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二周目の転生勇者は魔王サイドにつきました。  作者: さな
二周目の転生勇者は魔王サイドにつきました。
6/55

アマギと魔王軍

異世界逗留、6日目。


私は王都の平民街にくり出していた。市場に寄ってみると、そこは活気に溢れている。さすがのシヴァも茶菓子以外の食料を買い足してはいなかったので、色々と買い出ししなければならない。まずは陰倉庫においてある宝石類の換金からだ。

キールの蓄えは、一生遊んで暮らせるくらいあるのだ。


傭兵ギルド内にある換金所が一番換金率がよかったはず。勇者だった頃と違って私の顔は売れていないので、下をみられるかもしれない。けれど、できるだけ資金を節約しておきたい。私がこれからしようとしていることは改革だ。資金は多いほどよい。


私は煙草と汗と酒の匂いが充満した傭兵ギルドに足を踏み入れた。男臭がハンパない……。

案の定、私は早くも男たちに絡まれた。


「見かけない顔だね、何の用かなぁ?」


優男が私の顔を覗きこみ、小さく上玉だ、と呟いた。


「用があるのは換金所なので」


周りの男たちが下卑た顔で私の方に注目している。随分と治安が悪くなったものだ。

私は優男の横をすり抜ける。しかし、やはりというべきか…肩を掴まれた。


「俺って換金所のオヤジに顔が利くんだよね。だからさぁ、ちょっとお礼してくれるんなら協力してあげるけど?」


「お断り。さっさと手を離してくれないかしら」


「そう言わずにさぁ~、どうせお金に困ってんだろう?なんならおこづかいあげてもいいよ」


―――しつこい。ぶちのめしたいところではあるが、目立ちたくない……なら、後で闇討ちでもしようか?

