わたしは此処にいる
"蜘蛛宇宙人" は、読む…
――読み続ける。
何度も……――
何度も。
"蜘蛛宇宙人" は、タブレットに描かれた<文字列>を読み続ける。
文字はわかる………
――しかし、わからない。
文字の配列は分かる……
――しかし、分からない。
規則性はある様だが…
――その規則性が<何を表わしているか?>が分からない。
法則がある……
――そして法則は分かる。
しかし、法則が発動されて生じる対象が何を示しているのか、"蜘蛛宇宙人" には分からない。
わからないのだ。
しかし、"蜘蛛宇宙人" の頭が悪い訳ではない………
――単に材料が足らないのだ。
実際、直ぐに理解する様になる
――<その時>を迎えるのはまだ早い。
"蜘蛛宇宙人" は、そこら辺で<選ぶ事だけする>者とは違うのだ。
実際にやって見せずに自分が他人から与えられた事を
<考えもせずに>
他人に押し付けている者とは違うのだ……
――"蜘蛛宇宙人" は、<考える>のだから。
因みに、どの世界でも、
「意見を書くな!」
「独白は避けろ!」
とテンプレを展開させる者がいる。
それは書き物の世界だけに限らない――どこの業界にもいる。
それは現代だけに限らない――過去にもたくさん、いた。
しかし、"それら" は分からないのだ
――人間の行動
――「表現する」という事に関して云えば
――表現するという事は意見を書く事であり…
――表現するという事は独白に極めて近い形である
という事。
そしてそれを禁じようする言動すら、<意見>であり、<独白>であるという事。
"それら" には分からない――
語りは、聞き手があろうと無かろうと
――語り手が相手を意識していようがしていまいが
結局は<独白の表出である>という事。
そしてその<独白>という物に "独自性" が現れるのだ――
たった一人の人間としての
――ひとりの人間としての
<独自性>……。
そして世の中には、<それ>を欲しない者がいる。
"それら" は、意見を書かせない
――そして意見がより少ない物を選ぶ。
それらは独白に耳を傾けない
――そして独白がより少ない物を選ぶ。
そうする事で、"それら" は人間全体の中から生まれる独自性を潰しているのだ
――自分に独自性がないから。
単にそれだけの事だ――
単にそれだけの事だ。
"それら" は、<筋の展開>を求める
――"それら" は、<結論>を求める。
そして "それら" は、単に<読まない>のだ
――"それら" は、単に、<読めない>のだ
――そして読むよう、努力しないのだ。
"それら" が読む時――わたしは存在しなくなる。
"わたし" は存在しなくなる。
――――――――――――――――――――――――
その時だった。
"蜘蛛宇宙人" は音を聞き、タブレットから顔を上げた。
「ぱち」
「ぱち」
「ぱち」
「ぱち」
と火花の様な音。
それがどこからやって来るのか、特定するのは難しかった。
「ぱち」
「ぱち」
「ぱち」
「ぱち」
タブレットを傾ける
――光が飛ぶ。
宙を飛ぶ光は、ライトのそれ程強い物ではない
――それでも、周囲を<見る>事は出来た
――微かにレベルだが……。
"蜘蛛宇宙人" は 地点(B)と地点(G)の間のトンネルを見る。
ホローに白いくちを覗かせるトンネル。
「ぱちぱちぱちぱち」
何も来ない。
怒声も無い。
いつまで経っても、何も来ない。
いつまで待てども、予想するものの影はない。
音はする――
「ぱちぱちぱちぱち」
その時、"蜘蛛宇宙人" は手に何かが当たったのを感じた。
小さな物。
それはまた当たった。
剥き出しの手を叩いた。
手にこびり付いた白マテリアの粉の間を縫う様に、当たってくる――
小さな物。
次に額を打った。
"蜘蛛宇宙人" は、打たれた場所に手を当てる。
何もない。
また、来た。
"蜘蛛宇宙人" には、それが<何か>――見えない。
しかし、予想する
――そして、その予想は正しい
――エスペースに関しては………。
手元には、微かながら光がある
――それでも対象を具体的に把握する事は出来ない。
<それ>は皮膚に当たり、皮膚の上を跳ねる。
その時。
"蜘蛛宇宙人" は、<それ>が水滴である事を確認した。
そして "蜘蛛宇宙人" は
「ぱちぱちぱち」
という音が、
「シャー」
の絶え間ない連続にいつの間にか変わっていた事に気がついた。
その時だ
――大量の水滴が "蜘蛛宇宙人" に襲い掛かった。
そして、襲い続ける。
"蜘蛛宇宙人" は背を向けた。
痛みはない……
――水が体表を弾く様な印象があるだけ。
それでも "蜘蛛宇宙人" は、地点(C)の方角に背を向けていた…
――そして胸に抱くのだ。
タブレットを……――手袋を………。
水滴は 地点(B)から地点(C)の間を作るトンネルを通って、やって来る。
"蜘蛛宇宙人" は、びしょ濡れになる。
そしてこの、大量の水滴こそ、"蜘蛛宇宙人" のいるダンジョンに於ける<雨>なのだ。
そして
――雨の中
"蜘蛛宇宙人" は、歩き出すのだ……
――地点(A)に向かって。
デッドエンドに向かって。
因みに、<表現する事>と<行動する事>の関係を此処では論じない
――そこまでやってやる必要はない
――そして、それを求める者さえいない
――何処にもいなかったし、これからもいない。
これからもいない。




