘蛛宇宙人" は、いつも通りを
――直ちに
行わなかった。
目の前の現象に、目が奪われていたのだ。
雨が降っている――左から右へ。
以前も見た現象。
経験した事。
しかし、以前とは少し違った展開がそこに在った。
厳密に云うと、水の動きは――
<左から右に>
――ではなかった。
動き<そのもの>の方向性はそうである。
しかし
――実際は
<地点の真ん中>から右へ、大量の水滴が進んでいた
――障子を開ける様な動きで。
"蜘蛛宇宙人" の目の前に開けた地点、
その右半分だけに水の過激な動きが満ち――
左半分は――
空っぽ。
水の浮遊は微塵もない。
その、左右二つの領域を分ける真ん中には――線がなかった。
少なくとも
――"蜘蛛宇宙人" の目に
<それ>は見えない
――いくらライトの光を当てようと。
水は
――まるで
異次元空間からワープしてきたかの様に
あらわれていた。
――――――――――――――――――――――――
※此処は、
タイムトラベルや時空間移動とは
何も関係のない場所である。
そして、重力ともあまり関係がない……
――数学的問題であり
――文学的場所なのだから。
――――――――――――――――――――――――
"蜘蛛宇宙人" は小首を傾げた
――パグの様に。
雨降る地点の真ん中に、面が見えた。
地点を半分に分ける
――透明の壁の様な
<面>。
円形に見えた。
厚みは見えなかった。
その面から
――色を失った丘疥の様に
大量の半円が隆起し
――面から離れ
――空間で各々
――円形を完成させ
飛び立っていく。
まっすぐ。
"蜘蛛宇宙人" は頭の位置を戻した。
その<面>は見えなくなった
――それでも、水の動きは見えた。
"蜘蛛宇宙人" は再び小首を傾げた
――左の方向に。
<面>は見えないままだった
――さらに
――水の流れも………。
そして頭をまた右に傾げると――
水が発生する<面>が見えるのだ。
"水" の描く――直線的軌跡……
更新され続ける――"それ" が見えるのだ。
――――――――――――――――――――――――
その行先は既に述べた。
――――――――――――――――――――――――
"蜘蛛宇宙人" はその、
地点を半分に分ける<面>の円周から少し外れた場所で
立ったまま、動かなかった。
水が<面>から産まれ、
離れるまでの<繰り返し>
をずっと観察していた。
そのうち、水のパワーがおさまっていくのが、音でわかった。
"蜘蛛宇宙人" はライトだけを残して、
持ち物を濡れない場所に置く。
そしてライトを持たない空いた手を、<面>に近づけてみる
――左右に首を傾げて、<面>の大体の位置を確認しながら。
<面>があるだろう場所に中指の先端を当て
――押し進める。
その時、知る
――<実際に>知る。
水の勢い――ピークが過ぎて弱まり始めた強さ。
濡れる手――それも、中指から右半分だけ。
雨滴が
"蜘蛛宇宙人" の手、右半分の皮膚の上を
――沿う様に
伝う。
そして落ちる――さらに進んでいく。
何度も何度も更新される水。
無尽蔵に見える<元>。
痛みはなかった。
別次元に手が転送される様な現象は、確認できなかった。
"蜘蛛宇宙人" は
――暫くして
手を引き抜く。
そして
――乾いたトンネルの中
<面>に触れていた手に
ライトを当てて
見た。
手に異常は見られなかった。
しかし――新たな事を知った。
<面>は、地点の”約”半分に位置するが、
<半分>を示す領域には一切属さない事を。




