わたしは此処にいる
"運転手":
「暗ければうまく逃げられると思ったのか?
――浅はかな考えだ。
ホント、学問ばっかりやってて
――人生を知らない
馬鹿は甘いヤツばっかだな!」
地点(F)には光が灯っていた…――
その
<光のオリジン>
と
<"蜘蛛宇宙人" の立つ場所>
は――
同じ<点>だ。
中心を同じとしているのだ。
"蜘蛛宇宙人" は立っていた
――スコップを杖として使いながら
無言のまま。
そこから少し離れ、"運転手" は
――腕を伸ばしながら
歩いていた
――指で宙を探っていた。
光の中で。
光を浴びて。
上品な白手袋が虚空に描く――「∞」
手慣れた
――エアーな
ハンドル捌き。
前に進んでいる
――物理的に。
トンネルを真っ直ぐ。
そして――
何も進んでいない。
"運転手":
「逃げたって無駄なんだぜ……
――どうせ最後には捕まるんだから。
真暗だろうが関係ねぇ………」
"蜘蛛宇宙人" は動かなかった――
ライトを相手に当てたまま。
二人の間は直線的であった。
そして "運転手" と "蜘蛛宇宙人" の距離が
――遂に……
<t>より少なくなった。
"運転手" の手が――"蜘蛛宇宙人" の身体を掠った。
「そこにいるのか!!」
"運転手" の掌が――"蜘蛛宇宙人" の胸を押した。
光がぶれる。
「そこにいるんだな!!!」
それでも "蜘蛛宇宙人" は立っていた――同じ場所。
すると、"運転手" が蹴りを食らわせた!!
――"蜘蛛宇宙人" の腹に
――クリーンに。
"蜘蛛宇宙人" は、弾き飛ばされた。
"蜘蛛宇宙人" の身体が白マテリアの中に沈む。
最初に腰
――背
――そして
――頭。
強く打ちつける。
一通りのプロセスが終わると――
「ぱら」
と白い欠片が "蜘蛛宇宙人" の頭に落ちた…
――まるで
――教育の名の下に正当化される
――<拳骨>の様に。
それが終わると "蜘蛛宇宙人" は
――その場で
沈んだままでいた
――俯きながら。
ライトとスコップは、手放さなかった。
"蜘蛛宇宙人" が身動きしない間も、"運転手" は前進を止めなかった――
迷いがない――
見えずとも。
そしてその足が、"蜘蛛宇宙人" の投げ出された足の端に触れた。
「そこか!」
"運転手" は、何も見えない目を据えた。
そして
――ポイントを決めると
足を上げ……――
振り下ろした。
一度。
「このぉ!!」
二度。
「この………!!!」
それぞれ――ヒット。
そして――
何度も。
何度も。
"運転手":
「ちくしょう……」
回数毎に、"運転手" の足の裏が "蜘蛛宇宙人" の身体にのめり込む
――極めて浅く。
身体が弱く跳ねる――痙攣する様に。
「ちくしょう!!」
攻撃を受けた身体は――
深く――
深く――
白マテリアにめり込んでいく…。
"蜘蛛宇宙人" は受け身を取らなかった。
スコップで相手の攻撃を弾きさえしなかった。
ただ――考えていた。
その間、"運転手" は攻撃を続けた
――まるで
――頭の中は<恋愛>と<文句>しかない
――ヒステリーで
――<<知性がない>>
――下品で
――『人間関係ばっかり』
――貴婦人
――<その程度>が
――顔の前で一生懸命
――暑さを生温さに変えようとする際に使う
――あの
――毛羽だった扇子の動きの様に……
忙しなく。
最後に――攻撃が止んだ。
喘ぎ声。
"運転手":
「………辛いか?
――辛いだろう?
英語で表現するとな……
――お前は語学だけは得意みたいだからな…
これこそ、<デザーブ>なんだよ。
お前は
普通の "みんな" から怨まれ
憎まれ
弾かれる運命なんだ。
それはすべて、お前のせいだ。
理解出来ない "みんな" がお前を攻撃するのを
お前は黙って受け入れなければならない!
共感出来ない物は排除されて当然だ!!
お前はみんなが楽しみ、共感する中で、苦しみ続けるんだ!!!
その苦しみをみんなが横目で見て――
無視するんだよ。
それは決まってるの」
地面に坐り込んだ "蜘蛛宇宙人" は上目使いになった。
目の前に<立つ>人間を見て、"蜘蛛宇宙人" は息継ぎをする。
そんな "蜘蛛宇宙人" は傷だらけになっていた。
しかし、"蜘蛛宇宙人" は『痛い!!』などと文句は言わない。
『どうしてそんなひどい事するの!』
――などと歎かない。
――――――――――――――――――――――――
それは "蜘蛛宇宙人" の仕事ではないのだ!!
――――――――――――――――――――――――
その目は見開き――相手を見つめている。
目を見開きながら何も見ていない相手を見つめ続けていた。
冷たく。
見下しながら。
目の前の "それ" は人間だ……
――しかし………
その頭は鳥のものだ……
――嘴は地点(A)にいた頃よりも伸びている。
そして
――嘴の間から
<感想>を述べるのだ!!!
翼ではなく――嘴をバタつかせて!!
「ちくしょう…――」
「おいライトを付けろ!」
「ライト消してんじゃねぇよ」
「この卑怯モンが……」
「意味わかんねぇんだよ!!」
「お前、俺をこんなに苦しめて、楽しいのか!!!?」
「とっととライトを付けろ!!」
「そこにいるんだろう!?」
「そこに在るんだろう!!?」
その時だった――"蜘蛛宇宙人" が答えた。
「ああ、いるよ………
――オレは此処にいる。
オレは、此処に、いるんだ」
その手から迸る光が減少する事はない。