私が優男の制裁の仕方について迷っていると……


「何をしてる!」


凜とした女の声が割って入った。優男が舌打ちし、周りの男たちも一斉に白けた顔になる。

そこにいたのは、長身の女性だった。蜂蜜色の髪に冷たく鋭い彫刻のように整った美貌の主で、彼女も傭兵ギルドの一員なのかしなやかな肢体に男ものの服をまとっている。

優男を睨みつけた彼女はこちらにつかつかと詰めよってきた。そして、私の肩にあった優男の手を払い落とす。


「あ~あ、萎えた。いっつも邪魔しやがって……俺は楽しく女の子を口説いてただけだってのに――ねぇ?」


優男はへらへらと私に同意を求めてくる。楽しいのはアンタだけだ。私は優男を無視して、女傭兵に微笑を浮かべた。


「どうも、助かりました」


そして、ちょこんと頭を下げると今度こそ換金所の受付に行く。優男が後ろで何か言っていたが、女傭兵に足止めされているようだ。


「あんた、運がよかったな。リィーヤさんが帰ってきていて……」


換金所の男が言った。女傭兵の名はリィーヤというらしい。傭兵ギルド一の実力を持つそうだ。

私は話を聞き流しながら、宝石類が入った袋を手渡す。


「ったく、ギルドの長が変わってからというもの…ならず者みたいになっちまってよ――って!なんだこりゃ!?」


「静かに迅速にお願いします」


えっこれ、全部宝石……動転しながらも長年の癖でしっかり鑑定していく。まもなくして鑑定が終わると金貨がぎっしり詰まった拳大の袋が2つ手渡された。


「金貨、120枚だ。奪われんなよ」


「ご心配なく」


予想よりも少し多めの金貨が手に入った。袋を懐にしまいギルドの出口に向かう。性懲りもなく男たちの値踏みするような視線が向けられる。


「君はどこに住んでいるんだ?送っていこう」


私が狼の群れに囲まれた羊にでも見えたのだろう。見かねたリィーヤがそう申し出た。


「結構です。………魔術師なので」


断りを入れてから、リィーヤだけに聞こえるよう囁く。彼女は少し目を見開いたあと、では気をつけて、と外まで見送ってくれた。


「おお、リィーヤじゃねぇの」


外に出たところでまた2、3人の男たちに囲まれた。無精髭を生やしたガタイのいいリーダーっぽい男がにたにたと笑い、私に視線を向ける。


「ゲイル、私に何の用だ?」


その男 ゲイルの視線を遮るようにリィーヤは私の前に立つ。そのさりげなく庇う行動をするリィーヤは男より男前だ。


「相変わらず呼び捨てかよ、仮にも俺はマスターだろ」


「貴様がマスターなど虫ずがはしる」


ゲイルは馴れ馴れしくリィーヤの肩に手を置く。リィーヤは間髪入れずにその手を振り払った。


「いつまでも強気だなぁ……だが、俺は教会承認済みのマスターだ。――俺の気にくわねぇやつは除名したっていいんだぜ」


教会承認ということはこのゲイルも教会の回し者か。私はリィーヤの後ろから男たちの様子を伺う。すると、男たちの一人が妙な麻袋を担いでいた。妙、というのはその麻袋がもぞもぞ動いているからだ。誘拐犯か……。


リィーヤも同じことに気がついたらしい。ゲイルに向ける目がいっそう冷ややかになった。


「見損なったぞ、ゲイル。白昼堂々誘拐とはいい度胸だな」


「ああ、これのことか―――おい!一度出して黙らせろ!」


ゲイルは麻袋を担ぐ男に言って、中を見せた。出てきたのは14、5歳くらいの少年だった。その少年の顔は泥で汚していても整っていることが見てとれた。


「こいつは貴族のとこから逃げ出した、魔族の捕虜だ。捕まえんのに苦労したぜ」


やはり魔族だった。どうやってその少年を男たちからかっさらってやろうか……。

考えている私の視線の先で少年が男に噛み付いた。そして、男が怯んだ隙に逃げ出す。腕を前で縛られ走りにくそうではあったが、彼は必死に人混みの中を駆けていく。

男たちが慌てて少年を追いかける。私も少年の後を追った。


少年はほどなくして、男二人に袋小路に追い詰められていた。ゲイルは追わなかったようだ。おそらくリィーヤを引き留めるためだろう。

ここなら人目につかない。少々暴れても大丈夫なはずだ。


「―――少し聞きたいのだけれど、貴方たちは教会の仕事も受け付けているの?」


「なんだ、さっきの女じゃねぇか」


リィーヤだとでも思ったのだろうか。男たちはあからさまに私を見下す。


「そうさ、教会からの依頼は報酬が多いんだぜ。内容も魔族の子どもを連れてきたらいいだけだし……明日も教会に子どもを引き渡す予定だしな」


「おいおい、あんましゃべってんじゃねぇよ!」


「大丈夫だって!こんな女が一人喚いたところでどうにもならないって!」


口が軽くて助かった。聞きたいことは聞いたので、さっさと少年を連れていこうか。

と思ったら、またもや少年が先に動いていた。男たちの注意が私にそれたのを見計らって、少年が二人の間を通り抜けようとする。

しかし、腐っても傭兵だ。一人の男が少年を蹴りとばした。そして、そのまま暴行加えようとする。私は即座に割って入った。


「なんだ?魔族を庇うってのか?」


「それもあるけど、第一は教会の邪魔をするためよ」


私は影倉庫から大ぶりのナイフを取り出した。


「はっ!やろうってのかよ!痛いめ見ても知らねぇぜ!!」


男たちは自らやられ役のフラグを立てた。一人が私に殴りがかってくる。私はその拳を受け流し、ナイフの柄を首筋に叩き込む。魔力を使うまでもなく男の意識を奪った。日本でも鍛練は欠かしていない。


「くそ!」


ようやく私を警戒した残りの男が腰にさしていた剣を抜いた。そして、私に斬りかかってくる。私はナイフでそれを受けとめ、力を流す。そのまま姿勢を崩した男の懐に入り込み、魔力をこめた拳をつきだす。男は壁に叩きつけられ、意識を失った。

