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二周目の転生勇者は魔王サイドにつきました。  作者: さな
二周目の転生勇者は魔王サイドにつきました。
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ソーマと傭兵




魔族の中に突っ込んでいった俺たちは必死だった。

教えられた剣術や魔術を名一杯駆使して、リィーヤとアルカのフォローに助けられ、魔族を制圧していく。


幸いにも商隊の傭兵たちはベテランで魔族と同等に渡りあっていた。いや、同等に戦えるからこそこの道を通ったのだろう。


「ゴメンねぇ、なんか手伝わせちゃってぇ」


おネエ系の傭兵が言った。見事に巻かれた髪を振り乱し、魔族を一人切り捨てる。


「いえ……」


その不思議にも様になっている様子に、俺はなんともいえない気持ちになる。

っていうか、俺たち必要なかったんじゃないだろうか?


「ウチの頭がね、どうしてもミラコスタの王都に行きたいって言って聞かなくて………ホントに子どもみたいにただこねるもんだから、アタシたちが折れたのよぅ」


俺は向かってくる魔族の剣を受け止める。すかさず、おネエ傭兵がその魔族を背中から叩き斬った。しかも、おっとりと喋りながら……。


「でね、あれだけ言ってたのに、出発した瞬間グースカ寝てるのよぅ。――今も」


「今も!?」


この怒号飛び交う中寝るとかどんな神経してんだよ!

思わず荷台の方を振り返ってしまった。その視界の端に弓を構える魔族が見えた。

射手のその矢の先には、荷台を背に戦うカレンがいた。カレンは射手の存在に気づいていない。


「カレン!!―――サラっ、カレンを」


サラに言い終わる前に矢が放たれる。俺は間に合わないと知りながらも飛び出した。

全ての喧騒がかき消えて、矢がスローモーションでカレンに向かっていく。

伸ばした手はほど遠かった。


しかし、矢がカレンにあたる瞬間、にょきりと出てきた手が矢をつかんだ。

その手は荷台から生えている。


「ひゃわっ!?」


カレンが突如現れた腕と矢に妙な悲鳴をあげた。やがて荷台から大柄な男が現れた。


「……ん?何で魔族と戦ってんの?」


「何でって襲われたからよぅ」


「なんだと?襲われたんなら起こせよっ」


「起こしたけど起きなかったのよぅ!」


どうやらおネエ傭兵が言っていた頭のおかげで助かったようだ。褐色の肌に灰色の髪、瞳は砂色の大変美丈夫な頭はアラビアンな衣装を身に纏っていて、腰にある湾刀をすらりと抜いた。


