わたしは此処にいる
"蜘蛛宇宙人" が進む。
まっすぐ進む。
"蜘蛛宇宙人" の持つライトから迸る光が
――道の中
――上へ
――下へ
変動する
――量を変動させずに。
規則性なく、変動する。
ただ、その光の動きは、規則的な "蜘蛛宇宙人" の歩みに付随して起こる現象だ。
不規則に見える光の動きに引き摺られる様に、黒の中に沈んでいた白が
――限定された領域内だが…
剥き出しになり
――そして移動した時
自動的に隠れる。
繰り返す。
道は、それまでと同じ様な状態であった。
勿論、大小様々の白のマテリアを多数ピックアップして前の道
――デッドエンドから骸骨のある分岐点までの距離
――その内部壁
に張りついている<それら>と、"蜘蛛宇宙人" が
――その時に
歩いている周囲にある<それら>を
――ひとつひとつ
比較すると、ふたつのそれらが絶対的に同じであると断言する事は出来ないだろう
――壁そのものの厚さも
――場所によって
――差があるだろう……。
しかし、印象において、ほとんど同じだと云えた
――白く丸いトンネルが続いていて………
――先は黒。
そして
――たとえ内在していても……
前と今の
――表面的
<差>は、歩く "蜘蛛宇宙人" にとって、重大な問題とはならなかった。
歩き続ける "蜘蛛宇宙人"
――そのヒト
の状態も
――道と同じ様に…
ほとんど変わらなかった。
疲労はそこまでない
――まだ。
ただ、認識だけが変化していた
――と云えた。
そしてその
――わずかにスライドした認識……
――その滑りを起こした………
――先程の分岐点で新たに得た
<情報>が、狭い道をぎこちなく歩く "蜘蛛宇宙人" の頭の中で巡回していた。
抽象的――サーキュラー。
そして
――スライドそれ故に……
<未知>という物の集合があるとするなら、その数は
――"蜘蛛宇宙人" の頭の中
少しだけ減っていた。
そうこうしている内にまた
――途上
変化が現れた。
それまで、道の先にあって
――その先に在る物を隠していた
黒は
――"蜘蛛宇宙人" が前進する度に
白を明らかにするだけだった。
しかし、ある地点から、
――白の中
黒が続いている部分があった。
左が翳っている。
すでに同じ状況を経験していたから、"蜘蛛宇宙人" は次の分岐点も左に折れるのだろうと推測した。
それは正しかった。
しかし、前の分岐点と次の分岐点はまったくもって同じ状態という訳ではなかった。
その場所は、左に折れるだけで、まっすぐ進む事は許していなかった。
正面、白い壁が立ちはだかり、<行き止まり>になっている
――のが見える。
《最早、左に折れるしか進む方法はない…》
L字部分に到着する。
"蜘蛛宇宙人" は折れて進もうとする。
その時
――そこに
<異変>を見つけた。
"蜘蛛宇宙人" は立ち止まった。
ちょうど左に折れる角
――内側の角
――その壁
が、
「Ω」
の形にえぐれていた
――壁龕の様に、へこんでいる……。
その「Ω」なる部分は、壁の上から下まで均等に凹んで
――空なるコラムを作って
いる訳ではない。
それは明らかに、誰かが掘り始めたのを途中で止め、残して去った様な、人工的作為の跡だった
――壁の上方には掘り残しがあった
――手つかずに見えた。
"蜘蛛宇宙人" がいくら探しても、掘った分
――凹んだ分
の白のマテリアは、何処にも見当たらなかった。
《ある物からある量を減らすと、その減らした分は何処かにある筈なのだ………》
「Ω」を見ながら、"蜘蛛宇宙人" は考える。
《ここ [このダンジョン] に、ヒトがいるのだろうか?》
"蜘蛛宇宙人" 以外、
《人間がいるのだろうか?》
立ち止まった "蜘蛛宇宙人" は
――続けて
――「Ω」を見ながら
<骸骨>を連想する
――そして、さらに連想を発展させ
――タブレットに描かれた文字を……。
しかし、アイディアとアイディアを結び付けていくその連想に妥当性を見出すには、材料が足らなかった。
充足可能か
反論可能か
さえ
――考えようともしなかった。
実際、もう骸骨とタブレットは目の前になく
――よって
――その時点では
「もしも…」の文脈でしか、語る事は出来ない。
そこには
「Ω」
の形の凹みがあるだけなのだ。
"蜘蛛宇宙人" は
――その場所から新たな情報を手に入れる事が
――その時点では「ない」と判断し
折れた道を、先に進む。
立ち止まり、
「Ω」
を見た為に
――その時
身体の向きが変わっていた事に、気がついていない様だ
――よって進む時、それまで左であったものが、右になっている
――事を気にしていない様子だ。
ライトを手に、"蜘蛛宇宙人" は先に進む。