わたしは此処にいる
そしてトンネルへ踏み出す
――来た道を戻る為。
声は――ない。
「ω」
――は
――壁の上に…
――ない。
いくらライトを当てようと……――
いくら目を凝らそうと。
まっすぐ歩いて――次の分かれ道へ。
そこから
まっすぐ前へ出ると――
「ω」
――が在る。
二歩目で "声" がする………
――背後から。
「わたしは此処にいる!」
前と同じ声色。
また一歩前へ――
すると……――
「いや、<お前>は此処にいない!!」
――と…
――背後から
――"声"。
"ω":
「いいや、わたしは此処にいる!!!」
"ω":
「<お前>は此処にいない!! わたしが此処にいるんだから!」
"声" に "声" が被さる様に……――
"ω":
「わたしが此処に存在する『1』だ!!」
"ω":
「貴様は『1』ですらない!!!」
"ω":
「なら、わたしは『800』だ!!」
"ω":
「どちらだろうと同じ事!」
"ω":
「そうだ――どちらだろうと同じ事!!」
"ω":
「そうだ――どんな数だろうが、あんたはあんただ!!!」
"ω":
「そうだ――みんな終われば同じ『0』!!」
"ω":
「違う――お前は終わったって『1』にもならない!」
"ω":
「わたしは『1』だ!!」
"ω":
「なら、23分の『1』だ!!!」
"ω":
「やっぱり『1』だ!!」
"ω":
「違う!」
"ω":
「そうだ!! 24分の『1』だ!!! あんたは間違っている!!」
"ω":
「わたしは何にでもなれるし、どんな形にもなれる………」
"ω":
「わたしは数字である」
"ω":
「わたしは『口』であり、『目』であり、『耳』であり――」
"ω":
「わたしは『Z』なの……」
"ω":
「わたしは――個性的なんだ!」
すべてが繰り返しである。
それを知っている "蜘蛛宇宙人" が地点(C)に到達した。
声は止まない。
"ω":
「…わたしにはわかっている!!
――お前にはわからない事がわかっている!!!」
そして
――"ω" は
まだ喋る。
「お前は誰からも愛されない!!」
「お前は誰からも尊重されない!」
「お前――友達いないだろ!!?」
「お前――恋人いないだろ!!!?」
「人間の価値はな……どれだけ愛されたかで決まるんだ!!」
「どんなすごい事をするかは問題じゃない!」
「他の人の出来ない技があったって、みんなに愛されなきゃ意味がないの!!」
「人生はな…どれだけ<大勢>に愛されたかで決まるんだよ!!!」
「どれだけみんなの<心>に残るかが重要なの!!」
「愛されさえすれば、何もしなくて良いの!」
「嫌われる位なら、何もしない方が良いの!!」
「ただ寝転がって、楽しんでれば良いの!!!」
「楽しんでいる者が勝ちなの!!」
「それが人間の『良い』という事なの!」
「その意味で………――お前は『悪い』んだよ!!」
「お前は誰からも好かれていない!!!」
「お前は自分で頑張っているつもりなだけで、無駄!!」
「<好かれる>という事が結果なの!」
「問題は、どれだけ<優しいか?>なの!!」
「<どれだけ怠け者に寄り添う事が出来るか?>なの!!!」
「お前のやっている事はすべて無駄!!」
「何をしようと無駄!」
《またか……》
"蜘蛛宇宙人" は
――立ち止まり…
手元を見る
――タブレットが在る。
光の中で、己を主張する文字達。
そこに書かれた言語を "それら" が理解する事はない。
しかし……――"それら" の中に、<鍵>が在る。
繰り返される "それら" の中に――
………たったひとつ。




