わたしは此処にいる
"蜘蛛宇宙人" は自分のいる場所を知った。
"ω":
「わたしは此処にいる…」
"蜘蛛宇宙人" は
――声を無視して
来た道を戻った。
24歩で訪れた地点には、
"蜘蛛宇宙人" が――
《在るべきだ》
――と思う物がなかった。
"蜘蛛宇宙人" は、地面を掘った
――手で。
何も見つからなかった。
掘った分をまた埋めた。
十字路に立つ。
新たな地点――である筈の地点。
直立する "蜘蛛宇宙人" から見て、
左こそが
――"蜘蛛宇宙人" が掘った……
<ダンジョンSの地点(A)-(F)の延長線上のトンネル>
である。
実際、ライトを向けると、二本の「Φ」が見えた。
"蜘蛛宇宙人" は、右に向かった。
24歩で――次の地点。
そこには大きな穴が在った――床にひとつ。
壁には、凹みが二つ、在った。
ひとつを調べてみると――MDが在った。
再生すると――以前耳にした事がある内容だった。
床の傾斜に、大幅な変化は見られなかった。
"蜘蛛宇宙人" は、
MDが在る壁の凹みとは別の凹み
を見る。
――――――――――――――――――――――――
その地点を俯瞰すると………――
「Ω」
――の形をしている。
――――――――――――――――――――――――
そこには何もなく――誰もいない。
そしてMDがある凹みより、「Ω」の方が
――スペースが
大きい。
その地点は、それで終わりではなかった。
道は続いている。
"蜘蛛宇宙人" が来たトンネルから見て
右に
――直角に
トンネルが伸びている。
"蜘蛛宇宙人" はそちらに向かわなかった。
来た道を戻った。
そして地点を踏んだ後も――進んだ。
進み過ぎなかった。
立ち止まると
――屈みこみ……
"蜘蛛宇宙人" は
<毛の生えた「Φ」>
――を握りしめた。
瘤を握られた「Φ」は何の反応も示さなかった。
――――――――――――――――――――――――
さて、此処で取り上げている問題を
――便宜上
「スライム問題」
――と呼ぼう。
――――――――――――――――――――――――
以前はもっと直裁に、別の固有名詞を使って
わかりやすくしていたのだが…――
小蠅は
密閉した空間に
――いつの間にか
あらわれて、
卵を産み出すものだ。
それを防ぐ為に、わかりやすくはしない。
――――――――――――――――――――――――
スライムがいる。
「S」とする。
(この「S」は、"蜘蛛宇宙人" のいるダンジョンシステム「S」とは無関係の記号であり、この後に出てくる記号 [n, T, γ, φ, A, R, W,] もダンジョンを解説する上で用いられた記号とは無関係である)
スライム(「S」)が、一匹いる――
スライムでなくとも良いが、
<スライムが一匹いる>
――とする。
スライム(「S」)が、一匹。
スライム(「S」)が――二匹。
スライム(「S」)が――三匹。
スライム(「S」)が――「n」匹。
スライムが「n」匹あらわれた時、
全てが重なり合い、
<一匹の大きなスライム>
に成るとする。
その<一匹の大きなスライム>を「T」としよう。
「T」は、「n」匹のスライム(「S」)の集合体だ。
式にすると――
S_1 + S_2 + S_3 + ... S_n = T
――である。
此処までは、
誰だって簡単に
――当たり前の様に
出来るだろう。
では次。
「n」匹のスライム「S」が重なり合って出来た一匹のスライム「T」をよく見ると――<帽子>を被っていた。
金属製の帽子であり、スライムのボディとは異なる素材の帽子だ。
そしてその<帽子>を、「S」はどれも被っていなかった。
この「T」が被る<帽子>を「γ」とし、「T」という量の中に含まれているとする。
この時、「T」と等しく設定された集合
――「S_1, S_2, S_3, ... , S_n」
のうち、
どの程度が「γ」に変質した、
と云えるだろうか?
――――――――――――――――――――――――
因みに、これは、化学反応の問題ではない。
「γ」になりうる要素を持つ「S」を特定する事を求めている
――「S」は全てが一様に
――「γ」
――または「γ」という集合を構成する部分「φ」
――を持っている訳ではない。
ヒント:人間は
――ほとんど
「S_1」,「S_2」,「S_3」, ... ,「S_n」それぞれが
<同じ質>で
<同じ状態>だ
と思い込んでいる。
そしてこの「スライム問題」の延長線上にひとつ、文学的問題が在る。
――――――――――――――――――――――――
問題)要素「S_1, S_2, S_3, ... , S_n」すべてを含む「T」という作品が在る(「T」はすべて、文字で構成されている)。
ある読者(「A」)が、「T」を
「読んだ!」
と主張した
(此処で云う「読む」とは、作品を構成する文字の内、最初のものから最後のものまでを順番に<目で追う>という状態を示す)。
この読書プロセスを「R_1', R_2', R_3', ... , R_n'」という形で表わし、それが「T」を構成する要素「S_1, S_2, S_3, ... , S_n」と対応関係にあるとする。
この時、読者「A」が読書(「R_1', R_2', R_3', ... , R_n'」)を通じて得た情報量の合計(「W」)は、「T」と等価であろうか?
――――――――――――――――――――――――
優れた知性を持たない者は、こう云うだろう――
「そんなの人それぞれ!」
「ケースバイケース!!」
――しかし、上の問題の答えはひとつだ。
そして、その<答え>を、此処では与えない。
――――――――――――――――――――――――
ただ――重要な事を記しておこう。
<読者受容理論>的な考えの延長線上に論を進めて金を稼いでいる者は、この問題が解かれると困るだろうという事。
――――――――――――――――――――――――