かなりちょろい。


「じっとしてて」


その後、よほど私が男二人を倒したことが意外だったのか、呆然としてる少年の縄をナイフで切り裂く。


「一応言っておくけど、私は教会の敵よ。だから、魔族を害することはないわ」


少年はあまり話を聞いていないようだったが、彼の頬がみるみる紅潮していき、瞳はキラキラ輝いていく―――そして、


「あ、姐さんって呼んでいいっすか!?おおお、俺はレトっていいます!どうかっ俺を子分にして下さい!」


却下だ。

とりあえず私は影の空間を使ってレトを屋敷に連れ帰った。


◇◇◇◇◇


異世界逗留 7日目、


昨日、傭兵が言っていた教会との取引現場をおさえようと私は教会を見張っていた。

私は裏口、レトは表に身を隠している。レトには危なくなったらすぐに逃げるよう言ってある。しかし、待てども待てども傭兵たちは現れない。魔族の子どもが入れられてそうな積み荷も運ばれてこない。


そうこうしているうちについに、夜中になった。私の疲労はピークである。レトは屋敷に帰らせ、あとは表に魔族を感知する術式を仕掛けた。


諦めて撤収するか、と思い始めたとき、それは起こった―――


突然、裏口の扉の奥が騒がしくなったのだ。私は扉に張り付いて耳をすます。はたから見たら不審者だがこの際仕方がない。


「おい!何休んでやがる!魔族のガキが逃げた、探せ!」


すると、ゲイルの声が聞こえてきた。そして、慌ただしく男たちが去っていく。

いつの間に教会内に入ったのだろうか?口ぶりからして魔族の子どもも教会にいるようだ。レトが顔を知っているゲイルを見逃すはずがない。居眠りをしてなかったらだが……。

とにかく、今は魔族の子どもを助け出す絶好の機会だ。私は侵入した形跡がつかないよう術式で扉を開け、中に入り込んだ。


黒い外套を纏い、フードを深くかぶり私はできるだけ夜陰に紛れるように努める。

男たちの怒声とは逆の方向に進み、気配を探っていく。

しばらくして私は複数の気配を捉えた。


「…どうしたの?」


聞き覚えのある声に私は足を止め、木陰から様子を伺った。今のは間違いなくカレンの声だった。思ったとおり、カレンがいた。なにやら蹲る魔族の少女に話かけている。そばには蒼馬と彼の手をつなぐふわふわ髪の少女がいた。まさか、風の五大精霊 サラなのか!私は驚いて彼女を凝視した。


「間違いありませんね」


具現化したシヴァが私に言った。五大精霊がついているのなら、蒼馬の安全は保証される。カレンは蒼馬が守るだろう。


「どうします?魔族は私が連れていきましょうか?」


確かに私が幼なじみたちに会うのは得策ではない。私はこれから教会をぶっ潰すつもりであるし、何故そんなことをするのか、と問われたらいくらでも取り繕えるが、彼らには嘘をつきたくはない。私が勇者 キールの生まれ変わりだなんて言ったところで誰も信じないだろう。


―――だから、これでいいのだ。

全てを終わらせて幼なじみたちを元の世界に返す。私はここに残る。シヴァと再会する前なら私も元の世界に戻っただろう。しかし、私がキールでもあるとシヴァに会うことで自覚させられた。

