わたしは此処にいる
スポットライトの下で、
フェイクファーの毛が
――すべて
――例外なく
揺れていた。
音はなかった。
"蜘蛛宇宙人" は――
「Φ」
――を握っている手を
横にスライドさせた。
瘤を、
指で――
「…ソット」
――触れる。
何も起きなかった。
ただ――フェイクファーの肌触り。
瘤を――
握る。
揉む。
心地良くはない。
ただ
――"蜘蛛宇宙人" には
新鮮に思われた。
そして――気がついた。
それまで
<フェイクファーを着用し続けていた>
にも関わらず、
フェイクファーに
――ほとんど
”触れていなかった”事。
"蜘蛛宇宙人" は、黒革を懐かしんだりはしなかった。
ただ――<新奇に思われる事>を手で確認していた。
そのうち――瘤を握っている自分の手の甲に焦点が向いた。
手袋でずっと覆っていた手。
焼いた――黒い手。
文字は戻っていない。
しかし――関係がなかった。
頭の中に木霊する――
「十八番」。
変化は何もなかった。
"蜘蛛宇宙人" は、
地面に横たわる方の――
「Φ」
――を見る。
静止したまま。
そちらの――
「Φ」
――に、毛は生えていなかった。
その黒い表面に
――白一点さえ……
生じていなかった
――白マテリアに塗れてはいたが………。
"蜘蛛宇宙人" は床に寝そべる方の――
「Φ」
――に触れなかった。
<毛の生えた方>だけを、握り続けていた。
そして――考えていた。
ちょうど、棒(「Φ」)の
"穴" がある方の端が、
"穴" がない方の端より、
上に位置していた時だった。
"蜘蛛宇宙人" が、その構図を反転させる。
そして――"穴" を地面に近づけた。
その時、"穴" にも棒にも
――"蜘蛛宇宙人" の指を咥えた時の様な
自発的動きはなかった。
ただ
――無機質に
己を
――動きに
委ねている。
"蜘蛛宇宙人" は地面に極めて近い所まで "穴" を下ろした。
突然、棒の端が地面に吸い付いた。
"蜘蛛宇宙人" は
――手の中
自分とは異なる力を認識した。
――――――――――――――――――――――――
因みに
――その力が働いた時
棒と "穴" は密着していなかった
――言い換えると……
――<境界を同じとしていなかった>。
――――――――――――――――――――――――
"蜘蛛宇宙人" が
――異なる力に反応して
逆らおうとする――
ただ、その必要はなかった。
「Φ」
――は、すぐに地から離れる
――自分から。
――――――――――――――――――――――――
そして
――そこにも
力が働いてる。
"蜘蛛宇宙人" の
意志にも
行為にも
努力にも
関係のない力。
――――――――――――――――――――――――
その
――地面から離れようとする
「Φ」の力は
――数学的には…
地面に吸い付く力と同じ値とされるだろう。
――――――――――――――――――――――――
地から離れるや否や、
力は消えた。
"蜘蛛宇宙人" は、フェイクファーを握っていた。
棒は――
「うん」
――とも
「すん」
――とも
言わなかった。
ただ
――先端から……
白マテリアが零れているのが見えた。
零れた物は
――光の中………
――すぐに
地面や壁を構成する<他>と
見分けがつかなくなった。
その後――何も起こらなかった。
再び "蜘蛛宇宙人" は "穴" を地面に寄せた。
今度は、何も起こらなかった。
次は――棒を地面に突き刺してみた。
何も起こらない。
引き抜いてみた。
白マテリアが少量、"穴" から落ちていった。
そして――何も起こらない。
その後
――何度
棒を地面に近づけようとも……
――突き刺そうとも…
"穴" の吸い付く力も
吐き出す力も
発生しなかった。
次を探っていた "蜘蛛宇宙人" の目に、骨が映った。
白マテリアの上に散乱していた
――爪先から
――踵まで。
並べ方から足を推測する事が困難な形で。
"蜘蛛宇宙人" は――
「Φ」
――の先端に在る "穴" に
骨をひとつ、
近づけてみた。
"穴" は
――触れずに
吸い込んだ。
そして――吐き出さなかった。
いつまで待っても、骨は出て来なかった。
《白マテリアの場合……――食べても吐き出すのか………。
骨の場合は……――飲み込んだままなのか…》
"蜘蛛宇宙人" は
――床に転がっている
別の骨のパーツを見た。
それは、
既に飲み込まれた骨のピースよりも
大きなパーツであった。
《calcaneus》
そして、そのパーツは――
「Φ」
――の "穴"
その直径よりも、
大きく見えた。
"蜘蛛宇宙人" は
――そのパーツを
"穴" を近づけてみた。
接触する必要はなかった。
"穴" は、骨に自分から吸い付き――飲み込んでいく。
"穴" よりも大きな骨。
"穴" の口、
その円周は
――骨を飲み込みながら
――骨に沿って
前の状態よりも大きくなっていった。
その様……――
<自分よりも大きな動物を飲み込む蛇>。
ただ、蛇とは異なり――休む事はない。
飲み込むペースが落ちる事はない。
元・足である棒(「Φ」)は
――蛇と異なり
くねらない。
骨の白は、"穴" に包まれ
――最後に
見えなくなった。
それでも――
骨が依然として<在る>事はわかった
――金属の棒が
――飲み込んだ骨の分だけ
――膨らんでいたから。
それで終わり………――ではなかった。
<calcaneus>の膨らみが――動き出した。
棒の先端("穴" という領域には含まれない、"穴" の隣に位置する領域)
に発生したその<骨らしき膨らみ>が
棒全体に於ける中心部分(瘤)
に向かって進む様子が見える――
「Φ」
――その中を。
進行は、一定だ。
その膨らみは
――瘤に近づけば近づく程
小さくなっていった。
そして、瘤に到達する前に
――見る見るうちに……
膨らみは
<膨らみが発生する前までずっと保たれていた金属の棒の太さ>
と等しくなった。
その後、何も起こらなかった。
"蜘蛛宇宙人" が見ると、
拡がった "穴" の円周も、
<calcaneus>を飲み込む前に
戻っていた。
《まさか…》
――と思いながら
"蜘蛛宇宙人" は瘤を確認した。
<フェイクファーの生えた瘤が大きくなった>
――という様な現象は確認できなかった。




