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わたしは此処にいる

※注意:この話は、そこら辺の人には<読めない>ので、そこら辺の人は最初から諦めて下さい。

 その日、"蜘蛛宇宙人" が目覚めると、ダンジョンの中にいた

 ――正確には、<ダンジョンの中、らしき場所>だった。

 その時、"蜘蛛宇宙人" は自分がどこにいるか

 ――具体的にはまだ

 わからなかったから。


 音はしない。

 しかし

 ――"蜘蛛宇宙人" はその時

 音に関心を向けなかった。

 ニオイに関心は向かなかった。

 温度にさえ関心は向かなかった

 ――まだ。

 ただ、


 「ぼんやり」


 と照らす光があった

 ――背後から。

 それがわかっていても、"蜘蛛宇宙人" は

 ――暫くの間

 動きださなかった

 ――ただ横たわり

 ――《背後に光がある》

 ――とだけ考えていた。


 光の裾が届かない場所はただ

 ――まっくら。


 疲労感は、まったくなかった。


 前、床が見えた。

 背後から照らしてくる光は "蜘蛛宇宙人" の置かれた状況を

 ――完全に

 ――そして

 明確にする役に立たなかったが、横たわる床が<コンクリートで出来ている>事を認識する程度、役には立った。

 そんなコンクリートの床は、地域社会にて場所と場所を区切る典型的舗装道路の様に平坦ではなく、若干傾いていた

 ――深くはないが、スープ皿程度の傾斜を持っていた。

 因みに、"蜘蛛宇宙人" の足は、肩の位置と水平ではなく、より下にあった。


 "蜘蛛宇宙人" はその傾斜に、長い間、横たわっていた

 ――蟻地獄の様に、底へと嵌り込む恐怖はない

 ――滑り落ちる程、傾斜はない。


 ゆるく

 ――仰向けにならず

 ――顔を動かさず

 天井を見る。

 《天井が見えた》

 ――気がした。

 黒かった。

 夜属性の黒ではなく、闇属性のテネーブル。

 "蜘蛛宇宙人" はその時


 《天井は、それほど高い所にはない》


 と考えた

 ――黒が濃すぎないのだ。

 背後から照らす光も

 ――天井そのものを照らさずとも

 その推論の手助けをしていた。


 そして

 ――その時になって

 ――光を辿って

 "蜘蛛宇宙人" は振り返る

 ――寝返りを打つ様に。




 振り返ると、ライトがあった

 ――宙ぶらり。

 ライトは下向きに吊るされていた。


 そして

 ――壁。

 平らな正方形ではなく、正方形を真ん中で折ってVの角度を作った様な壁

 ――パイをだいたい四等分した時の、内側。

 そこは

 《コンクリート製である》

 ――その様に、"蜘蛛宇宙人" の目には、見えた。

 岩の様な


 「ごつごつ」


 した印象は見当たらなかった。

 その

 ――ちょうどトランプを二枚、机の上に立てた様な

 角に


 「ぴたり」


 とはまる様にして、<光源>があった。 


 そして

 ――そここそ

 <デッドエンド>である。




 "蜘蛛宇宙人" はライトを掴もうと、片手を伸ばした

 ――手袋が見えた

 ――白かった。


 "蜘蛛宇宙人" は、伸ばしかけた手を床に置いた。


 普段から着用している黒革のガンではなかった。

 鞣した牛皮ですらなく、白く短いファーで覆われていた。

 薄暗い空間の中で

 ――光を受けて

 毛羽が小刻みに揺れている

 ――それは旅立つ前

 ――寂れた公園の隅

 ――雑草の中で頼りなく立つ一本足

 ――その上で群れる

 ――揺れる

 ――綿毛の様であった。

 しかし

 ――"蜘蛛宇宙人" の手の甲の上で

 ――ただ頭を左右に揺するだけ……

 そんな毛には

 ――綿毛そのものが常に持つ様な

 今にも旅立とうする気配はない

 ――そんな意志は、微塵もない。


 ファーはただ、抜け落ちるのを待っている。


 まだ見ぬどこかへ飛んで行き

 ――そこに根付き

 そこで芽を出してから

 ――いくつも季節を越え

 また綿毛を作る…。

 そんな回帰という運命に従いそうな暗示はなかった

 ――フェイクファーには、なかった。


 《ただ抜け落ち、ゴミとなるだけ………》


 そんな毛には、無駄に艶がある。

 フェイクファー特有の

 ――人工的で

 ――清潔な

 なまめかしさ。


 そしてそんな毛に、輝きはなかった。


 光のおこぼれを与っても、輝きはなかった。


 "蜘蛛宇宙人" は手袋を脱がなかった。

 大勢が

 「オカシイ!」

 と言い、

 家族が

 「脱げ!」

 と圧力を掛けてきた手袋を脱がなかった

 ――白ファーに変わっても。


 あたりに誰もいなくても、手袋を脱がなかった。


 《手袋の中に記した文字を見る必要はない

  ――見て確認する必要はない

  ――この頭の中にある…》




 "蜘蛛宇宙人" は半身を起こした

 ――這うように、デッドエンドに近づく。




 "蜘蛛宇宙人" は、下から手を伸ばし、ライトを手にとった

 ――そして、フックから外す。

 ライトの尻から生えた輪っかをフックから外すのに手間取った

 ――それでも何とか、終えた。



 "蜘蛛宇宙人" がライトを胸元に引き寄せ、持ち方を変える

 ――その時

 ライトの向きが

 ――"蜘蛛宇宙人" の動きに伴い

 自動的に変わる。

 その時

 ――床だけでなく

 ――デッドエンドの壁だけでなく

 天井もコンクリートで仕上げてある事が確認できた

 ――"蜘蛛宇宙人" の予想通り、天井はそれほど高い位置にはなかった事も、確認された。


 "蜘蛛宇宙人" はそのまま、ライトを別方向へ向ける

 ――"蜘蛛宇宙人" がそれから、<進むべき先>に向ける。

 その方角は、ちょうどデッドエンドの正反対にあった

 ――しかし、その方角は、対角ではない。




 ライトを先に向ける "蜘蛛宇宙人" は何も信じていなかった

 ――未来も

 ――希望も。

 "蜘蛛宇宙人" は、信じるのではなく、調べるのだ。



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