わたしは此処にいる
"蜘蛛宇宙人" は、地点(A)から地点(B)に向かった
――道は濡れたまま。
しかし
――最早
水滴が襲ってくる事はない。
道の行き来は四度目になる。
そして道は
――シャッカン
変化している。
シルコンスタンスに変化がある
――ただ…
――ほとんど……
――そのまま。
そのまま。
いくら濡れてもトンネルの中、丸シェイプは残るのだ………
――トンネル内部の白と黒は残るのだ。
白の量は変化しない――
黒の量は光に依存する。
白き泥濘の上を "蜘蛛宇宙人" は
タブレットから出る微かな光を頼りに、歩いている
――光を上から照らす様に、地面に向けて歩いている
――<あの象形文字の文字列>が、地面にプリントされる事はない。
その姿勢――前屈み。
四角いタブレット表面から出る<光>は限定的であり――
ライトの<それ>より狭く、弱い。
そして
――そんなタブレットであるにも関わらず
光の持続時間すらライトに劣る様で……――
"蜘蛛宇宙人" は、光の奔出量が明らかに減っている事に気がついていた。
ただ、いつになると完全に消えるのか、予想はつかなかった
――そしてその光は節約して保存する物なのか…
――ただ消えるのを横目で見ているしか方法はないのか……
――それさえも………。
そこは歩き辛い道であった
――しかし、"蜘蛛宇宙人" は
《慣れた》
――ようだ。
転びはしない。
同じ道程を歩いているにも関わらず
――印象に於いて
距離は以前より短くなっていた。
実際の距離は変化していない――しかし、印象とはそういうものだ。
より短く感じられる――
それゆえにか……――
"蜘蛛宇宙人" は、すぐに<スコップ>を見つけた。
<それ>は
水分で少し嵩が増した様に見える白マテリアの道
――浅瀬に近い状態だ…
の中で、異彩を放つ素材であり、形であった。
横たわり、沈んでいる……
――それでもそこにある事がすぐにわかる物だった。
因みに、スコップは、地点(B)にはない
――その手前に転がっている。
そこは
――領域的には
地点(A)と地点(B)の間の<トンネル>に当たる。
"蜘蛛宇宙人" が駆け寄る事はない。
それまで歩いていたペースと同じペースでスコップの傍に行き
――手を伸ばし
スコップを掴んだ。
その時だった。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
怒声だ。
八つ当たり――アベッコレール。
《結構近い………》
――それでもまだ距離がある様に聞こえた。
"蜘蛛宇宙人" は
――横たわるスコップを握り
――身体を前傾のまま
静止していた。
スコップを握っていない手には
――手袋
――タブレット。
二つを抱いて、じっとしていた
――強く
――胸に
――抱き寄せていた。
その時。
"蜘蛛宇宙人" の目の前――
地点(B)に<光>が射した。
空間に満ちる、明るい光。
眩しくはない。
それは、
映画の上映が始まってから意図的に暗くした映画館の中、
観客の頭上を通り、スクリーンに向かっていく光の筋に似ていた。
その光は地点(G)のある方角から来ていた。
その光はただ地点(B)を如実に見せていた。
"蜘蛛宇宙人" は自身の身体を直立させた
――スコップの先を地に刺した。
そして息を殺した。
そして
――トンネルに立つ
"蜘蛛宇宙人" は
――地点(B)にて露わになった
白と光の中、骸骨を見ていた。
<骸骨>を見ていた。
白と骸骨は動かない。
しかし、その二つを照らす光は動いていた
――地点(B)にて
――左右に揺れ動いていた。
ワルツやルンバというより――クイックステップ。
そして、光は消えた。
突然、消えた。
視覚があまり頼りにならない闇の中で、"蜘蛛宇宙人" は様子を見ていた。
遠く
――微かに
「ずる……」
「ずる…」
と引き摺る音
――それは地点(B)と地点(G)を繋ぐトンネルの奥から聞こえる……。
そしてその、引き摺る音と音の間に、声がする
――声が聞こえる時
――同時に…
――地点(B)に光が当たる………
――そして消える。
闇の中、声がする。
「ちくしょう……」
「ちくしょう…」
「なんで俺が……」
「何も悪い事」
「していないのに………」
"蜘蛛宇宙人" の周囲は暗い
――単純に
――暗い。
それでも――
"蜘蛛宇宙人" の捉える音の量の増加と比例し
黒の中に隠れていた白が
――暗く
姿を現す量も増えていた。
"蜘蛛宇宙人" には相手がわかっていた。
そして "蜘蛛宇宙人" は相手と顔を合わせたくなかった。
よって、すぐにスコップを引き抜いて歩き始めた
――地点(A)に向かって。
その歩みは以前と比べると少しだけ加速が為されていた。
そんな "蜘蛛宇宙人" の足元から、足音がする。
雨上がりの水溜りを長靴で通る時に発生するのに似た音だ……
――それはディスティンクトであり
――遠くにも届く。
遠くにも届く。
足音を繰り返した――その時だった。
「そこにいるのか!!?」
という声がした
――"蜘蛛宇宙人" の背後から。
声は極めて近く聞こえた。
それでも "蜘蛛宇宙人" は歩く事を止めなかった
――止めるつもりはなかった。
また一歩踏み出した――その時だった。
「待て!!!」
その時、"蜘蛛宇宙人" は見た。
見えたのだ。
"蜘蛛宇宙人" にはトンネルの中
――白のマテリアの壁
――闇の黒点
がよく見えたのだ。
ずっと手探りをする様に進んでいた道が
――久しぶりに
はっきり
と見えていた。
そして光は
――同時に
別のものも見せていた。
<それ>は "蜘蛛宇宙人" には見えなかった。
即ち――"蜘蛛宇宙人" 本人である。
"蜘蛛宇宙人" の姿も
――トンネルの中
見える
――背中が見える。
声を出す者には見える。
それも
はっきり
と。
"蜘蛛宇宙人" は、その背に強い光を当てられていた
――逃亡者の様に。
絶え間なく生まれて先を急ぐ光は
立ち止まる "蜘蛛宇宙人" の背に追いつき――
追い抜いていく――
「待て!!」
また声がし――
"蜘蛛宇宙人" は振り返った
――そして目を細めた。
"蜘蛛宇宙人" の視界には、白い点があった。
光の白い点があった。
大きすぎる点だった。
点の直径は "蜘蛛宇宙人" よりも大きかった。
そしてそれは地点(B)から地点(C)に続くトンネルの中の黒を
――すべて
覆い隠していた。
ライトの所有者は言う――
地点(B)に居座って
――光の背後…
――ただ姿を隠し……
言うのだ――
「ここは完璧なんだ!」
「<ここまでで>完璧なんだ!!」
「四角だから完全なんだ!!!」
「正方形なんだから!!」
「そっから先は邪道だ!」
「お前は呪われている!!」
「コイツみたいに呪われている!!!」




