わたしは此処にいる
同じ様な道。
同じ事の繰り返し。
ただ、変化はある。
"蜘蛛宇宙人" は、<スコップ>を新たに獲得している。
そして "蜘蛛宇宙人" の認識にも、変化がある。
歩調も変化している。
そして
――しばしば
振り返る。
"蜘蛛宇宙人" は振り返る。
何もない。
追っ手はいない。
声もしない。
足跡。
新たにつける足跡
――その隣
スコップの先を地に押せば
――押すほど
スペードは沈み込む。
そして記すのだ――
「ˇ」。
足跡の隣
――仲良く「ˇ」。
白のマテリアの中にスクープ部分が沈めば沈む程、「ˇ」の両辺の長さが伸びて行く
――しかし、頂点の角度が百八十度になる事はない。
それがそうなる時は
――横たわる時。
"蜘蛛宇宙人" は、スコップを白のマテリアの中、沈めない
――まだ。
引き抜く
――手遅れにならないうちに。
"蜘蛛宇宙人" の視界の中、道に変化が現れた。
また道の先
――折れている。
L字型に折れていた。
左に向かって折れていた。
しかし、そこは単なる「L」ではなかった。
"蜘蛛宇宙人" が、曲がり角までやって来ると…
――そこは一本道ではなかった。
左に、道は
――折れる事は折れるが……
左に<二本>、道があるのだ。
それまで歩いてきた直線的道に対して、
①左へ<直角>に折れる道
②左へ約<四十五度>の角度で折れる道
――その二つ。
"蜘蛛宇宙人" は、②を覗いてみた
――道は続いている
――白マテリアで覆われたトンネル。
「Ω」
の様に、先が行き止まりになってはいなかった。
「ぽかり」
とあいた黒い丸が、
<道の続いている事>を
暗示しているだけ。
そしてその道を形作る○の処理は、
「Ω」
の様に
――まるで、人が気紛れに掘った様に………
歪ではなかった。
歪では、なかった。
"蜘蛛宇宙人" は、考える
――以下の様に考える。
先ず最初に
――目覚めてから……
ライトのあったデッドエンド(点A)を、右に来た。
それをまっすぐ歩くと、<骸骨>のある分岐点(⊥)に到達した(点B)。
それを左に折れずにまっすぐ歩くと、「Ω」のある地点に到着した(点C)。
そこ(点C)を左に折れた
――まっすぐは、進めなかったから。
次に、分岐点(⊥)があった(点D)
――そこで、"声" が聞こえた
――左から、声が聞こえた。
そこ(点D)を左に折れずにまっすぐ歩くと、<スコップ>があった。
<スコップ>を手にして進むと、L字型の角に来る(点E)。
それを左に進む事で、"蜘蛛宇宙人" が立つ場所に来るのだ(点F)。
即ち、行程は
―――――――――
「A」
↓
「B」
↓
「C」
―――――――――
「C」→「D」→「E」
―――――――――
「F」
↑
「E」
―――――――――
←「F」
↙
となっている。
因みに、点から点に向かう丸いトンネルの長さはどれも
――ある程度…
<同じ>程度に思われた
――厳密には同じではないが、その時の "蜘蛛宇宙人" には、同じ様に思われた。
さらにどのポイントでも、道を折れる時の角度は<直角>に思われた
――少なくとも、直角に近い、と云えた
――「F」から先に伸びている②の道を例外として。
以上を踏まえて
――"蜘蛛宇宙人" の頭の中にある距離感では……
その時 "蜘蛛宇宙人" が立っている点(F)を直角に曲がって進む(①)と
――点(E)から点(F)の長さ的に
ちょうど骸骨のあった場所(B)に繋がる様に思われた。
(「B」←①←「F」)
という事は、
②の四十五度の道
――斜めに進む道
は、点(D)の方向に向かっている事になる。
(「D」↙②↙「F」)
以上はすべて、
「道が、直線的である」
という条件に基づいた推論だ。
そして
――実際………
白マテリアに包まれた丸いトンネル道は、どれも直線であった。
直線であった。
そしてそれ故にこれから<矛盾>が起こるのだが
――この時
"蜘蛛宇宙人" が、<それ>に気づく事はなかった
――"蜘蛛宇宙人" は、予知能力者ではないのだから……。
結局、①と②
《どちらを選ぶにしろ、来た道を戻る事になる…》
そう考えて、"蜘蛛宇宙人" は、①の道を選択する事にした。
地点「F」から①を通じて骸骨のあった場所(B)に行き、
そこからデッドエンドのあった始まりの点(A)へ戻り、
そこを<右>
――つまり、最初の向きから考えると<左>
に行けば、新たな場所に向かう事になるのではないか。
その "蜘蛛宇宙人" の見込みは間違っていた。
しかし、その時は、その事に
――もちろん
気付かない。
"蜘蛛宇宙人" はただ、歩き出していた。