「ちゃんと起きるまで起こせよなぁ。つーかコイツらは何?…あ!アンタら勇者じゃね?」


なんか傭兵の方々に助けてもらいまくっていて、勇者ですって名乗るのもおこがましいような気がする。

返事をしかねている俺などかまわないのか、頭は更に質問してくる。


「俺はアシュマだ。アンタら勇者だろ?異界からきた三人の勇者って聞いてるけど、三人目は?」


勇者のことはそれなりに広まっているらしい。それよりも三人目と聞いて俺とカレンからどんよりとした空気が放たれ出した。


「なんか葬式の如く辛気くさい空気が流れてくんだけど……」


「ゆきちゃんは……魔族に拐われちゃって……」


「……行方不明なんだ」


沈んだ表情をした俺たちにアシュマとおネエ傭兵は若干ひいている気がする。

おそらくゆきのことだから無事だろうけど、心配だ。


「――まぁ、異界の知識でどうにかしてるんじゃないか?」


「そうよ、人間死ぬ気になればなんだってできるものよぅ」


おざなりな慰めをもらっていると―――


「ソーマ!カレン!何をしている!」


リィーヤから叱責が飛んでくる。そして、傭兵の一人が叫んだ。


「新手がくるぞ!あれは…魔王軍だ!!」


―――魔王軍

その言葉と共に大きな影がよぎり、強風を巻き起こされた。


空から降ってきたのは3つの大きな影。鳶色や紫色といったド派手な羽を持つ怪鳥だった。地面に降り立った怪鳥は男たちをのせていた。

軍服っぽいかっちりとした黒の衣装を身に纏い、真ん中の一人だけ深緑のラインが入った男が声を上げる。


「――いつまでやってるつもり?」


決して大きくないその声に魔族たちは静まりかえる。一気に硬直状態になったこの場で口を開いたのはアシュマだった。


「何で魔王軍がこんなところにまで出っ張ってきてんだ?山賊まがいのことをするためにご苦労なこった」


アシュマに気負った感じはなかった。むしろからかっているような、面白がっているような気がする。


「山賊まがい?違う。俺は卑しき人間から魔族を奪い返しに来たのだ」


鋭い瞳がアシュマを射る。その瞳の瞳孔は針のように細長い。


「軍紀に反してまでか?今の魔王は人間の大陸に入ることは禁止しているはずだろ」


魔王が人間の大陸への出入り禁止を言い渡していたなんて、知らない。アシュマはなぜそんなことを知っているのだろうか。それ以前に魔族を奪い返すとはどういうわけなのか。


「今の魔王は魔族を見捨てるつもり……だから、俺が救い出す」


「ふーん、先走っただけに見えるけど?」


アシュマが意味深に上空を見上げた。その時―――


再び三体の怪鳥が現れた。


怪鳥から飛び降りた3つの影が俺たちと魔族の間に入り込む。彼らは俺たちに背を向けていた。金のまだらの髪をした軍服を着た二人に黒い外套で顔も体格も不明な者が一人。軍服を着た一人に入っているラインの色は紅だった。


「―――隊長アフガント及びその部下、そして全ての魔族に告ぐ。我らが魔の大陸に直ちに帰還せよ。そこにて、然るべき処罰を下す」


紅ラインの軍服の青年が言った。魔族たちは動揺していた。そして、すがるように深緑のラインが入った青年に目を向ける。


「既に軍紀に反しているあんたに止める権利はない」


二人の青年はにらみ合い、妙な緊張を孕んだ。


「逃げるわよぅ……」


そんな中、おネエ傭兵が小声で俺とカレンに伝えてくる。視線だけを動かせば既に傭兵たちは荷台の方に集まっていた。リィーヤたちも馬車の近くにいて、合図を送ってくる。


「私も追って処罰が下されるだろう。魔王様の本意に従うのが我ら魔王軍である。しかも、この人間共を見るに魔族を連れてはいないようだが?」


「人間共は皆同罪だ。魔族を貶めた人間に裁きを下すのは当然のこと」


「裁きを下すのは魔王様だ。履き違えるな」


紅ラインの青年はこちらに視線を寄越した。


「人間共はここを去れ」


なにやらあとから来た三人は俺たちを見逃してくれるようだ。しかし……


「勝手なことをしないでくれる?――人間共を逃がすな」


深緑ラインの青年が俺たちを逃がさない。命じられた山賊まがいの魔族が言われるままに動きだす。


「全員、荷台の方に乗れ!強行突破だ!」


アシュマが大声を張り上げた。その声が嬉々としてるのは気のせいだろうか?

急いで俺たちは荷台に乗る。リィーヤたちも馬車を捨てて荷台に乗り込んだ。


「でてこい、ルーナ!ニール!」


アシュマの声に応じたのは2体の精霊だ。どちらも小人サイズで蝶の羽を生やした風の精霊と人魚のような水の精霊がアシュマの肩に乗る。


「「いきますよ~!」」


声を揃えた精霊は風と霧を巻きおこし、視界を完全にふさいでしまう。

それと同時に馬が嘶き荷台が動きだす。


「―――逃さない」


深緑ラインの青年の声がした。と思ったら、彼が荷台に飛び移ろうとしていた!

