わたしは此処にいる
雨宿りは、必ずしも無為とは限らない。
雨は
「しとしと」
降って
――いなかった。
勢い良く流れる水は
「ざー」
に近い音を作り出していた。
ただ、その
「ざー」
の連続体は――
アルファベットの「s」と「t」で出来ていた。
"蜘蛛宇宙人" は、話し続けた。
これまでの経緯。
ダンジョンの構造。
地点(A)から地点(F)――
そして地点(G)。
歩数から考えると地形的に矛盾している様な<点>。
骸骨の事。
タブレットの事。
ライト――
そしてスコップの事。
地点(A)のコンクリート。
「Ω」
地点(E)の足――
そして地点(E)に在った骨。
それも――
それぞれ――
エルーシデイション。
それを "運転手" は聞き流していた
――よく<読書家>を密かに自認する者が、そうする様に。
そして "それら" は
シチューではなく、
灰汁を見て内容を判断するものだ。
そして湯面から幻想的に立ち上った灰汁を見て
<湯葉>と勘違いをするものだ。
唯一、"運転手" が興味を引いた話題があった。
それは "鳥頭" に関してであった。
"蜘蛛宇宙人" が――
「Ω」の中で死んだ "鳥頭" について
――具体的に
説明していた時であった。
それまで "蜘蛛宇宙人" と 自分の中間点を睨んで
――ピンボケ気味の
"運転手" の焦点が、"蜘蛛宇宙人" の顔に合った。
キーワード(誘因)は
「嘴」
であった。
鏡を使って自身を見ずとも、
"運転手" は手触りで
状況を認識する――
その端緒を得ていたから。
"蜘蛛宇宙人" は、生前の "鳥頭" に関して話した――
その<愚かさ>と<残虐性>を省いて。
話に興味を引かれた様で、"運転手" は視線を外すことがなかった。
そして
――手袋を片方脱ぎ
自身の白く丸い頭を撫でた。
そこには、青鷺が頂点から垂らす尾の様な
――少女マンガに出てくる高校生の前髪の様な
<冠羽>
は微塵も無かった。
鶏の鬣さえない。
ピュア――ハーフスフィア。
ただ――
面は白く短い毛で覆われていて――
坊主頭に見えた。
"運転手" は、自身の形を確認すると、腕組みをした
――共感でも、しているのだろう…。
最後に "蜘蛛宇宙人" は、"鳥頭" の死を語り終える。
その時、"運転手" は
<何故、人間らしきその対象が "鳥頭" に為ったのか?>
を "蜘蛛宇宙人" が説明できない事を知った。
"運転手" は、一気に興味が色褪せた様で、別の事を考えていた。
それを "蜘蛛宇宙人" は見抜いていた。
"蜘蛛宇宙人" は話すのを止めた。
「それで?」
と "運転手" は
――上の空で
尋ねた。
"蜘蛛宇宙人" は背を向けた。
その動作に影響されて、ライトから迸る光も、翻った。
「それで?
――ちゃんと話は聞いてますよ」
雨は小振りになっていた。
"蜘蛛宇宙人" の背後には、弱い<必死>が在った。
"蜘蛛宇宙人" は、
最も大切な情報を
相手に与えなかった。
二人の間に在る<沈黙>を破る物は、雨音だけだ。
その雨音を破ろうと、今度は "運転手" が話し始める――
「本当に……此処はどこなんでしょうね?」
「出口はあるんでしょうか?」
「きっと今頃、ご家族も心配していらっしゃいますよ………」
「ウチの家族は、"わたし" がいなくなっても
心配なんてしてくれないんで、別にいいんですけどね……」
そして――
自嘲の音を漏らした。
雨が地点(B)を通過する程の勢いをキープしなくなる頃、
"蜘蛛宇宙人" は相手に説明してやった事を
――少し
後悔していた。
しかし、後悔は直ぐに霧消する。
「いつもの事だ…」
――という魔法の言葉で。




