僕と彼女の思い出
「あ、あの、好きです」
誰もいない放課後の教室。何故か開いている窓から流れてくる、ピリッと冷たい風。そんな中で響く僕の男としては、高めの声。僕を見ていた彼女は、ただ
「はぁ。」
と呟いた。そして数秒の間を開け、丁寧に頭を下げて
「ごめんなさい」
そう言った。一応予想はしていたのだ。むしろ、ほとんど話したことの無い僕の話を聞いてくれただけでも、感謝しなければいけないかもしれない。だから
「そっか、ごめんね。でも、ありがとう」
これくらいしか言えないと思うんだ。でも彼女は僕のこの言葉がびっくりしたみたいで、綺麗な真っ黒の瞳でまじまじと僕を見つめた。
「……そんな反応されたの、初めてです」
じゃあ今までどんな風に言われてきたんだろう。でも高嶺の花の彼女だ。そんな彼女に告白するのは、よほどのバカしかいないのかもしてない。
「……星野の事、本当に好きなんです?」
そりゃ
「うん」
彼女は覚えていないかも知れないけど、出会いは中学校の入学式の日、一目惚れです。ちなみに今は、中学二年の二月。
「ふむぅ、」
なにを悩んでるんだろう。わかんないなー。
「ちなみに、」
「はっ、はい」
びっくりして声が裏返った。……恥ずかしい。でもそんなこと気にもとめずに、彼女はいった。
「記憶力に自信はおありで?」
うーん
「……人並みには?」
本当は、ちょっと違う。むしろ、記憶力に関しては自信があったりします。一度見たり聞いたりしたらほとんど忘れない。まぁ、これ以外特技はないだけどね。他は、ほとんど平均。でもなんで記憶力?
「なるほど。ではさきほどの返事、いったん忘れてください。とりあえず、今から遊びに行きましょう」
なにが、なるほどなのかよくわかんないし、言いたいことはいろいろあるんだけど、
「今からなの!?」
って、思うよ?だけど彼女は当然の用に
「そうです。それで、今日思い出作って……明日も覚えてたら……もう一回返事します」
そういうと彼女は僕の手を握って走り出した。今日は職員会議? とやらで一応校内に人はいないはずなんだけどさ、これ誰かに見られても良いのかなぁ? 僕は良いけどね。
ガタンゴトンと電車に揺られやってきたのは、最寄りの遊園地。なぜこのチョイスかと聞くと
「うーん、思い出と言ったら遊園地って感じしません?星野的にはですけど」
だそうです。もしかしたら彼女は僕が思ってたイメージと少し違うかもな。
遅くなったけどここで簡単に彼女こと、星野 零花 さんの説明をしたいと思いますっ。星野さんは、クラスでちょっと浮いてる子かな、って言ってもいじめられたりしてるわけじゃないんだ。ただ、なんというか、人を寄せ付けないオーラ? みたいなのをずっとまとってる。それにとっても美人さんだから、それも関係してるかも。
僕? うーん、勉強は中の上、星野さんには遠くおよばないし、背はギリギリ星野さんより高いくらい。唯一誇れるものは記憶力。仲のいい友達には、お前を一言で表すなら男の娘だなって言われた。意味を聞いても教えてくれなかったんだよな。
「ところで、星野はあなたの名前を知らないのですが、教えてもらえます?」
ちょっと、今の発言は傷ついた。一年近くクラスメートとして同じ教室にいたんだけど。
「えっと、七瀬です。七瀬 優樹って言います」
「了解、優樹ね。星野は、星野 零花って言います。零花でいいですよ」
うん、知ってる。そして、なんで最後のセリフをドヤ顔で言ったの? あと、いきなり名前呼びってハードル高くない!?
「うっ、うん、わかった。で、何から乗る?」
星n……零花さんはパンフレットを見て少し悩むと
「ジェットコースターがいいです」
と、普段見せないようなキラキラした笑顔で言った。僕としては構わないんだけどさ、電車の中で
『星野は高いところはきらいなのです…………』
って、話しかけてるのか、独り言か分からない声で呟いてたの覚えてるからね。
「ジっ、ジェットコースターがあんなにも恐ろしいものだったなんて……! 何で優樹教えてくれなかったんですか、遺憾の意です」
「うん、なんかごめん」
なぜだか零花さんは、ジェットコースターなるものを知らなかったらしいです。目が死んでたもんね、落ちるとき。
「まぁ、星野は心がとっても広いので許してあげますよ……次はコーヒーカップですかね!」
今日の零花さんの表情はコロコロと変わる。僕はそれに少し優越感を感じながら、先を走っていく零花さんの後を追いかけた。
「そろそろ、帰る?」
「そうですね、星野も行きたいところはほとんど行きましたよ。満足です」
そういうと、また零花さんは最初と同じように僕の手を引っ張って駅まで歩いた。
帰りの電車では、行きでは考えられないほど話しが弾んだ。あれが楽しかったとか、面白かったとか。思い付きで行った割には、いろんな所を回れたとか。そんなことを話しているとすぐに降りる駅に着いた。
「優樹は星野が言ったこと、覚えてます?」
「どれ?」
そうきくと零花さんは、少し困ったようにいった。
「告白の返事です」
あったね、僕の中ではもうフラれたことになってたよ?
「星野は、優樹のこと嫌いじゃないです。むしろ、数少ないスキの部類に入ります。だから、明日まで覚えていてください、今日の事を。思い出を。」
忘れるわけがないと思う。きょとんとしている僕を見て、零花さんは少し笑っれからこう切り出した。
「あのですね、星野との思い出は次の日になると、みんな全部忘れちゃうんです。これ冗談じゃないですからね? 理由……は今はいいです、長くなりますし。」
何も言えない僕に向かって、今日一番の笑顔でこう言った。
「記憶力いいんですよね?なら、星野とのこと忘れないで。明日また、いやこれからもこうやって、話がしたいんです。」
それだけ言うと零花さんは、歩いて行ってしまった。それでも僕はただそこに立ち尽くしていた。
朝の挨拶が行きかう廊下。そこを少し、いや、とても緊張しながら早歩きで歩いて行った。二年の自分の教室の前で少し深呼吸をする。スー、ハー。よしっ、と覚悟を決めドアを開ける。
いた。私は、彼のいるところまでゆっくりと歩いていく。至極自然に
「優樹、おはよう」
一言だけ言った。でも、忘れてしまっているだろう。昨日のことは。だけど私には、もしかしたら彼は、なんて浅はかな希望を持っていた。そう思えるほど、彼との時間は楽しかったから。
「おはよう、零花さん」
そういうと彼はえへへって、いたずらっぽく笑った。
「ちゃんと覚えてるから!」
嬉しそうにそういう彼に、私は耐え切れず泣き出してしまった。とても、不安だった。どうしようと慌てふためく彼に私は、どうしても伝えたかった言葉を言った。
「ありがとう」
はじめまして。本田優夏と申します。
小説かいたのは、初めてです!
至らないところ多くあると思うのですが、よろしくお願いします