わたしは此処にいる
わからない者は、本屋か図書館に行く。それらは、最大多数が最大多数としてふさわしい利益を得る為の場所である。それ以上もそれ以下も、取扱い対象にはならない。「商品」にはならない。
壁を前に、"蜘蛛宇宙人" は考える
――暗闇の中でも、考える事が出来る。
《地点(A)からまっすぐ進み、
四十七歩で壁
――つまり
地点(C)に来た事になる…》
――と。
その時だった。
「おい」
――と声がした。
"蜘蛛宇宙人" は振り返る。
誰もいない――
というより――
何も見えない。
《聞き間違いか?》
と<自疑問視>した時――
「おい!」
――声の調子は前より強く、あった。
「そこにいるんだろう!!?」
「わかってる!!!」
「こっちには、わかってるんだ!!」
叫びであった。
何も見えない。
声がする事はわかる
――それも、すごく近く。
<耳元>と表現する程近くはないが、
<半径一、二歩程度>から、
声は、やって来た。
しかし、対象は見えない
――何も兆しはない
――ただ対象はわかっている
――それは "鳥頭" である。
そして――
何かが通った。
何かが
――黒の中
"蜘蛛宇宙人" のボディ、その脇を通った。
宙を飛ぶ様だった。
それは矢の様に速くも
――軽くも
なかった。
そこそこの大きさがあり、固い物。
大きすぎはしないが、小さくもない物。
それは、声のする方から飛ぶ様に進み
――鈍く壁に当たり
落ちた。
そして、地面の上で少し動いた。
その<何か>がどこに当たり、どこに落ちたかは見えない
――"蜘蛛宇宙人" の目には。
よって、上の動きは全て、"蜘蛛宇宙人" の推測でしかない
――闇の中。
何も確認出来ないのだから仕方がない
――その目では。
しかし、"蜘蛛宇宙人" の推測通りの現象が
そこで
起こっていた。
そしてその、黒の中の<動き>の後、何も新しい<動き>は続かなかった。
飛んでくる物はない。
跳びかかってくる物はない。
襲いかかってくる者はない。
"蜘蛛宇宙人" は無傷のまま、立っていた。
息を殺して、緊張していた。
疲れを忘れていた。
そして知る――
「ムワリ……」
と臭いがした事
――音は付随しなかった。
アンモニアに良く似た臭いだった。
"蜘蛛宇宙人" は眉を顰めた。
すると、声が続いた。
「話があるんだ………」
「話し合おう!」
"蜘蛛宇宙人" は
《来た道を帰ろう》
――と思う。
"蜘蛛宇宙人" は知っていたから。
多くの場合、人が「話し合おう」と発言する時、
それは提案者が自分の話を相手に伝えたいだけで、
相手の話を聞くつもりなどないのだという事。
そしてそれは、自分の利益を確保する為に行うものだ。
"蜘蛛宇宙人" は四十六で出来た道を帰ろうと思う
――相手に応じず、歩くのだ……
――少なくとも
――その半分は…
――地点(B)までは……。
そして
いち………
「ˇ」
に……
「ˇ」
――と実際に跡を残す
――暗闇の中。
"鳥頭":「行くな!!」
さん…
「ˇ」
"鳥頭":「行かないでくれ!!!」
し……
「ˇ」
"鳥頭":「もうライトは返してやっただろう!!」
"鳥頭":「もう一人にしないでくれ………」
"鳥頭":「此処の…この場所の秘密を教えてやるから!」
"鳥頭":「sic……」
――そして声は聞こえなくなった。
<声>は "蜘蛛宇宙人" の歩みを止める効果がないのだ。
そして "鳥頭" 自身が追いかける事はない
――"鳥頭" は歩む事が出来ないのだ
――フィジカル的にも…
――メンタル的にも……。
"鳥頭" には、足がないのだ
――下半身がないのだ。
足がある時に、既にたくさん歩いたのだ
――<歩いたつもり>だったのだ。
地点(B)から地点(C)
地点(C)から地点(D)
地点(D)から地点(G)
地点(G)から地点(B)
そして
地点(B)から地点(C)へ………
ずっと歩いてきたのだ
――歩き続けた<つもり>だったのだ。
丸いトンネルを四角く歩いてきた。
そして出来事があり――
白マテリアの中に埋まり――
そして何も知る事はない。
――――――――――――――――――――――――
ああ鳥頭よ
――鳥頭よ
――白き頭の "鳥頭" よ!!
お前は飛ぶ事を忘れたのだ!!!
お前は退化して腕となった羽根を前に出し
匍匐前進する事をさえ止めたのだ!!
蚤が<わからないもの>を非難し、
痛みを与え、
手の届かない者を無視する事は当たり前だ――
当たり前の事だ!
ずっと繰り返され
これからも繰り返される事を
「当たり前だ!!」
と思わず、
悲観する方が間違っている!!!
哀しみ――ただ終わる方が間違っている!!
――――――――――――――――――――――――
歩き続けて、"蜘蛛宇宙人" は
「ふ」
と気付く
――突発的出来事の介入で
――すっかり
――方角を見失ってしまった事を。
それでもまっすぐ歩き続ければわかるだろう
――地点(A)に戻る事を。
歩き続ければ踏みしめるだろう
――暗闇の中でも、コンクリートを。




