わたしは此処にいる
"蜘蛛宇宙人":
「オレは此処にいる!」
"運転手" は
「ぼんやり」
立っていた。
文字通り、言葉を失っていた…
――それでも
腹を立てていた。
言葉なくとも――気持ちが失われる事はないのだろう。
"蜘蛛宇宙人" は話した……
――ラテン語ではなく
――母国語で。
「だから、オレは調べる」
"運転手":
「何を?」
"蜘蛛宇宙人":
「あんたには、わからないよ」
"運転手":
「どこを調べるんだ?」
"蜘蛛宇宙人":
「此処を調べる」
"運転手":
「調べてどうする?」
"蜘蛛宇宙人":
「オレは掘る」
"運転手":
「掘ってどうする?」
"蜘蛛宇宙人":
「掘り続ける」
"運転手":
「そんでどうする?」
"蜘蛛宇宙人":
「オレは知る」
"運転手":
「何を知るんだ?」
"蜘蛛宇宙人":
「あんたが知らない<物>を、だよ
――そして、あんたは、一生知る事がない」
そこに、感情は、微塵もなかった。
だからこそ――"運転手" が尋ねるのだ。
「………お前には、心ってモンがないのか?
――人の気持ちが分からないのか?
……俺にだって在るのに…」
"蜘蛛宇宙人":
「むかし
――むかし
オレにも、
『心なんて物が<在る>』
と勘違いしていた時期があった――
ただ、オレは間違っていた。
世間で云う<心>というのは――
同僚を自殺に追い込む話を
<感動する>
事なんだよ。
他人にひどい事をして良心の呵責に苦しむ話に
<共感する>
事なんだよ。
可愛い女や格好いい男をチラ見して
<興奮する>
事なんだよ。
自分の手の届かない、理解出来ない優れた物に
<ムカつく>
事なんだよ。
満たされない自分の欲望に振り回されて
――努力せずに
<悲しむ>
事なんだよ。
ただ寝ころぶだけのペットを
『可愛い……』
『可哀想………』
と
<憐れむ>
事なんだよ。
そして――
そう<感じている>、その脇で――
誰よりも努力して文明を進めようと努力した者に為される
<横暴>
を無視して放っておく物なんだよ。
それどころか――横暴に<加担>する物なんだ。
そう――感じるんだよ。
そんな心など――要らない。
たとえそれが在ったとしても、オレはそれを進んで捨てる。
あんたはさっき言っただろう?――『何度も見てきた』と。
『人が追い出されるのを見てきた』――と。
『人が苦しむのを見てきた』――と。
そんで――”心ある”あんたはその時、何をしてきた?
あんたは<見てきた>――ただそれだけだ。
”心ある”あんたは、"優れた者達" が舞台袖から
『ひっそり』
出て行くのを見ていただけだ。
そしてその後
――始めから何もなかったかの様に……
<見なかったフリ>をしただけだろう?
――自分の為に。
自分自身の為に。
そして何も見なかったフリをしながら――
本当に物事が見えなくなると
――それはそれで
腹を立てる。
オレに腹を立てるんだよ。
”心在る”あんたが
――これまで
やってきた事だよ。
悲しみ
――怒り
喜び
――苦痛。
それを交互に抱いたり
――合成したり。
そして――心が何をした?」




