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わたしは此処にいる

 「あ――」




 "鳥頭" は絶句する。




 「何で…――」




 そして嘴を、指で撫でた


 ――訝しげに。




 短くとも――

 どんな人間の唇よりも伸び

 どんな人間の唇よりも硬く在る

 その嘴。




 そして――

 触れても異変に変化がない事を知ると、




 「とにかく……――」




 手を下ろした。




 そして言葉を吐く――




 「とにかく――




  "わたし" です!




  "わたし" ですよ!!」




 それから、"鳥頭" は、名乗った。




 ――――――――――――――――――――――――


 さて、誰も読めないこの場所で、問題です。


 ある私小説作品Aの語り手 "わたし"(人間)の頭が鳥のそれである場合、その作品Aは私小説として成立しているのでしょうか?


 難しく言い換えてみよう。


 虚構をリアルに近づけようとした運動の結果として設定された「私小説=リアル」という前時代的仮説(公理ではあるが、定理ではない)の直線上に設定される<リアリズム>の視点ベクトルを「p」とし、

 物語の中で展開し、地点それぞれで己を更新し続ける虚構性をそれぞれ連続して結ぶ事から導き出されるベクトルを「q」とし、

 「p」と「q」の交差点に於ける現象が実際のイヴェントとして現実に<在る>事を証明する事は可能か?


 論じなさい。


 ――――――――――――――――――――――――




 "蜘蛛宇宙人" は何も言わなかった。




 だから――




 「"わたし" ですってば………」




 ――と、"その人" が間を埋めた。




 「"わたし" が分からないんすか?」




 ――「で」が抜けていた。




 "蜘蛛宇宙人" は何も言わない。




 "鳥頭" は焦れていた。




 「お父さんの運転手をやってる――」




 父親に関する指摘が行われても、"蜘蛛宇宙人" は反応を返さない。




 「子供の頃、何度も乗せてあげましたよね?

  ――送り迎えとか。

  "わたし" ですよ

  ――覚えてませんか?

  確かに最近は全然、そういう事がなくなったけど……。

  でも…――

  今だって弟さんを……――

  "ドレ" さんを毎日――

  とにかく……… "わたし" を忘れたんですか?」




 それでも、"蜘蛛宇宙人" は何も言わなかった。




 だから "運転手" は――




 「ちょっと!!!

  こんな時まで無視しないで下さいよ!!

  ちょっとラテン語が話せないからって

  人を無視しないで下さいよ!」




 その時、"蜘蛛宇宙人" が口を開いた。




 「そうじゃない。

  別にこの状況で、誰がラテン語が話せようが話せまいが、関係がない。

  現実では、ラテン語が話せるかどうかを最初にたずねれば

  ――最低限

  無駄な会話を省けるから、そうしているだけ」




 声を耳にし、"運転手" は安堵した。

 そして言葉を返そうと口を開き――




 かけた。




 それを "蜘蛛宇宙人" が遮った。




 「あんたは、オレに何て言って欲しいんで? 




  オレはあんたを知っている。




  だから何なんだ?――という話だ。




  話すのは簡単だよ。




  焦るなよ。 




  『此処はどこか?』




  そんなの知らない。




  まだ完全に明らかになっている訳じゃない。




  これ(ダンジョン)は、<此処に在る>というだけだ。




  もしかしたら、ないのかもな…。




  でも、在るかないか――そんな事、どうでもいい。




  明るかろうが暗かろうが、目の前にはスペースが在り――

  そしてそこを進むことが出来る。




  そして壁と云う限界がある

  ――そしてその限界は掘る事が出来る物が在る

  ――あまりにも堅くて掘る事が難しい物も在る。




  何処かの壁は無限に続いているかもしれない

  ――何処かは有限かもしれない。




  どっちにしろ、調べてみなきゃ。




  オレは此処にいて、此処で進んでいるんだ。




  此処は真暗な迷路みたいな場所だ。




  ずっと洞穴が続いている。




  出口はまだ確認していない。




  オレは此処が、昔の人間が掘って出来た場所だと予想している。




  そいつの名前なんか知らない。




  ただ、それらしき跡が在っただけだ。




  そして、そいつ以外の何人もが此処で死んでいっただろうと思う。




  そして――

  何人かは何もせずに死んで、

  何人かは此処ダンジョンを掘り進めていたんだろうと思う。




  オレは、そんな道を進んだ




  ――そしてまた、此処に戻ってきた。




  この場所(地点(B)脇)に、だ。




  別の場所から別の方向に行った筈だったのに――




  また此処に戻ってきたんだ。




  きっと、此処にはパターンが在ると思う。




  アルゴリズムが在ると思う。




  微妙な変化がある様だから」





 "運転手" は黙っていた。

 そんな "運転手" は思うのだ――


 《年下の癖に、"あんた" ……か。

  ホント生意気だな。

  だから引き籠る様になるんだよ。

  偉そうな事言ったってどうせ負け犬だろ。ふん!!》


 《『オレは思う』『オレは思う』って馬鹿かよ!!!

  お前の思う事なんかどうでもいいんだよ!! 馬鹿が!》


 《要するに、此処が何処か知らねぇんじゃねぇかよ!!

  三行で説明できるだろうが!!!

  馬鹿が!!》


 《ホント金持ちの坊ちゃんと話すのは疲れる…》


 《世間知らずだからなぁ……》





 そう――





 だからこそ――





 話しても無駄なのです。



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