わたしは此処にいる
歩く。
歩みの傍に並べられる
「ˇ」
《今度は、倍の数を歩かねばならないだろう…》
単純に考えても、点(C)から点(E)までの距離の分だけ歩かなければ、点(F)から点(B)に辿りつかないことになる。
"蜘蛛宇宙人" は単調な道を歩みながら考える。
《これまでの行程を踏まえると、[点(F)と点(B)の間に] 新たな分岐点(G)があるかもしれない……》
点(G)があるにしろ
――無いにしろ………
点(B)には辿りつく筈だ……
――"蜘蛛宇宙人" の予想では、そうだった。
直線的に歩き続ける
――道が曲がっている様子はない。
そして、地面が傾斜している様子はない。
歩行中、「Ω」や "声" の問題を考えたりはしない
――それらは、その時点で考えても、どうにもならない問題だ。
暫くして、歩みを止めない "蜘蛛宇宙人" の考える事に変化が訪れる。
それは
――それまで "蜘蛛宇宙人" が抱かなかった
ネガティブな考え方だった
――そして
――その変化が生まれたのは
――行先にある程度、見通しがついた様に思えたからだ。
《こんな事をしている間に、実験がいくつできるのだろう?》
《こんな風に歩くだけの間に、どれだけのサンプルを…》
《次はO2溶液の配合割合を変えて、プロトン駆動力を高めるつもりだったのに……》
《この肩も凋んでしまう………》
しかし、出来る事は
――前に進む事。
それだけ。
同じ様に見える白マテリアの隧道を、前に進むだけ。
それだけ。
ただ、道は、直ぐに変化した
――"蜘蛛宇宙人" が予想するより先に訪れた変化。
道の上、また左が翳っている。
そして――
<灰色>が見えた。
"蜘蛛宇宙人" は最初、見間違いかと思った。
それまで歩いてきた道は、すべて白と黒であった。
どの分岐点
――曲がり角
に到着しても、道は<白>のままだった
――そして先に続く<黒>。
そこに
――新たに
グレイが現れたのだ。
"蜘蛛宇宙人" は、歩き続ける
――確かめるまで。
先は、灰色のままだ……
――そして…
――灰色地点傍に行き
――知った。
コンクリートであった。
"蜘蛛宇宙人" が訪れたその分岐点は、コンクリートで仕上げられた場所であった。
実際、"蜘蛛宇宙人" は
――自分の足で
踏みしめてみる。
《白マテリアよりも固い……》
"蜘蛛宇宙人" は、スペードの先を押し当てた。
「ごつ」
と音がする――
「ˇ」
が、その時、刻まれる事はなかった。
コンクリートは、"蜘蛛宇宙人" の目の錯覚ではない。
そして、"蜘蛛宇宙人" は自分の身体が
――若干
傾斜している事に気がつく
――正確には、足の裏が傾斜しているのだが………。
そのコンクリートの場所にライトを当て
――さらに詳しく調べてみる。
前は行き止まり
――左に道が続いている。
行き止まりは――壁。
四角形を真ん中で少し折った様なコンクリート壁。
そしてその壁の折れ目に、フックがあった
――そして "蜘蛛宇宙人" は理解する。
《ああ……デッドエンドに戻ってきたのだ》
変だ…
とは
――その時……
考えなかった。
"蜘蛛宇宙人" は疑わなかった。
いくら予想とは外れていたとはいえ、
そこにはコンクリートの<デッドエンド>があり、
――"蜘蛛宇宙人" の手袋で握られた
<ライト>を収める<フック>があるのだ。
"蜘蛛宇宙人" は、左手に伸びる道を見る。
そこには
――白のマテリアの上
足跡があった。
<足跡>があった。
その足跡は、"蜘蛛宇宙人" の靴裏と同じ形をしていた。
また同じ事の繰り返しか………
と
――"蜘蛛宇宙人" は
考えなかった。
まだ調べていない場所があるのだ。
確かに、"蜘蛛宇宙人" は、始まりの地点に戻って来たのかもしれない……
――しかし、変化がある。
最初とは、状況が、少し違っている。
その変化故に、"蜘蛛宇宙人" は以前通った道
――らしき道
を再び歩み始めようとする――
新たな心境で…
――心境なるものが存在するのならば……。
そして
――実際
歩き出すのだ。
因みに、"蜘蛛宇宙人" は、ダンジョンからの脱出
――その心配をしない。
ただ、腹は、すき始めた様だ。
腹から音こそしないが
――同じ場所に来た事で
食料の問題を心配する余裕が意識には生まれていた様だ。
そんな中――新たな足跡。
足跡の上にプリントされる――足跡。