教会のことだけでなく、キールにはやらなければならないことが残っている。


私の伺う先で魔族の少年が現れた。


「シヴァ、あの二人を屋敷に運んで………私は他を見てくる」


「分かりました」


シヴァが一礼する。私はすぐに背を向けて、走り出した。


―――カレン、蒼馬……私はもう日本には帰らない。


◇◇◇◇◇


教会に連れてこられた魔族は二人だけだったようだ。傭兵の一人を締め上げて吐かせたので間違いないだろう。


屋敷のリビングに魔族たちは集まっていた。


「アマギさん!」


帰ってきた私に気付いたレトが声をあげる。


「聞いて下さい、コイツらアマギさんが人間なのが気にくわないらしいんっすよ」


「当然だ。魔族を家畜にする人間を慕う貴様の気が知れん」


ずいぶんと尊大な少年だった。まるで、言動と容姿があっていない………と思って気づく。


「貴方たちは姿を変えているのね」


魔族は変化が得意である。中にはドラゴンにまで変化できる者もいる。この魔族の少年少女は子どもに変化したが、魔力を封じる術式を施され、元に戻れなくなったのだろう。

レトにも魔力を封じる術式があったので、昨日のうちに解除しておいた。


「先に術式を解除するわ」


「……貴様にそんなことができるのか?」


半信半疑の少年に近づき、私は一気に服を剥ぐ。少年のわき腹に術式はあった。そこに手をおいて私はシヴァの力を発動させる。闇属性の魔術の本質は“呑み込む”ことだ。私は術式だけを呑み込む。手を離せば痛々しい焼き印のあとごと術式は消え去った。


「次は貴方ね、どこにあるの?」


さすがに少女の服を剥ぐわけにはいかない。先に少年の術式が消えたのを見ていただけあって、少女は素直にその肌をさらした。少女の術式は左肩にあった。

私は同じように術式を消し去る。


まもなくして二人は元の姿に戻った。

どちらも二十歳前後といった容姿をしており、揃いの服を着こんでいた。

それは、魔王軍の軍服だった。


「…えっと、魔術師の人、助けてくれてありがとね―――王都に潜入するつもりだったのに、突然魔力なくなっちゃってびっくりして、つい泣いてしまったけど……あたしは魔王軍の新人 シェリルっていうの」


少女だった魔族が名乗った。軍服には白のラインが入っている。一般兵の軍服だ。


「で、貴様は何故魔族を匿っている?」


少年だった魔族はやはり尊大に尋ねてくる。軍服には紅のラインが入っていた。魔王側近の軍服だ。


「ちょっと!兄さん!助けてもらったんだし、そんな態度はないでしょうっ!」


「………魔王様の側近 シェイドだ」


シェリルに諫められ、シェイドは名乗るだけはした。魔王の側近はプライドが高いらしい。


「私は天城。私は教会の権威失墜内部崩壊はもちろんのこと、完膚無きまでに腐った教会を消し去りたいの」


「なるほど、我らを匿ったのは教会の邪魔をするためか」


「それもあるけれど、私は魔王への足がかりを探していたのよ」


「どういう意味だ?魔王様に害をなす者はこの場で排除するぞ」


「魔王と手を組むためよ。私は教会を潰したい、貴方たちも奴隷にされた同族を解放したいでしょう?」


「貴様は同族の居場所を把握しているとでもいうのか」


「ええ。王都に結界が張られているのは知っているわね?教会の中心にその結界を維持する結晶型の術式があるの。一度結界を通る際に魔族ならその名と魔力が記録されるようなっているわ。それを私なら解析でき、魔族を完璧に把握できる。まあ、それ以外にも魔族購入者の名簿があるわ」


シェイドは私の言葉の真偽を吟味している。そこに影倉庫からジェラールからもらっておいたリストを彼に手渡した。


「……あなた、こんなのを手に入れるツテがあるの?」


シェリルもリストを覗きこみながら、驚きを露に呟く。私は頷いた。これで私が本気で教会を潰す気だと伝わればいいが……。


「それで、決断したかしら?私と手を結ぶか結ばないのか」


私は手を伸ばした。


「時間が欲しいのなら、いくらでも待つわ―――どうする?」


「………いや、これは我らだけでは判断できない。もし貴様が魔王城に単身で来るというなら、私が魔王様の謁見を準備してやろう」


その言葉に私は薄く微笑んだ。正直、側近にいくら私と組むメッリトを話しても意味がないのだ。やはり、トップである魔王に話してこそ価値が生まれるもなのだ。


私は魔王城へ行くことになった。魔王に会うために―――



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