わたしは此処にいる
これを具体的に説明して、体裁を整えてから論文にしても、
どこにも通らない――だれも、通さない。
少しだけ何かを感じ取る者が堰き止めた後、欠片を再利用する
――繰り返し。
<そうする事>と<此処で発表する事>は違う
――まだ此処で発表した方がマシ。
此処でも同じ様な者がたくさんいて
――同じ様な事をしている。
でも、此処の方がまだマシ。
"蜘蛛宇宙人" は歩く
――手探りで。
何も見えない。
ただの黒。
塗り潰された黒。
頼りになる物は――足。
頼りになる物は――スコップ。
三本足が――バランス。
ダンジョンの黒は、視覚を役立たずにするだけではない
――匂いがない
――風がない
――そして熱くも寒くもない。
その様な状況の中――
不安に駆られる者は、独り言を言うのだろう
――歌を歌うのだろう。
しかし、"蜘蛛宇宙人" はそうはしない
――ただ歩くだけ。
黙って歩くだけ。
地形は理解している。
地点(A)から(F)まで、まっすぐ歩くだけなのだ。
そしてそれは一度通過した道だ。
一度通過するまでは安定感を得られずとも――
一度通過した身には安心がある――
歩みには表れなくとも
――言葉にせずとも。
そしてその安心は、
<以前と変化していない場合…>
という前提によって成り立っている事を
"蜘蛛宇宙人" は知っている。
そして前提が崩れるかどうかを "蜘蛛宇宙人" は知らない
――まだ。
たまに――立ち止まる。
そして――耳を澄ます。
音はない。
光もない……
――だからといって
――"鳥頭" が接近していない
――という事には
――ならないのだが………。
音はない――
"蜘蛛宇宙人" が歩き始めて
――はじめて
音が生まれる。
そして音と共に進むのだ。
そのダンジョンでは、行為に音が付随する。
それは自身を危険に晒す――リスク。
ただ<それ>が無ければ
――ただ座り
――ただ待ち
ただ終わる。
ただ終わる。
それだけ。
そして、壁にぶつかる――
地点(F)に来たのだ。
"蜘蛛宇宙人" は跪いた
――転んだ故ではない
――地面を確かめる為だ。
スコップを地に刺し、タブレットを脇に置く
――手の届く範囲内に。
そして
――空いた手で触れる。
床は濡れてはいなかった
――水は地点(F)まで来ないのだ
――まだ。
水は
地点(C)の方から地点(B)、
そして地点(B)から(A)まで
しか落ちなかったのだ
――それまでは。
かわいた粉――色を失ったマテリア。
"蜘蛛宇宙人" は握る――丸が出来る。
手袋を嵌めていない空手の中、塊が出来る。
そして "蜘蛛宇宙人" は思い出す――空腹である事。
我慢できない程ではない――しかし、極めて空腹状態である。
それは――ハングリーとスターブの差。
――――――――――――――――――――――――
白マテリアはエディブルな素材である。
食べたからといって死ぬ様な事はない。
食べたからと言って知恵を得る訳では無い。
地獄に落とされたりする様な事は無い。
ただ空腹を解消する事を可能とする物だ。
ただ、"蜘蛛宇宙人" はそのエディブルネスに気付かない。
――――――――――――――――――――――――
"蜘蛛宇宙人" は握ったマテリアを投げた
――どこかへ飛んだ。
飛んだ様子は見えなかったし――
落ちた様子も見えなかった。
微かに、音だけ、した。
"蜘蛛宇宙人" は手を払い、周囲を見回す。
何も変化は無く――ただの黒。
手探りで地点(F)を探る。
地点(F)は相変わらず三又の道に分かれている
――以前と変わらない。
地点(A)に繋がる道。
地点(E)に向かう道。
その間の道――斜めの道。
"蜘蛛宇宙人" は――そちらに向かう事を決める。
即ち、三番目の道だ
――未経験の道。
その方角は、他と同じ様に、ただ黒く見えた。
何も見えないが――黒が見えた。
"蜘蛛宇宙人" は立ち上がる
――前と同じ様に
――スコップとタブレットを装備して。
そして歩き出す。
その道は辿ったことがまだないから、歩調に注意深さがあった。
道はずっと続いていた。
そして、ある瞬間、"蜘蛛宇宙人" は
――躓き
転んだ。
《何事か》と身構える。
そして――手探り。
そして――触れる。
道に<障害物>がある。
道から突き出る様に、あった。
それは粉っぽい。
手で形を確かめる――
全体的に、その障害物は、山の様な形をしている。
それまで比較的平らであった道では例外的存在だ
――勿論、道はどこも
――金太郎飴の様に円形であるから
――正確には<平ら>ではない為に
――<平ら>と表現すべきではないのかもしれない……。
ただ、その<障害物>は
――道の中にあり
――道の上にあるが
道とは違っていた。
その "山" は高くはない。
見えていれば跨ぐ事が出来る程度
――見えていれば迂回に苦労しない程度。
"蜘蛛宇宙人" は、表面を撫でまわす
――撫でる度に、"山" は丸みを帯びていく。
結果、"山" は白マテリアで出来ていると "蜘蛛宇宙人" は予想する
――それは間違っていない。
しかし、それは道とは異なっていた。
そして、特に変わった所はない様だ。
ただの "山" で
――ピラミッドになっていたり
――何か特別な形であったり
する訳ではない。
ガジェットが付いていたりはしない
――マシンガンが飛び出る様な仕様にはなっていない。
そして角はない。
掘った物をただ積み重ねた "山" であった。
"蜘蛛宇宙人" は、耳を澄ます――音はしない。
"蜘蛛宇宙人" は、周囲を見回す――光も無い。
そして "蜘蛛宇宙人" は
――しばらく
その地点で身動きをしなかった。