いち早く気づいたアシュマが湾刀を振るおうとしたが、なぜか動きを止めた。

その青年が荷台に辿り着く前に黒い影が青年に蹴りを放つ。かろうじて青年はガードしたものの空中だったこともあり、後ろに吹き飛ばされる。影は黒い外套をきた魔族だった。

その魔族は掌の上に魔方陣…いや、術式を描き出し、荷台に放つ。それは、荷台に張り付くと半透明の結界を生み出した。


俺たちはその後、魔族たちに追われることなく、その場を脱出したのだった。

あの術式には荷台ごと俺たちの姿を消す効果が含まれていたらしい。


◇◇◇◇◇


俺たちはミラコスタ国内に戻り、宿をとっていた。

魔族たちのいざこざの行方は気にはなったが、アシュマによればすぐに解決するだろうと言っていた。深緑ラインの軍服は隊長の証であり、紅ラインの軍服は魔王側近でその側近は戦闘力が高いらしいので、山賊まがいの魔族たちはまもなく鎮圧されるようだった。

念のために明日、リィーヤたちと様子を見に行くことになっている。


「おーい!ソーマ、カレン、こっちにこいよ」


食堂でアシュマが呼んでいる。アシュマたち一行は傭兵を兼ねた商人なのだそうだ。


「勇者って聞いたけど、おまえらはまだ子どもだな。キールが勇者になったのが十四歳だったからそんなもんか」


「頭は前の勇者と知り合いらしいのよ。真偽のほどはわからないけどねぇ」


おネエ傭兵…もといルーディがちゃちゃを入れる。


「キールさんってどんな人だったんですか?」


興味をひかれたらしいカレンが問うた。


「んー…一言で言うなら世間知らず、だな。あんまり人間の汚ないところを知らないやつで自分と契約した精霊さえいればそれでよかったやつだ」


「?キールさんの精霊って?」


「闇の五大精霊 シヴァ、五大精霊の中で最も厄介な能力を持ったヤツでな。キールを溺愛していたよ。世間知らずなのはそいつのせいだな。キールがシヴァと契約したのは幼い頃で、キールはほとんどシヴァに育てられたようなものだ」


シヴァ?どこかで聞いたことがある。疑問に思っていたところ……


―――……前に、会った。魔族の、子を連れていった……


心の中が筒抜けなことでサラが答えた。

言われて見れば、黒髪に金の瞳の超絶美形だった覚えがある。


―――……シヴァは、キール以外、相手にしない……


いつになく饒舌なサラの言った通りなら、教会で会ったときにシヴァが言った我が主とは誰なのか?実はキールは生きてました!…とかいうオチか?

疑問は増えるばかりだ。


百面相していたらしい俺は気づけばカレンの顔がドアップになっていて、思わずのけぞった。


「蒼馬くんはいいなぁ。サラちゃんとお話しできて……ティルカなんて呼んでも十回に一回くらいしか返事してくれないし、あいさつしただけですぐ引っ込んじゃうんだよ」


「……進歩した方じゃないか?」


何しろ最初は全く話ができなかったのだから。けれど、カレンは不服そうだ。


しばらく食堂で他愛ない話をした後、俺たちは部屋に引き上げた。


◇◇◇◇◇


今日は魔族と戦ったけど、周りにフォローされるばかりだったな。これで勇者をやっていけるのか甚だ不安だ。

部屋に戻った俺は何気なく窓を開けて、空を眺めていた。

すると、宿の裏手…木陰にアシュマが佇んでいるのを見つけた。声をかけようとしたが、彼の掌に術式が浮かび上がっているのを見てとり、俺ははっと息をのむ。


「……ああ、キールと接触した…」


キール……?

アシュマは術式で誰かと話をしているようである。風に運ばれてきた声ははっきりと聞き取れた。


「魔族といるってことはおチビのとこに行ったんだろ?―――ティタニア」


「うん、おチビから連絡きてるよ~。教会をぶっ潰してやるって~」


術式からは間延びした女の声が聞こえてきた。彼らの会話によれば、キールは生きているようではあるが、だとしたら何故教会と敵対するのだろうか?


「とりあえず~、アシュマは王都にいてね~。でもしばらくは手出し無用だから~」


「りょーかい」


アシュマの掌の術式が消える。俺は反射的にしゃがんで隠れた。聞いてはいけないものを聞いてしまったような……妙に胸がざわめく。

ってか、昼間の黒外套といい、アシュマといい、術式をぽんぽん使い過ぎじゃあないだろうか?術式って超難易度高かったはずなのだが………。


「………何してるの?」


部屋に戻ってきたアルカが床に座り込んでいる俺を見て、首をかしげた。








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