わたしは此処にいる
それは、"蜘蛛宇宙人" の見えない場所で起こった。
地点(G)だ。
ちょうど "蜘蛛宇宙人" が地点(D)を離れ、
地点(D)と(E)を結ぶトンネルを歩み始めた時だった。
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黒い点が在る。
そして黒が、単なる黒ではなくなる瞬間がある。
小さな光が生まれたから。
それは、都会の夜空で輝いて見えるひとつの星の様であった。
MDの電源が入ったのだ。
電源は微かな光を場所に与えた
――が
――それでも
――大部分は黒のまま。
そんな "ほぼ黒" の中、動きが在る。
動きが見える。
地点(G)が動いていた。
上下にではない。
左右にでもない。
同じ場所で。
地点の内側だけが動いていた。
地点(G)を構成し
――規定する
白マテリアが動いているのだ――
フレイムワークが動いているのだ。
<それ>を闇の中でも…
――見る事が出来る
――見える場所にいるのならば。
光は
――MDは……
――そのまま………
以前再生した事を再生した。
音が、地点に生まれ――
地点に満ちて――
地点に溢れ――
そして地点からはみ出た場所にも行く。
しかし、ダンジョン全体に響き渡る事はない――
トンネルの途中で消えてしまうのだから……。
音量を考えてもそうだ…
――音はいくら拡がるものだとしても……
――到達範囲は狭く………
――俯瞰すれば……
――黒の中
――分布は極めて小規模。
ただ、地点(G)よりは大きいだけ。
殆んどにとって――意味のない音。
それでも、そんな音は
――空間を通り
MDが発する光の分布領域より遠くへ行く――
光の届かない所まで…。
勿論その、"蜘蛛宇宙人" が以前耳にした音が、
歩き続ける "蜘蛛宇宙人" の耳にまで届く事はない――
幾ら追いかけようとも。
再生が終わる――
ただ、MDの電源は
「オン」
――そのままだった。
だから場所には、光が
――音より
少し長く――
残っていた。
そのリンガリングな光の届く範囲内にて、白マテリアは動き続けていた。
音が消えた後も、動いていた。
"鳥頭" が自らを掘り出す時に作り――
"蜘蛛宇宙人" が闇の中で踏みつけた――
<その場所>が
「もぅじょ……」
「もぅぞ………」
と動いていた。
注意深く見る者にはわかる――
一概に白マテリアと言っても、
動いているのは局部である事を。
地面と繋がった他の白マテリア
――壁
は、動いていなかった――
ただ――
地面だけが動いていた――
それも
――パーシャルな地面。
そして――
「一瞬」
――<そこ>の動きが止まる。
光があるから、<それ>を見る事が出来る。
すぐに<そこ>から――
"何か"――
が突出した――
噴水の様に。
白マテリアが宙に散る。
それが<見える>。
ただ噴水と違い、白マテリアは
――地から
無限に出続ける訳ではない……
――サーキュラーではない
――リカーシブではない。
そして突発的に跳び出す物は――
白マテリア<その物>だけではない。
"何か" …――
それは手であった。
人間の拳であった。
固く握られたその拳は
下から地表をアッパーカットで攻撃し
孵化する時、卵にあらわれる様に
地を罅入らせ――
地を割って陽の光を求める樹の様に
天井に向かってまっすぐ伸びていた。
そしてさらに伸びようとする。
ただ、その伸びにも限界がある
――上昇が止まる。
「スタック!」
結ばれていた拳が開いた。
一輪の花が咲く様だった。
そして、周囲を探る様に手首が回る。
何も触れない。
その、地から生えた手は、剥き出しではなかった
――手袋で覆われていた。
白い手袋。
毛皮ではない。
フェイクファーではない。
レースでもない。
白マテリアでもない。
貴重品を扱う時に嵌める<あれ>。
丁寧の象徴ではなく――
見せかけの上品と洗練を印象付けようとする――
姦計的布地。
それを纏った手が宙で泳いでいた
――蝶の様な
――はためき。
しかし、その蝶は
――自由に
――遠くへ
飛ぶ事が出来ない。
少し進むと引き戻される――
∞を描き続ける。
暫くして
――とつぜん
その白き手が沈んだ
――白き地面の中に沈んだ。
しかし、沈みきった訳ではなかった。
地中より、指先が出ていた。
自分が地から這い出る為に開けた穴から伸びた指先は
――触手の様な忙しなさで
周囲の白マテリアをかき分けていた。
指先には、獲物を見つけた<鮫>の様な獰猛さも在った。
穴を拡張させているのだ。
その時だった――
MDの電源が
「ふ」
と消えた。
そして――
まっくらになる…。
地点(G)は、真暗に為る。
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