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わたしは此処にいる

 "蜘蛛宇宙人" は、ライトを消した

 ――完全なる黒。


 色が見えない

 ――形が見えない。




 こぼれ零れ、声が聞こえる。




 「*る*だろ=!」




 「そ*に*る*だろ=!!? 見*たぞ=!!!」




 「**りが見*たぞ=!!」




 "蜘蛛宇宙人" は動かない

 ――何も喋らない。




 「**まる*ら=!」




 「*やまる*ら=!!」




 "蜘蛛宇宙人" は動かない

 ――すると、再び怒声が来た。


 皮膚を貫く様な怒声。


 それも一本ではない

 ――長い一本ではない。


 それは "ひとつ" ではあるが、一本ではない。


 剣先の様な鋭さが大量に突出して

 ――剣山の様になっている

 ――声の面。


 その――体当たり。


 面が直撃した "蜘蛛宇宙人" は

 ――怯まず

 動かない。




 そして、歩き出す

 ――方向は分かっている。


 ずっと杖の様に使ってきたスコップを手の中で横に倒し

 ――宙に浮かせる。


 一歩踏み出した。




 「にゅるりぃ」




 ――その擬音が正確には何であろうと

 足の裏を上げた途端


 「ちゃ」


 とガムを噛んだ様な接尾音が付帯していた

 ――事は確かだ。




 奥から反応はなかった。

 だから――




 足音。




 足音。




 足音。




 突然、




 「いるんだろ?」




 ――地点(B)にいた時より、"声" はクリアに聞こえた。




 「そこにいるんだろ?――悪かったって」




 それでもまだ、"声" の発生源と "蜘蛛宇宙人" の間には距離がある。




 足音。




 "蜘蛛宇宙人" は

 ――「いるんだろ?」という外的刺激を受け

 自分の足音を消そうと、注意深くなっていた。

 そして次――




 「そ」




 白マテリアが踏みしめられ、スライドする音が

 ――可能な限り

 消されていた

 ――しかし、量は0ではない。


 次を踏みしめる前にまた

 ――「あ」を連続した物を圧縮して

 ――幅を広げた様な

 <怒声>が来た。


 "蜘蛛宇宙人" は立ち止まる。


 すると、




 「sic…」




 "蜘蛛宇宙人" は黙したまま、立っていた。

 すると、




 「sic…」




 「sic…」




 「sic…」




 「sic…」




 ――泣き声だ

 ――啜り泣きだ。


 "蜘蛛宇宙人" は、前進を開始する

 ――足音は

 ――啜り泣きが声高に響く黒の中

 ――溶けていた。




 「sic…」




 「sic…」




 「sic…」




 「sic…」




 "蜘蛛宇宙人" が一歩踏み出す毎に、その圧縮されていない音の

 ――イーチ

 インディヴィジュアルス

 ――その量

 が大きくなっている様に思われた

 ――まるで、自乗するかの様に……。


 《近づいている………》


 そして "蜘蛛宇宙人" がまた踏み出した時、




 泣声が止んだ。




 その時、




 「ちゃ」




 ――"蜘蛛宇宙人" の足音がした。




 「そこにいるのか!!!」




 ――聞き間違いようがない程、クリアだった。




 "蜘蛛宇宙人" は動かない。




 何も音がしない。


 "声" の主は、


 《すぐ傍にいる》


 <微妙>が、空間の中、流れていた。

 少しして、"声" が、<微妙>を破った

 ――はっきりと。




 「おい、わるかった……」




 「わるかったよ……」




 「助けてくれ……」




 「動けないんだ……」




 "蜘蛛宇宙人" は闇の中、動かなかった。




 「わるかったって…」




 「なぁ、水に流してくれ……」




 「俺は変だったんだ………」




 「あの時はちょっと変になっていたんだ……」




 「もうマトモだ…」




 「マトモなんだよ!!」




 「本当にちょっと動けないんだ……」




 「頼む………」




 「動けないんだよ……」




 「助けてくれ!」




 「助けてくれって…」




 "蜘蛛宇宙人" は動かない。




 ただ、黒の中、観察する。




 《"声" の発生源は、極めて近くにいる様だ》

 ――そう "蜘蛛宇宙人" は考えた。


 そして "声" は、"蜘蛛宇宙人" の目線

 ――そのニボー

 ――その平行線上

 から、やっては来ない

 ――それより下から

 ――上がって来る様であった。




 "声" は黙ったまま。


 "蜘蛛宇宙人" も動かず、声を出さない。




 少しして、




 "声":「おい、誰だ?」




 「そこにいるのは誰だ?」




 「お前 "あいつ" じゃないだろ!!?」




 "蜘蛛宇宙人" が黙っていると、声は続ける。




 「誰なんだ!!!?」




 「新しく来たヤツか!!?」




 「何とか言え!」




 「助けてくれ!!」




 「そこにいるんだろ=!!!」




 「黙ってないで助けてくれ!!」




 「抜けられないんだ!」




 黒だけが見える空間の中

 ――いつまで経っても

 その "声" の主が動く気配はない

 ――"声" だけは止めどなくやって来るが

 ――何かが近づく気配はない。




 "声" が静まった。




 啜り泣きも聞こえて来ない。




 そして、呼吸音がした――




 「は」




 「は」




 「は」




 「は」




 と荒い息。




 依然として、動く気配はない。




 "蜘蛛宇宙人" はライトを付けた。




 最初に見えた物は、自身の手袋であった。


 手の動きに影響されたのか、フェイクファーが微かに揺れていた。


 そして、白のマテリアが見えた。




 それまでと同じ様な道。




 ただその場所は、一本道ではなかった。




 右に道が折れている。


 左に道が折れている。




 しかし、そこは<T字路>ではなかった

 ――<Y字路>に近い形をしていた。


 右の道は

 ――それまで "蜘蛛宇宙人" が歩んだ道に対して

 直角に折れて進んでいる様だった。


 しかし、左の道は斜め前に進んでいた。




 新たな分岐点である――ここを点(G)としよう。




 《そしてそこには誰もいない》

 ――と "蜘蛛宇宙人" が思った途端、




 "蜘蛛宇宙人" は、"声" の主を見つけた。




 "声" の主が

 ――壁の中

 ――白マテリアの中

 埋まっている。




 <頭>だけが、壁から、突き出ていた。




 しかし、その頭は<人間の物>ではなかった

 ――その頭は、<鳥の類の物>であった。




 人間の頭程の大きさがある、鳥の頭。




 それも羽根と色と動作によって華美を誇る鳥の類ではなく

 ――坊主頭。




 シンプルで丸い頭。




 伸びた嘴。




 顔の横に付いた

 ――まばたきを忘れた様な

 丸い目が、"蜘蛛宇宙人" を見上げていた。




 その鳥頭は、壁の下の方から、はえていた。




 そしてその鳥頭が、短い嘴を上下させる――




 「お前は誰だ?」




 それは怒声の様には響かなかった

 ――それは、本心を吐露した呟きであった。



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