わたしは此処にいる
"蜘蛛宇宙人" は歩き出す
――円柱の中、歩き出す。
<デッドエンド>から<骸骨のあった分岐点>に向かって、歩き出す
――ライトで道を、探り探り。
一度通った道だとしても
――何か変化が無いか…
探り探り。
そのうち、"蜘蛛宇宙人" は考え始める
――そして、点(F)から点(A)に戻った事が腑に落ちない事に気付くのだ。
図にしてみよう
――"蜘蛛宇宙人" の足跡は、以下であった。
「A」 ← ← ← 「F」
↓..............↑
「B」............↑
↓..............↑
「C」 →「D」→「E」
(※<スペース>の連続は自動的に省略される事がある為、「.」で仮に埋めた――この「.」に意味は無い)
"蜘蛛宇宙人" は最初、デッドエンドのある地点(A)から
――点「B」~「E」を経て
点(F)まで進んだ
――そして地点(F)から地点(A)に戻り
再び、地点(A)から再び地点(B)へと歩こうとしている
――分岐点(B)から左に折れ
――まだ見ぬ先を目撃する為。
上の図を見ると、何も妙な箇所は無い
――しかし、"蜘蛛宇宙人" は、<妙な印象>を拭い去る事が出来ない。
目では確認した――地点(F)から地点(A)への移行。
身体で体験した――同上。
考えている時点では点(F)-(A)間に立ってはいないが、記憶の中でも
――地点(F)を離れ、地点(A)に辿りついた
事が残っている
――"蜘蛛宇宙人" の頭の中に残っている。
だからこそ
――それが当然の事であるとして
何も疑問視せずに<前提>とする
――そして、先に進む事は出来る。
誰もがそうするのだろう。
"蜘蛛宇宙人" も
――ほとんど
そうしかけた。
しかし――
《しかし――》
という文句が
――前に進み続ける
"蜘蛛宇宙人" の頭の中を巡るのだ
――そして、それは、当然なのだ……
――ダンジョンの構造を考えると、その<疑問>が発生する事こそが当たり前なのだ。
何故、疑問が生まれたのか?
<感覚の誤謬>と言ってしまえば、問題は簡単に退けられるだろう………
――<直観>だと断定すれば、楽だろう……。
それでも――確認しておこう。
因みに、曲がり角
――点(A), (C), (E), (F)
は、ほぼ直角に曲がっている
――そして
――点は
――(A) ~ (F)まで六点あったが
――"蜘蛛宇宙人" の辿った道を構成して図形化しても
――俯瞰しても…
――正六角形には、ならない。
(付すまでもないが、"蜘蛛宇宙人" は
角度九十度
と
角度百二十度
その二つくらいは判別する事が出来た)
それが一点。
そんな "蜘蛛宇宙人" の<感覚>では直線的トンネル
――「A」→「B」
――「B」→「C」
――「C」→「D」
――「D」→「E」
――「E」→「F」
――「F」→「A」
どこも同じ程度の長さであった
――そしてほとんど、これは正しい。
ディス・イズ・二点目。
以上を踏まえると
――まるで点(D)から点(E)へ行く様にして
点(F)から点(A)に行くのは極めて難しい事になるのだ。
"蜘蛛宇宙人" の印象を図形化すると
――地点(F)に到達した時点では
道の可能性は以下の様になっていた。
「A」→
↓
「B」→「?」←「F」
↓ ↑ ↙ ↑
「C」→「D」→「E」
しかし、実際は
――地点(E)から(F)に伸びる直線的トンネルに対して
九十度左にあった道(「?」←地点F)、その先は
<デッドエンド>(地点A)であった。
《何かを見落としている様な気がする………》
そう考えている間に、"蜘蛛宇宙人" は地点Bに辿りついた。
そこには骸骨があった
――タブレットもある。
白マテリアの中
――少し掘り出された様子は残っているが……
埋もれたまま。
"蜘蛛宇宙人" が離れてから、特に変わった所はない様だ。
そこで
――今度は
――左に曲がろうと
"蜘蛛宇宙人" が身体の向きを変えた時、
声がした。
トンネルの奥から "声" がした。
怒声だった。
"蜘蛛宇宙人" は、ライトを先に向ける。
白いマテリアが動きもせず――ある。
宙を舞いもせず――ある。
白は、道の上で静かに――<道>を作っていた。
まん丸の道の中、動揺
――怖気づき
は、無かった。
ただ、黒があった。
ストゥペフェな闇が
――丸く
あった。
静かになっていた。
そう、"蜘蛛宇宙人" が思った時、
「OI!」
――と奥から
――言葉が続いた
――「おーい!!」に近い響きだが
――「ー」が極めて短く
――何より「ー」に太さがある発声だった
――代替記号として「=」を当てておこう…。
「お=い!!!」
それはそれ程クリアではなかったが
――今度は少なくとも
言葉になっていた。
そして――実際
「生きてるか=!!?」
それらしき言葉が闇の中から飛んできた
――少なくとも "蜘蛛宇宙人" には、「か」の後の「ぁ」が、かすれて聞こえた……。