わたしは此処にいる
下から斜めに見ると見える――凸。
正面から見ると見えない――それ。
"蜘蛛宇宙人" はスコップとタブレットを床に置いた。
それに相応しい音が、接触音として発生した。
そして――消えた。
しかし、問題にはならなかった
――身体を起こしていた "蜘蛛宇宙人" は
――問題にしなかった。
"蜘蛛宇宙人" は
――立ったまま…
――ライト片手に
撫でていた――
壁から隆起した部分を。
平面な壁では収まらない物を。
<それ>はライトを当てても、具体的にはならない物。
触れる事で在る<状態>を知る事が出来る物。
"蜘蛛宇宙人" は
――壁の
――ある箇所を
撫で続けた。
白いファー越しではなく――直に。
そして――
<出っ張り>が<文字>である事を知った。
そして――
文字はひとつではない――
横に続いている。
前に――後ろに。
"蜘蛛宇宙人" は
――最初に触れた部分を起点として
――左右に拡がっている
その連続した文字列を撫で続けた。
触れている文字が――
<何か?>
――その見通しが付くと、範囲を広げる。
それを繰り返すだけ。
そして――知る。
「ダーリン――五月の芽」
全体の一部である<それ>は
"蜘蛛宇宙人" の母国語
で書かれていた。
そして――
それだけで――
"蜘蛛宇宙人" は壁に書かれている内容に
――ある程度
予想が付いた。
それは――
母国語であるから
――ではない……
――内容がファミリアーであったからだ。
「ダーリン――五月の芽」
予想が付く――
それでも "蜘蛛宇宙人" は、壁に触れ続けた。
そして調べる度に………――予想通り。
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正確には……
――壁には…
"蜘蛛宇宙人" の予想
その通りの<言葉>そのものが
――すべて
記されていた訳ではない。
"蜘蛛宇宙人" が、壁の上の<文字>を知り、
そしてその<知った文字>の前後に記された<文字>を知り
――意味を為させる為に
いくつかの文字を
――頭の中で
グループ化する。
そして出来たグループが複数になると
――グループ同士
前後の関係を探る。
すると、
"蜘蛛宇宙人" が予想した事と同じ趣旨を持った
内容が構成されている事がわかる。
そういう意味で――<予想通り>。
つまり
――壁の上
"蜘蛛宇宙人" の予想とは違う言葉があらわれる事も在った
――が……
予想した言葉と極めて近い意味を持った言葉が在った
という訳である。
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出っ張った文字は
――硬いコンクリートの上………
――丸い壁の上……
横一列になっていた。
そして
――書かれている事は
"蜘蛛宇宙人" のいる
<丸い部屋>
その入口脇から始まり、
入口脇で終わっていた。
直線的で――逸脱はなかった。
文章のはじまりは、
「キミを」。
終わりは、
「キミに」。
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そして文字全体をグループ化させる事で、
<"蜘蛛宇宙人" が防御魔法だと考え違いをしていた物>
に成る。
そしてそれは、実力がない者への
<攻撃魔法>
と成る。
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最初から最後までを読み――
内容が予想通りである事を
――実際に
確認してから――
"蜘蛛宇宙人" は
――ライトを持ち替え
手袋を脱いだ。
ガンを脱ぎ捨てると――
ライトの光を
――自分の
――裸になったばかりの
手に当てる。
そこには――
<黒>
――がある。
そして黒に囲まれた――
<文字>
――が在る…
――壁に書かれた事と同じ内容が在る……
その筈だった。
そこに、在るべき物はなかった。
"蜘蛛宇宙人" が
<在る>と思っていた物
は一切、見えなかった。
手は
――ただ
真黒であるだけだった。
在るべき物がなくなっていた事に関して、
"蜘蛛宇宙人" は歎かなかった。
騒がなかった。
「毎日やってきた努力を返せ!」
――等と叫ばなかった。
もうその時、"蜘蛛宇宙人" は否定していた。
口にせずとも、否定していた――
<そこ>に書かれている事を。
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そして "蜘蛛宇宙人" の否定は否定される………
――"摂"氏 という存在によって。
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