わたしは此処にいる
穴の中、人間がいた。
「おい…」
――と "蜘蛛宇宙人" は言葉を掛けた。
掛けられた<対象>は
――言葉なく
項垂れていた。
「おい……大丈夫か?」
返事はない。
その上半身は、水を含んだ白マテリアに塗れていた。
その手は、白マテリアに包まれていた。
爪にも、白マテリアが詰まっていた。
「おい………生きてるのか?」
返事はない。
項垂れた頭(頂点)には、白マテリアが掛かっていなかった
――対し、嘴には白マテリアがこびり付いていた……
「びっしり!」
――と。
まるで、白マテリアで出来た嘴のオブジェの様に見える――
まるで、油に入れる前の天麩羅…。
実際、白マテリアは
――<それ>にとって
新たな層である。
"蜘蛛宇宙人" は四度目を繰り返さなかった。
だから
――勿論
返事はなかった。
" 蜘蛛宇宙人" は
――無言のまま
ボディを観察した。
肉が付いている上半身。
肉の付いていない下半身。
骨さえない、下半身。
その、項垂れた人間のボディには、胸から下がないのだ
――背骨さえ……
――肋骨さえ………
ない。
それでもハートがあるのだろう――
それでも、ハートが、在るのだろう……。
そして "蜘蛛宇宙人" はライトの光の下、気付くのだ。
「Ω」
――の入り口地面が、滑らかになっている事。
"鳥頭" が通った道は、足跡がないのだ
――上半身を引きずらなければならなかったから。
腕と手を使って
――足掻いて
同じルートを辿り続けなければならなかったから。
自分の前に手形を残す
――そして爪を立て…
前に進む。
そして自分の身体を滑らせて――手形を消す。
その胸で――手形を消す。
そして道を滑らかにした分だけ――
作業に於いて余分となった物は
脇に寄せられたのだ。
人はそれをない事にする。
"蜘蛛宇宙人" は "鳥頭" のボディに光を当てていた。
そして
――暫く
立っていた。
暗闇の中――
光の中――
明らかになっている相手を見つめていた。
いつまで見つめても、相手は身動きひとつ、しなかった。
見つめる "蜘蛛宇宙人" は "鳥頭" の死体に触れようとはしない……
――"蜘蛛宇宙人" は、"鳥頭" と違うのだ。
死体から何かを奪おうとはしないのだ。
――――――――――――――――――――――――
"鳥頭" は
――地点(B)に在った<骸骨>が人間であった頃………
相手を襲って終わらせた……
――そしてスコップを奪ったのだ。
タブレットは奪わなかった…――
タブレットから光が漏れるとは知らなかったし……――
仄暗い空間の中で――
元・人間であった現・骸骨が、タブレットに文字を刻んでいた事を知らなかった。
見えなかったのだ。
見えていたとしても取ろうとしたかどうか疑問だ――
価値がわからない者にとっては、全てが<そんな物>。
パッフェな暗闇の中、"鳥頭" が行った事は、相手からスコップを奪うというものだけでなかった。
終わった<物>の体中を弄り、
「何か使える物がないか?」
と探したのだ。
そして、MDを見つけた。
そして中身を聞いてみる
――楽しい事でも入っていないかと期待しながら。
そしてすぐに失望する。
そしてMDを仕舞い――
スコップを片手に歩き続ける
――何もせず。
何も掘らず。
スコップを持ちながら――
スコップを<杖>の様にしか使わない。
それさえも
「重い!!」
と投げ捨てた
――それは地点(D)であった。
そして暗闇の中………――
スコップなく……
タブレットなく…
手袋なく……
無限ループを歩き続け………――
――――――――――――――――――――――――
最後に "蜘蛛宇宙人" は
「Ω」
の中に嵌った "鳥頭" のボディに光を当てるのを止めた。
そしてライトを地面に置き、スコップを両手で掴んだ。
続いて壁にスコップを突き立て、
白マテリアを少量すくい
"鳥頭" にかけた。
壁を崩す様にして量を得て、壁から減らした分だけ、与えた。
「Ω」 の中が埋まって
――死体が隠れるまで……
同じプロセスを繰り返した。
しかし、「Ω」が完全なる<壁>に為る事はない…。
汗をかいて完了すると
――"蜘蛛宇宙人" は
――ライトを手に
地点(C)から歩き出す。
地点(D)に向かって歩き出す
――数を数えながら。




